IN GOVERNANCE · ISSUE 551
● 12 SEC「内部監査は社内の警察で、不正を見つけて取り締まる役だ」。この号は、この受け取り方を6点で確かめます。独自のデータを使った実証1点、内部監査の研究の総説3点(うち1点は構造化レビュー)、外部の会計監査の研究の総説1点、監査を論じた学術書1点です。
先に向きを言うと、研究が示せたのは、内部監査の質が高い会社ほど利益の調整が小さいという関連までです。有効性を左右する要因と、内部監査が実際に担う役割は、総説の側でもまだ整理の途中です。1997年の学術書は、監査の営みを安心の生産として論じました。この号は、内部監査を置くべきかどうかも、その作り方も勧めません。これらの研究を、日本の小さな店や事務所に当てはめることもしません。
この号で内部監査と呼ぶのは、組織の中に置かれ、業務や統制が適切に働いているかを、当事者から離れた立場で調べて報告する機能です。会社の外の監査人が財務諸表を確かめる外部の会計監査とは、担い手も目的も別の仕組みです。
シラバス側は、その値打ちを摘発ではなく診断・予防・助言に置き、「警察ではなく医師」とたとえます。向きは以下の出典と食い違いませんが、このたとえそのものを確かめた研究は、読めた範囲の6点にはありません。

では、研究は内部監査について何を書いてきたのでしょうか。実証1点と総説2点から、運べる範囲を三つに分けます。数値は書かず、向きと研究の性格だけを運びます。
012009年の研究は、内部監査の質と利益の調整の小ささの関連を示した。独自のデータで、内部監査の質を六つの要素の合成で測り、利益の調整を二つの代理指標(異常な会計発生高と、アナリスト予想をわずかに上回る傾向)で測りました。要旨は “IAF quality is associated with a moderation in the level of earnings management”(内部監査の質は利益の調整の抑えと結びついていた)と書きます。予防の効果を確かめた実験ではありません。
022015年の総説は、有効性を左右するマクロとミクロの要因をモデルに整理した。内部監査人自身の評価による研究と、他の利害関係者の見方による研究を分けて読み、“a model comprising macro and micro factors that influence IA effectiveness”(有効性に影響するマクロとミクロの要因から成るモデル)にまとめました。外からの見方には利害関係者の失望がうかがえ、周縁化のおそれがあるとも書きます。
032018年の構造化レビューは、内部監査の実際の役割はまだ捉えきれていないと整理した。2005年から2017年半ばの研究を、役割・質・実践の三つの主題で整理し、前の二つは発展途上、実践は芽生えの段階としました。文献は内部監査を統治の何でも屋と推測するが、“does not clearly capture its actual roles”(実際の役割を明確には捉えていない)と書きます。

次の三つは、内部監査の値打ちを語るときに持ち込まれやすい材料です。外部の会計監査の研究、独立性の論点の整理、監査という営みそのものを論じた本で、どれも内部監査の効果を測った研究ではありません。2018年のレビューも、内部監査の質の研究は外部の監査人の視点に偏ってきたと書いています。
012014年の総説は外部の会計監査の研究で、内部監査の語は題にも要旨にもない。要旨は “We define higher audit quality as greater assurance of high financial reporting quality.”(監査の質の高さを、財務報告の質の高さへの保証の大きさと定義する)と書きます。著者が採った定義で、知見ではありません。この号は、隣の分野の定義として置くだけです。
022010年の総説は、内部監査の独立性と客観性に関わる論点を整理した。総説が挙げる独立性の論点は五つで、組織内の位置・保証と助言の二役・リスク管理への関与・外部委託・管理職の育成の場です。助言を担うこと自体が独立性の論点に数えられている点を、この号は、役割の広がりと離れた目との緊張と読みます。要旨までの確認です。
031997年の学術書は、監査の営みを安心の生産として論じた。副題は「検証の儀式」で、本文は監査を “the production of comfort”(安心の生産)の営みとして論じます。読めた断片には、浅い検証の儀式に資源を注ぎすぎる危うさや、組織の学習の過程と規律のためだけの空疎な儀式との対比も出てきます。頁は確かめられていません。

実証の1点は独自のデータによる関連で(国と上場の別は要旨に印字がない)、内部監査の質が利益の調整を抑えたという因果までは言えません。総説の2点も、研究の空白の多さを自ら書いています。日本の小さな店や事務所、内部監査部の無い組織で調べたものは、読めた範囲にありません。
全文まで読めたのは6点のうち1点で、それも本の全文検索で拾えた断片(頁は不明)です。読めていないものについては書きません。2015年の総説が挙げた個々の要因の中身も、要旨には書かれていません。この号は、内部監査を置くべきかどうかも、進め方も書きません。
内部監査の質が高い会社ほど、
利益の調整は小さかった。
それは関連で、予防の証明ではない。
要因と役割は、総説でも整理の途中だ。
シラバス側は、2014年の外部の会計監査の総説を、内部監査の値打ちが「保証の質」に宿る根拠に使いますが、その総説は内部監査を扱っていません。2018年のレビューを「役割は保証から助言へ広がる」の出典にもしていますが、レビューの結論は、実際の役割はまだ捉えきれていない、です。「ほんとうの安全ではなく安心」という対比も、読めた本の断片にはありません。
TRY IT TODAY
- 01DATE
今日の日付と、自分の組織にある「確かめる仕組み」を一つ書く(定例の点検、上長の確認、外からの目、棚卸しなど)。
- 02LOG
その仕組みで最近何かが見つかったときのことを思い出し、その後に起きたことを一言で書く。思い出せなければ、そのまま書く。
- 03SORT
記録を「直すことに使われた」「責めることに使われた」「何も起きなかった」「分からない」のどれかに分ける。良し悪しや、どう変えるべきかは決めない。
この号が運べたのは三段です。2009年の研究では、内部監査の質が高い会社ほど利益の調整が小さいという関連が示されたこと。総説は、有効性の要因をマクロとミクロに整理しつつ、実際の役割はまだ捉えきれていないと書いたこと。1997年の学術書は、監査の営みを安心の生産として論じたこと。外部の会計監査の定義は、隣の分野の言葉として置くに留めました。
次の号は、通報が届く仕組みを作るにはどうすればよいのか、を見ていきます。
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