IN GOVERNANCE · ISSUE 553
● 12 SEC「不祥事が起きたら、やった人を見つけて処分すれば片がつく」。この号はこの見方を6点で確かめます。組織の不正や過誤を見渡した総説2本、理論の論文2本、医療の過誤を扱った解説1本、そして米国の大企業を調べた実証研究1本です。
先に向きを言うと、研究は、ふつうの人が仕組みと文化の中で不正に至る筋道を描いてきました。それを数字で支えた実証は6点のうち1本で、期待を上回る業績の会社ほど違法行為が起きやすかったという、企業単位の結果です。この号は、原因の調べ方を勧めず、個別の事案の責任も判定しません。米国の大企業や医療の知見を、日本の小さな店や家業に当てはめることもしません。
根本原因の分析は、起きた問題の表面ではなく、その奥の原因までさかのぼって調べることです。2010年の総説は、組織の不正の研究を、組織の側の原因に重心を置いて整理し、批判しました。その指摘の一つは “the definition of misconduct is often implicit”(不正の定義は暗黙のままのことが多い)で、何かを不正と名指す外の側の役割も見過ごされてきたと書いています。
2003年の論考は、組織の中の腐敗の「常態化」を題に掲げた理論の論考です。ただ、この号が読めたのは書誌までで、中身は書きません。

以下の三つは、不正や過誤を、一人の悪意よりも組織の条件から描いた論考です。どれも、実験や調査で効果を測ったものではありません。分野を見渡す総説、概念を立てる理論、医療の現場に向けた解説という、性格の違う三つです。
01日常の逸脱・過誤・不正・災害は、同じつながりから系統的に生じる、と論じられた。1999年の総説は、四つの研究分野を見渡し、事例を類推で比べて、どれも “systematically produced by the interconnection between environment, organizations, cognition, and choice”(環境・組織・認知・選択のつながりから系統的に生み出される)と論じました。数字で確かめた結果ではなく、分野をつなぐための理論づくりです。
02組織の腐敗は、得をするのは誰か、手を染めるのは何人か、の二つの軸で分けられた。2008年の理論の論文は、受益者が個人か組織か、行為者が1人か複数か、の二つの軸を立て、“the organization of corrupt individuals”(腐敗した個人たちの組織)という型を立て、従来の「組織の腐敗」という考え方と対比しました。両者の違いは、検証の結果ではなく命題として論じられています。
03医療の過誤の解説は、人を責める見方と、仕組みに防護を重ねる見方を分けた。2000年の解説は、看護師や医師の過誤を例に、人に注目する見方は過誤を道徳の問題として扱い “bad things happen to bad people”(悪いことは悪い人に起きる)と想定しがちだと書き、人は誤るものとして防護を重ねる見方を論じました。防護や安全策が事故の筋道に貫かれる様子を、解説の図はスイスチーズの模型として描いています。医療安全の判断材料ではなく、見方の型として借ります。

6点のうち、実際のデータで調べたのは2010年の実証研究だけです。米国のS&P 500に入る製造業の企業を標本に、損失を嫌う心理と思い上がりの理論から、良い業績と違法行為の結びつきを調べました。調べた期間は要旨に書かれていません。企業単位の観察で、一人ひとりの心の動きを測ったものではありません。
01社内の目標や外からの期待を上回る業績の会社で、違法行為が起きやすかった。要旨は “Results demonstrate that both performance above internal aspirations and performance above external expectations increase the likelihood of illegal activities” と書きます。社内の目標を上回る業績も、外からの期待を上回る業績も、違法行為の起こりやすさと結びついていました。無作為に割り付けた実験ではなく、実在の企業の記録を調べた研究です。
02評判の高さは、期待を上回る業績と違法行為の結びつきを、強める側に働いていた。評判の高さ(注目度)は、それだけで違法行為を増やす要因としてではなく、外からの期待を上回る業績と違法行為の結びつきを強める側で報告されています。「評判の高い会社ほど不正をする」と単独で読むと、要旨の組み立てと合いません。
03業績が目標に届かないとき、評判の高い会社と低い会社は、違うふるまいを見せた。要旨は、業績が社内の目標に届かなかった場合について、評判の高い会社と低い会社で行動の型が異なったと書いています。どちら向きに異なったかは要旨に無く、この号は書きません。良い業績の側だけを見ると、この対の知見が落ちます。

数字で支えられたのは、米国の製造業の大企業で、期待を上回る業績と違法行為が結びついていたという企業単位の1本です。「ふつうの人が不正に至る」ことを個人の水準で測った研究は、読めた5点の要旨の範囲にありません。総説と理論は筋道を描きましたが、効果を測ったものではありません。日本の小さな店や家業で調べたものも、読めた範囲にありません。
全文まで読めたのは6点のうち0点で、5点は要旨まで、2003年の論考は書誌までです。読めていないものについては書きません。2000年の解説は医療の話で、店の失敗の調べ方を示したものではありません。この号は、原因究明の進め方を勧めません。
研究は、組織の条件から
不正に至る筋道を描いてきた。
数字で支えた実証は1本、
米国の製造業の大企業で、
期待を上回る業績と違法行為の結びつき。
シラバス側は「実証は、ふつうの人が仕組みと文化の中で不正に至ると示す」と書きますが、6点のうち実証は2010年の1本で、示されたのは企業単位の業績と違法行為の結びつきです。1999年の総説も「示した」とされますが、原典は分野を見渡した論考です。個人型と組織型の二分は、2008年の論文の二つの軸を一つに縮めた形です。「腐ったリンゴより樽」という言い回しは読めた5点の要旨に出てこず、この号は由来を書きません。
TRY IT TODAY
- 01DATE
今日の日付と、自分の店や事務所で起きた、または起きかけた小さなミスやごまかしを一つ、人の名前を出さずに一行で書く。
- 02LOG
その出来事について、抜けていた手順、働いていた事情(締め切り・目標・言い出しにくさなど)、途中で止まらなかった理由を、分かる範囲で書く。
- 03SORT
書いたそれぞれを「手順」「事情」「止まらなかった理由」のどれに当たるかで分ける。誰の責任か、何を直すべきかは決めない。
この号が運べたのは三段です。総説と理論は、不正や過誤を一人の悪意でなく組織の条件から見る筋道を描いてきたこと。医療の解説は、人を責める見方と仕組みに防護を重ねる見方を分けたこと。数字で支えた実証は、米国の製造業の大企業で、期待を上回る業績と違法行為の起こりやすさが結びついていたという1本だったこと。
次の号は、ルールを増やしすぎないにはどうすればよいのか、を見ていきます。
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