IN GOVERNANCE · ISSUE 557

(仮ビジュアル)暗い寝室で、白い枕に頬をつけて目を閉じ、白い掛け布団にくるまって眠っている女性を横から写した写真● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「危機は、その場の機転で乗り切れる」。この号はこの見方を6点で確かめます。消防局、原子力空母、外傷センター(2本)、SWATと映画の撮影クルーを調べた事例研究5本と、災害時に急に集まる集団へ理論を当てはめた論文1本です。数字で効果を測った研究は、6点の中にありません。

先に向きを言うと、ある消防局の事例は、決まりごとの多い指揮の仕組みが、柔軟で信頼できる現場と両立する要因を三つ見いだしました。ほかの事例も、決まった骨組みと、その場での組み替えを並べて描いています。この号は、指揮系統の作り方を勧めず、高リスク組織の事例研究を日本の小さな組織に当てはめることもしません。

消防局の事例が扱ったのは、インシデント・コマンド・システム(ICS)です。要旨は、消防や警察などの公共安全の専門職が、さまざまな緊急の現場で人や資源を束ねるために使う、信頼性の高い一時的な組織の組み立て方と動かし方、と説明しています。この号の指揮系統は、この意味の、危機のときの社内の指揮です。外への説明や謝罪は扱いません。

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗いガラスに自分の姿を映しながら街の明かりのほうを見ている、黒いスーツの女性
現場ごとに組み立て、終われば解く。危機の指揮は、臨時の組織の骨組みとして描かれてきた。 Visual: ALIFE

機転か骨組みか、という問いに、6点はどちらか一方では答えていません。まず、骨組みの側から描かれた三つの事例を見ます。舞台は消防局、原子力空母、外傷センターです。

01ある消防局の事例は、官僚的な指揮の仕組みが柔軟さと両立する要因を三つ見いだした。2001年の研究は、消防局1つがICSをどう使うかを帰納的に調べ、 “this distinctively bureaucratic system to produce remarkably flexible and reliable organizations”(際立って官僚的な仕組みが、驚くほど柔軟で信頼できる組織をつくる)ことを可能にする主な要因を三つ挙げました。官僚制の統制と効率を生かしつつ惰性を避ける組織の形がありうる、とも示唆しています。

02原子力空母の事例は、危険の要素と破局の前兆への向き合い方を論じた。1990年の論文は、周りに大きな害を及ぼしうる複雑な技術の組織を安全に動かす過程を定義しようとし、運用の実績が良い原子力空母を例に、先行研究が挙げた危険の要素と破局の前兆に空母がどう対処するかを論じました。2001年の研究と著者が一人重なる別の論文です。過程の中身の一覧は、要旨にはありません。

03外傷センターの医療チームの事例は、上位者が指揮を渡しては引き戻す委譲を描いた。2006年の研究は、救急の外傷センターの医療チームの指揮を質的に調べ、上位の者が指揮の役割を若手に素早く繰り返し渡しては引き戻す「動的な委譲」を描きました。この委譲は、信頼できる動きと若手の育成を両立させる、と著者は示唆し、階層の役割の構造と柔軟さを高める過程を溶け合わせる見方を出しています。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆の3本の脚が支えているコンソールテーブル
消防局、原子力空母、外傷センター。骨組みの側から描かれた三つの事例は、舞台も書き方も違う。 Visual: ALIFE

残る3点は、決まった段取りが崩れたり、想定外が起きたりしたときに目を向けます。事例研究が2本、理論の論文が1本です。

01外傷センターの事例は、手順に拠る調整と、対話による調整の両方を描いた。同じ2006年に外傷センターを調べた、著者が一人重なる別の論文は、手順への依拠を含む専門知の調整と、手順を破ることも含む対話的な調整を並べました。ただし “dialogic coordination practices are highly contested”(対話的な調整は強く争われる)と書き、専門の違い、評判、責めの割り振りを理由に挙げています。

02SWATと映画の撮影クルーは、想定外に、役割と手順を組み替えて対処していた。2011年の研究は、二種の組織を現場で観察して比べ、人々が “restructuring their activities by role shifting, reorganizing routines, and reassembling the work”(役割を入れ替え、手順を組み直し、仕事を組み立て直す)と描き、組織的ブリコラージュと呼びました。支えは、仕事の取り決めや互いの専門知など、日頃に育つ資源でした。

03災害時に急に集まる集団へ、ある理論をどう広げるべきかが論じられた。2007年の論文は、計画どおりの対応が崩れた後に生まれる即席の集団に、誰が何を知っているかを集団で分けもつ記憶の理論を当てはめ、役割の割り振り、専門知の確かさを確かめられないとき、専門知の調整の三つで理論を広げる必要を論じました。集団を調べたデータは、読めた要旨にはありません。

(仮ビジュアル)暗い寝室で、白い枕に頬をつけて目を閉じ、白い掛け布団にくるまって眠っている女性を横から写した写真
手順と対話、役割の入れ替え、理論の広げ方。決まった段取りの外側を、三つの角度から描く。 Visual: ALIFE

6点のうち5点は、消防局1つ、原子力空母、外傷センターの医療チーム、SWATと撮影クルーを調べた事例研究で、1点はデータを持たない理論の論文です。骨組みがあれば危機の結果が良くなる、とまでは言えません。外傷センターの2本は医療の現場の話で、診療や救急の判断材料ではなく、組織の見方の型として借ります。

全文まで読めたのは6点のうち0点で、6点はすべて公式の要旨までです。読めていないものについては書きません。日本の小さな組織で、指揮のしかたと危機の結果の関係を調べたものは、読めた要旨の範囲にはありません。この号は、指揮系統の作り方を勧めません。

ある消防局の事例では、
官僚的な指揮の仕組みが、
柔軟さと両立していた。
数字で効果を測った研究は、
6点の中に無い。

シラバス側は、速い対応は命令の速さより専門知どうしの対話に依ると書きますが、外傷センターの論文の要旨にこの比較は無く、二つの調整を並べ、対話の側は争われやすいと書いています。想定外を準備されたルーティンが支えるとも書きますが、2011年の研究でルーティンは組み替えられる側でした。2007年の論文は集団を調べたものではなく、理論を当てはめた論文です。

TRY IT TODAY

  1. 01DATE

    今日の日付と、自分の店や事務所で起こりうる有事を一つ書く(設備の故障、事故、大切な取引先の急な離脱など)。

  2. 02LOG

    その有事について、いま決まっていることを書き出す。誰が全体を見るか、誰が止める・動かすを決めるか、その人に連絡がつかないとき誰が代わるか。分からない欄は空けておく。

  3. 03SORT

    書いた項目を「決まっている」「暗黙のまま」「決まっていない」「その場に委ねている」のどれかに分ける。決め直しはしない。

10分。実在の人を名指しで評価せず、他人の個人情報も書きません。これは研究結果そのものではなく、自分の組織の有事の指揮がどこまで決まっているかを記録してみるためにALIFEが提案する実践入口です。安全や法令に関わる個別の判断は、専門家へ。

この号が運べたのは三段です。ある消防局の事例では、官僚的な指揮の仕組みが柔軟で信頼できる現場と両立し、その要因が三つ挙げられたこと。外傷センターの二つの事例は、指揮を渡しては引き戻す委譲と、手順の調整と争われやすい対話の調整を描き、SWATと撮影クルーの事例は想定外に役割と手順を組み替える姿を描いたこと。そして6点は事例と理論で、数字で効果を測った研究ではないこと。

次の号は、情報開示を誠実に行うにはどうすればよいのか、を見ていきます。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「危機対応の指揮系統を作るには?」を、もっと深く学ぶ。→

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。