IN GOVERNANCE · ISSUE 550
● 12 SEC「権限規程さえきちんと作れば、暴走は防げる」。権限規程とは、誰が何をいくらまで決めてよいかを、人や役職ごとに割り振った社内の決まりです。この号はこの考えを6点で確かめます。理論の論文3点、経営者への質問票調査1点、公的機関1件の事例研究1点、中間管理職への委譲を題にした論文1点です。
先に向きを言うと、紙の上の権限と実際に決める力がずれうることは、理論が論じたことです。読めた範囲で量で調べたのは調査1本で、それも暴走そのものではなく、経営者が決定をどこまで委ねるかの自己申告です。この号は、決裁の決まりの作り方を勧めることも、米国の会社や公的機関の話を日本の小さな店や事務所に当てはめることもしません。
1997年の理論の論文は、組織の中の権限を二つに分けました。決めてよいという権利である形式の権限と、決定を実際に左右する実質の権限です。そのうえで “Real authority is determined by the structure of information”(実質の権限は情報の構造で決まる)と書き、その情報の構造もまた、形式の権限の配り方に左右されると論じています。

ここで大事なのは、理論がこのずれを一方的な悪としては書いていないことです。実質の権限が下に移ることには得と損の両方がある、というのが論文の組み立てです。以下の三つは、理論・調査・事例が、権限の委ね方について何を書いてきたかです。
011997年の理論は、実質を下に移すと、主体性と引き換えに統制が緩むと論じた。要旨は “An increase in an agent's real authority promotes initiative but results in a loss of control for the principal”(任された側の実質の権限が増えると主体性は高まるが、任せた側は統制を失う)と書きます。モデルの上の命題で、実際の組織で測った結果ではありません。
02米国中心の経営者1,000人超への調査は、買収の決定が最も委ねられにくいと報告した。要旨は “CEOs are least likely to share or delegate decision-making authority in mergers and acquisitions”(経営者は買収の決定を最も分け持たず、委ねない)と書きます。資本構成・配当・投資・資本配分の決定と比べての話です。会社が大きい・複雑なほど委ねやすく、経営者がその案件に詳しいほど委ねにくい、とも報告しました。
03公的な研究資金配分機関1件の事例から、曖昧さで裁量を委ねる回路が論じられた。2005年の事例研究は、大きな制度の再編の時期に、組織があえて曖昧さを用いて関係者に大きな裁量を委ね、創意ある応答を引き出した例を扱い、これを委譲の “a previously unrecognized mode”(これまで認識されていなかった様式)と論じました。抵抗や、元の形に戻る危うさも挙げています。

1997年の論文は、形式の上では上の者が決める組織でも、部下の実質の権限を大きくする要因を六つ挙げています。忙しさ、ゆるい規則、決定の急ぎ、評判、成果の測り方、上司が複数いることです。ここでは三つの組に分けて並べます。どれもモデルの上の条件で、危険の兆しや、良し悪しの基準ではありません。
01上の者の手が回らない、決定を急ぐ。理論は、上の者が抱える仕事が多すぎるときや、決定を急ぐときに、部下の実質の権限が大きくなる要因として挙げます。紙の上の決裁者が中身を見る時間を持てない場面です。
02規則がゆるい、上司が複数いる。規則がゆるいことと、一人の部下に上司が複数いることも、要因に数えられています。どこまで任されているかの線が、紙の上で一つに定まらない場面です。
03評判と、成果の測り方。部下の評判や、成果の測られ方も要因に挙がります。理論はこれらを、実質の権限を下に移す条件として扱い、移ることの得と損を同じ枠の中で論じています。

調査の回答者は米国・欧州・アジアの経営者と財務責任者で、分析の中心は米国の会社に勤める人、その会社の大半は非上場です。著者は証拠が理論の予測を部分的に支えると結び、“our data are based on self-declared responses to a survey”(データは調査への自己申告に基づく)と限界を書いています。事例研究は公的機関1件です。
決裁者が自分の権限で統制を上書きする場面を直接に調べたものは、全文まで読めた調査に無く、要旨まで読めた2点の要旨の範囲にもありません。6点の外は確かめていません。全文まで読めたのは6点のうち1点で、読めていないものについては書きません。この号は、誰に何を委ねるべきかを書きません。
実際に決める力は、情報の構造で決まると
1997年の理論は論じた。
米国中心の経営者の調査は、
買収の決定が最も委ねられにくいと報告した。
シラバス側は、防止は規程でなく紙と実際の一致と決裁の非形骸化にかかると結びますが、これは編集側の見立てで、読めた範囲のどれもその効果を確かめてはいません。事例研究の曖昧さも、原典は委譲を促す面から論じています。決定権の配分をモデルで論じた1995年の論文、中間管理職への委譲と委譲の理論を扱った2本は中身まで読めておらず、出典欄には正しい書誌で載せました。
TRY IT TODAY
- 01DATE
今日の日付と、最近通した決裁を一つ書く(仕入れ、値引き、シフトの変更など)。
- 02LOG
決まりや慣例の上でそれを決めてよい人と、実際に中身を判断して決定を動かした人を、並べて書く。
- 03SORT
二人を「同じ人」「別の人」「分からない」のどれかに分ける。別の人なら、理論が挙げた条件(忙しさ・急ぎ・ゆるい規則・複数の上司・評判・成果の測り方)のどれに近いかを一つ選ぶ。良し悪しは決めない。
この号が運べたのは三段です。1997年の理論は、決める権利と実際に決める力を分け、実質は情報の構造で決まり、実質が下に移れば主体性と引き換えに統制が緩むと論じたこと。米国中心の経営者1,000人超の調査は、買収の決定が最も委ねられにくいと自己申告で報告したこと。公的機関1件の事例は、曖昧さで裁量を委ねる回路を論じたこと。
次の号は、内部監査を活かすにはどうすればよいのか、を見ていきます。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「権限の暴走を防ぐには?」を、もっと深く学ぶ。→