IN GOVERNANCE · ISSUE 558
● 12 SEC悪い知らせは、黙っていたほうが傷が浅い。そう考えたくなる場面は、どんな仕事にもあります。この号は情報開示を6点で確かめます。株式市場で会社の開示を調べた実証4本(うち1本は作業論文の版で読んだもの)、開示の実証研究を整理した総説1本、取引所の適時開示制度という規範1点です。
先に向きを言うと、株主訴訟の多くは、決算の悪い知らせを会社が自ら開示したことから起きていました。そのうえで、開示が遅いときほど、訴訟の結末は高くついていたと1995年の作業論文は報告しています。早く出せば訴えられない、という話ではありません。この号は、どう開示すべきかを勧めず、数字を日本の小さな組織に当てはめることもしません。
日本取引所グループの制度の説明によれば、適時開示制度は、取引所の規則により「重要な会社情報を上場会社から投資者に提供するために設けられているもの」です。法律に基づく有価証券報告書などの法定開示と並ぶ仕組みで、対象は上場会社です。
2001年の総説は、情報の非対称性(知っている量の差)を題に掲げ、開示と資本市場をめぐる実証研究を整理しました。読めた導入段は “Corporate disclosure is critical for the functioning of an efficient capital market”(会社の開示は、効率的な資本市場の働きに欠かせない)と書き、法定の財務報告、経営者の予想や説明会などの自発的な開示、アナリストや報道による開示を並べています。

黙っていたほうが傷が浅いか、という問いに、6点のうち実証4本が近い角度から触れています。会社は悪い知らせをどれほど自ら出すのか、出すのを遅らせるのか、隠していた不正が表に出たとき何を失うのか。まず、会社のふるまいの側から見ます。
01株主訴訟の多くは、悪い知らせを自ら開示したことから起きていた。1995年の作業論文(1997年に刊行)は、決算の自発的な開示の早さと株主訴訟の結末を調べ、多くの訴訟が悪い業績の知らせの自発的な開示から起きていたと確かめたうえで、 “less timely voluntary disclosures result in more costly lawsuit outcomes”(適時でない開示ほど、訴訟の結末が高くつく)と報告しました。多くの開示は適時でなかった、とも書いています。
021994年の研究では、決算に関わる自発的な開示は、四半期の決算発表10回に1回ほどだった。1994年の研究は、ナスダックの93社を無作為に選び、1981〜90年の決算に関わる自発的な開示を調べました。先行研究と同じく開示はまれで、 “one disclosure for every ten quarterly earnings announcements”(四半期の決算発表10回につき1回)でした。良い知らせは年間の1株利益の数値や幅で、悪い知らせは当期の決算についての言葉で出される傾向がありました。
032009年の研究では、経営者は平均して、悪い知らせの公表を遅らせていた。悪い知らせを溜めて抱え、良い知らせはすぐ出すなら、開示時の株価の下げ幅は上げ幅より大きくなるはずだ、と研究者は考え、それに合う証拠を示しました。結論は “management, on average, delays the release of bad news to investors”(経営者は平均して、悪い知らせの公表を遅らせる)です。抱える期間が長いほど下げ幅が大きいかは、読めた要旨にありません。

隠していた不正は、表に出たときに何を残すのか。6点のうち2008年の研究は、財務の虚偽表示で米国の証券取引委員会(SEC)の執行を受けた会社の損失を、法と規制による罰と、市場による罰に分けて推定しました。
01SECの執行を受けた585社で、法と規制による罰は、1社平均2,350万ドルだった。この研究は、1978〜2002年に財務の虚偽表示でSECの執行を受けた585社を、2005年11月まで追いました。法と規制の制度を通じた罰は1社あたり平均2,350万ドルにとどまり、これに対して市場が科す罰は巨大だった、と著者は書いています。
02評判の損失は、法と規制による罰の合計の7.5倍を超えると推定された。評判の損失は、 “lower sales and higher contracting and financing costs”(売上の減少と、契約と資金調達の費用の上昇)による、将来のキャッシュフローの現在価値の目減りと定義されています。その点推定(一つの値としての推定)が、罰の合計の7.5倍を超えました。客離れだけでなく、資金調達の費用も含みます。
03市場価値を1ドル水増しした会社は、露見時にその1ドルに加えて3.08ドルを失っていた。平均すると、虚偽の表示で市場価値を1ドル水増しした会社は、露見したときにその1ドルを失い、さらに3.08ドルを失いました。上乗せ分のうち、法による罰の見込みは0.36ドル、評判の損失は2.71ドルです。執行を生き延びた会社では、評判の損失は3.83ドルでした。

実証4本は、どれも株式市場の会社の記録を使った観察の研究で、早く開示したから結末が軽くなった、とまでは言えません。訴訟の研究は1995年の作業論文の版で読み、1997年の刊行版の要旨は読めていません。1994年の研究はナスダックの93社の1980年代、2008年の研究はSECの執行を受けた会社です。日本の小さな組織で、開示の早さと結末を調べたものは、読めた範囲にありません。
全文まで読めたのは6点のうち1点(取引所の制度の説明)で、実証4本と総説は公式の要旨までです。読めていないものについては書きません。この号は、何をいつどう開示すべきかを勧めず、適時開示の解釈や個別の判断もしません。
株主訴訟を調べた作業論文では、
多くの訴訟が、悪い知らせの開示から起きていた。
そのうえで、開示が遅いときほど、
訴訟の結末は高くついていた。
早く出せば訴えられない、ではない。
シラバス側は、早めの開示が株主から訴えられる危険そのものを下げると書きますが、読めた版が報告するのは、開示が遅いほど訴訟の結末が高くつくことで、訴えられる確率の低下ではありません。むしろ多くの訴訟は、悪い知らせを自ら出したことから起きていました。また、抱え込む期間が長いほど衝撃が大きいという比例は、2009年の研究の読めた要旨にはありません。
TRY IT TODAY
- 01DATE
今日の日付と、自分の仕事でいま抱えている「言いにくいが、相手に関わる悪い知らせ」を一つ書く(遅れそうな納期、見つかった不具合、間違えて伝えていた条件など)。
- 02LOG
それについて、早く伝えた場合に起きそうなこと、伏せているいまの状況、後で表に出た場合に起きそうなことを、同じ紙に分けて書き出す。
- 03SORT
書いたそれぞれを「お金」「時間」「信頼」「分からない」のどれかに分ける。伝えるかどうか、いつ伝えるかは、ここでは決めない。
この号が運べたのは三段です。株主訴訟の多くは悪い知らせを自ら開示したことから起きていて、開示が遅いときほど訴訟の結末が高くついていたこと(作業論文の版)。経営者は平均して悪い知らせの公表を遅らせ、開示時の株価の下げ幅は上げ幅より大きかったこと。そして、財務の虚偽表示でSECの執行を受けた585社では、評判の損失が法と規制による罰の合計の7.5倍を超えたこと。
次の号は、リスクを取る基準をどう決めるのか、を見ていきます。
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