IN GOVERNANCE · ISSUE 560

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆の3本の脚が支えているコンソールテーブル● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

誠実さは研修で育つ、という声と、研修では身につかない、という声があります。この号は、誠実さを組織の文化にすることを6点で確かめます。組織の倫理の仕組みと文化を調べた実証3本(うち1本は文化を測るものさしを作った研究)、倫理的なリーダーシップの研究の総説1本、実務誌の論考1本、組織の腐敗を扱った理論の論文1本です。

先に向きを言うと、倫理の仕組みを調べた研究では、仕組みのある組織ほど非倫理的な行動が少なく、研修とコミュニケーションは、その少なさと直接に結びつく五つの要素の一つでした。最も強く結びついたのは説明責任の方針です。研修だけで足りるとも、無駄だとも読めません。この号は、研修や仕組みの設計を勧めず、海外の調査を日本の小さな組織に当てはめません。

2008年の研究は、互いに連なる4つの実証研究から、組織の倫理の文化を測るものさしを作り、8つの下位尺度を示しました。基準の明確さ、直属の上司の言行の一致、経営陣の言行の一致、正しく振る舞える条件、支え、行動の見えやすさ、倫理を話し合える開かれ、報いと罰です。できあがったのは58問の自己回答の質問紙でした。

作業論文版では4つのうち3つはオランダの組織での調査で、著者は “Further testing in other countries and continents is needed”(ほかの国や大陸でのさらなる検証が必要だ)と書いています。

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗いガラスに自分の姿を映しながら街の明かりのほうを見ている、黒いスーツの女性
明確さ、上に立つ人の一致、話し合える開かれ。文化を、八つの物差しに分けて測る。 Visual: ALIFE

文化が測れるなら、問いは二つです。倫理の仕組みのうち、どれが非倫理的な行動の少なさと結びつくのか。文化の8つの側面のうち、どれが結びつくのか。

01倫理の仕組みのある組織ほど、観察された非倫理的な行動が少なかった。2015年の調査は、倫理の仕組みを9つの構成要素に分けて調べ、仕組みのある組織では無い組織より非倫理的な行動が少なく、採り入れた要素の数が多いほど、観察された非倫理的な行動が少なかったと報告しました。

02研修とコミュニケーションは、直接に結びつく五つの要素の一つだった。採り入れる順として最もよいのは、倫理の規範、研修とコミュニケーション、説明責任の方針、監視と監査、調査と是正の方針の順で、 “all of which are directly related to less unethical behavior”(いずれも非倫理的な行動の少なさと直接に関係する)と書いています。その後に続く倫理の担当者、通報の窓口、報奨の方針は、間接の関係でした。

03最も強く結びついたのは説明責任の方針で、採用前のふるい分けだけは関係が見られなかった。9つの要素のうち、採用前のふるい分けと非倫理的な行動には関係が見られませんでした。それを除けば、この順は米国の組織が仕組みを採り入れてきた順とよく重なる、と述べています。この調査で研修は、規範や説明責任と並ぶ部品の一つとして数えられています。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆の3本の脚が支えているコンソールテーブル
規範、研修と伝達、説明責任。直接に結びつく五つの要素の、最初の三つ。 Visual: ALIFE

2011年の調査は、管理職1人と直属の部下2人を1組とする341組を対象に、文化の8つの側面と、観察された非倫理的な行動との関係を調べました。六つの側面が行動の少なさと結びつき、二つは有意な関係が見られませんでした。

01経営陣の手本と、直属の上司の手本。結びついた六つのうち二つは、上に立つ人の倫理的な手本で、経営陣と直属の上司は別々の側面として数えられています。どちらも、観察された非倫理的な行動が少ない向きでした。

02振る舞える条件、組織の本気度、話し合える開かれ、良い行いへの後押し。残りの四つは、倫理的に振る舞える力と条件、倫理的に振る舞おうとする本気度、倫理の問題を話し合える開かれ、倫理的な行いを後押しすることでした。著者は、非倫理的な行動を減らすには複数の側面をあわせて考える必要がある、と結んでいます。

03基準の明確さと、行動の見えやすさは、関係が見られなかった。要旨は “clarity of ethical standards and visibility of (un)ethical behavior, were not significantly related to unethical behavior”(倫理の基準の明確さと行動の見えやすさは、非倫理的な行動と有意な関係がなかった)と書いています。基準がはっきりしているかどうかは、この調査では行動の少なさと結びつきませんでした。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
上に立つ人の手本、話し合える場、良い行いへの後押し。結びついた側面を、三つの場面に分けて並べる。 Visual: ALIFE

3本の実証はどれも組織を観察した調査で、研修を入れたから行動が減った、とまでは言えません。ものさしの研究はオランダの組織が中心です。2015年の調査は、要旨からは標本の国を確かめられず、米国の組織の採用の順に触れるだけで、2011年の調査の国も要旨にありません。日本の小さな組織を調べたものは、読めた範囲にありません。

全文まで読めたのは6点のうち1点です。読めていないものについては書きません。組織の腐敗の過程での道徳的な離脱を描いた理論の論文は、題名までしか読めていません。この号は、倫理の研修や仕組みの設計を勧めず、個々の組織の判断もしません。

倫理の仕組みを調べた研究では、
研修とコミュニケーションは、
非倫理的な行動の少なさと直接に結びつく
五つの要素の一つだった。
最も強く結びついたのは、説明責任の方針。

仕組みか手本か、の二択にもなっていません。実務誌の論考は、倫理的な企業文化の核を3つ挙げ、組織に浸透した中核の価値と、上に立つ人の倫理的なリーダーシップに並べて、 “a formal ethics program, including a code of ethics, ethics training, an ethics hotline, and an ethics officer”(倫理の規範、研修、相談の窓口、担当者を含む公式の倫理プログラム)を置いて論じました。倫理的なリーダーシップの総説は、部下から倫理的と見られる上司の行動と、その効果や文脈の役割を整理しています。

シラバス側は、誠実さは研修で教えられるという見方を俗説とし、研修は知と行いの溝の手前までしか連れて行けないと書きますが、読めた範囲では、研修は行動の少なさと直接に結びつく要素の一つとして報告され、論考も研修を核の一部に含めています。文化の側面として基準の明確さを挙げる点も、2011年の調査では有意な関係がありませんでした。

TRY IT TODAY

  1. 01DATE

    今日の日付と、自分の組織(数人の店や事務所でもよい)で誠実さが問われる日々の場面を一つ書く(失敗を正直に報告されたとき、都合の悪い事実を聞いたとき、自分だけ決まりの例外にしそうなときなど)。

  2. 02LOG

    その場面で、自分が実際にどう振る舞いがちかを一行で書く。掲げている決まりや言葉があれば、それも書き添える。

  3. 03SORT

    書いた振る舞いを「決まり」「伝え方と学ぶ機会」「説明の責任」「上に立つ人の手本」「話し合える場」「報いと罰」のどれに関わるかで分ける。良し悪しは決めない。

10分。点検するのは自分の振る舞いだけで、他人を評価せず、通報や不祥事の当事者の個人情報・実名は書きません。これは研究結果そのものではなく、自分の組織の場面を記録してみるためにALIFEが提案する実践入口です。労務や法令に関わる個別の判断は、専門家へ。

この号が運べたのは三段です。倫理の仕組みの調査では、研修とコミュニケーションが直接に結びつく五つの要素の一つで、最も強かったのは説明責任の方針だったこと。341組の調査では、上に立つ人の手本など六つの側面が結びつき、基準の明確さと行動の見えやすさは結びつかなかったこと。論考と総説が、公式の仕組みと上に立つ人のリーダーシップを並べて扱っていること。

この群は、攻めと守りの方針から始まり、洗い出し、優先順位、三つの線、取締役会、権限、内部監査、通報、根本原因、ルール、自己点検、グループ、指揮系統、開示、取るリスクの基準を経て、誠実さの文化まで16号をたどりました。どの号も、型を敷けば守れるとは書かず、守りと攻めを自分で決める人のための材料を並べました。

次の号は、群の最初に戻り、攻めと守りを両立するにはどうすればよいのか、を見ていきます。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「誠実さを文化にするには?」を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

統計的に有意
「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。