IN GOVERNANCE · ISSUE 549
● 12 SEC「社外の目を入れれば、取締役会は効く」。取締役会は、会社の重要な方針を決め、経営を監督する会議体です。この号はこの見方を6点で確かめます。取締役会と業績の研究を束ねたメタ分析2点(1998年・1999年、同じ研究者たち)、米国の大企業を調べた実証1点(2002年)、総説2点(1999年・2010年)、東京証券取引所の規範文書1点です。
先に向きを言うと、独立性などの構成と業績の結びつきは弱く、取締役の人数については研究の向きが割れています。しかも顔ぶれは業績に応じても変わるので、相関を因果とは読めません。この号は、社外取締役を置くべきかを勧めることも、個別の会社の適法性を判定することも、米国の大企業の結果を日本の小さな店や事務所に当てはめることもしません。
研究が構成と呼ぶのは、社内の取締役と、会社から独立した社外の取締役の割合です。取締役会を率いる形はリーダーの構造、取締役の人数は規模と呼ばれます。業績の物差しは研究ごとに違い、2002年の研究は、総資産に対する営業利益の比、売上高と総資産の比、市場の動きで調整した株価のリターン、トービンのq(市場の評価を資産の置き換え費用で割った比)の四つを並べました。

社外の取締役が多いほど、業績はよいのか。研究はこの問いを、多くの研究の結果を束ねるメタ分析と、一つの大きな標本を長い期間で追う方法の両方で調べてきました。どちらも観察された相関で、取締役を入れ替える実験ではありません。以下の三つは、その結果の向きです。
011998年のメタ分析は、構成と業績の体系的な関係の証拠を、ほとんど見なかった。構成は54研究・159標本(標本の合計n=40,160)、リーダーの構造は31研究・69標本(同n=12,915)。要旨は “little evidence of systematic governance structure/financial performance relationships”(統治の構造と財務業績の体系的な関係の証拠はほとんどない)と書きます。「無い」とまでは書いていません。
021999年のメタ分析は、取締役の人数と業績に、0でない正の関係を見た。同じ研究者たちが131標本(合計N=20,620)を束ねました。要旨は、先行研究は関係の向きに合意がないとしたうえで、“nonzero, positive, true population estimates”(0でない、正の、母集団の真の推定値)の体系的な証拠を得たと書きます。大きさは要旨に書かれていません。
03米国の大企業934社では、独立性の高い取締役会の会社は、業績で上回らなかった。2002年の研究は、1985〜1995年の業績を1991年初めの取締役会と照らしました。本文は “Firms with more independent boards do not perform better than other firms.”(独立性の高い取締役会の会社は、他社より業績がよいわけではない)と書き、むしろ悪い「兆し」もある、と兆しの強さにとどめています。

人数については、6点の中で向きが食い違います。1999年のメタ分析は正の関係を見ましたが、2002年の934社の研究は “Board size also shows no consistent correlation with firm performance, though we find hints of the negative correlation found in other studies”(人数も業績と一貫した相関を示さないが、他の研究が見た負の相関の兆しはある)と書きます。読むときの注意は、ほかにも三つあります。
01934社の研究では、業績の低い会社ほど、独立した取締役を増やしていた。同じ研究は、収益の低い会社が独立した取締役の割合を高める動きを見つけ、その後の業績が良くなった証拠は無いと報告しました。顔ぶれが業績に結びつく向きだけでなく、業績が顔ぶれを動かす向きもあるということです。
022010年の総説は、顔ぶれと働きが同時に決まることを、研究の難所として整理した。要旨は “makeup and actions are jointly endogenous”(構成と行動は、ともに内側から決まる)と書き、多くの研究は、取締役の選ばれ方と、構成が行動や業績に与える影響を合わせて述べたものとして読むのがよい、と整理しています。
031999年の総説は、独立性の高さが収益性を高めるという確かな証拠は無い、と整理した。2002年の研究と同じ著者による、米国の上場企業の証拠の総覧です。独立性が過半の取締役会には価値を高めうる違いも下げうる違いもあるとしたうえで、社内の取締役が1〜2人だけの取締役会の会社は、むしろ収益性が低いという証拠もあると書きます。

東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードは、2026年7月21日の改訂版が現行です。原則4-10「独立社外取締役の数の確保」は、プライム市場の上場会社に独立社外取締役を少なくとも3分の1(その他の市場は2名)以上選ぶべきだと定めています。改訂の説明は「実質化」を掲げました。上場会社向けの規範で、効果を確かめた証拠ではありません。
実証の舞台は米国の大企業(2002年)と、要旨では国を確かめられないメタ分析です。日本の小さな組織で調べたものは、読めた範囲にありません。全文まで読めたのは6点のうち2点で、読めていないものについては書きません。この号は、社外取締役を何人置くべきかも、ある会社が規範に合っているかも書きません。
独立性の高い取締役会が業績で勝る証拠は、
メタ分析にも米国の大企業934社にも乏しく、
人数の向きは、二つの間で割れた。
シラバス側は、1998年と1999年のメタ分析を束ね、構成・独立性・人数のどれも業績との相関はほぼゼロから弱い、と書きますが、1999年の人数の結論は0でない正です。1999年の総説は証拠を整理したもので、独立性が極端に高いとむしろ収益性が低いという側も書いています。規範の版も、2021年版ではなく2026年7月版です。
TRY IT TODAY
- 01DATE
今日の日付と、自分の店や事務所、チームで最近くだした重要な決定を一つ、何の決定かを一言で書く。
- 02LOG
その決定について、誰がどんな情報をもとに決めたか、その場に異論を言える立場の人はいたか、反対意見や懸念が実際に口に出て検討されたか、の三つを書き出す。
- 03SORT
三つをそれぞれ「十分だった」「足りなかった」のどちらかに分ける。誰を加えるべきか、会議体を置くべきかは決めない。
この号が運べたのは三段です。構成と業績の体系的な関係の証拠は、1998年のメタ分析でほとんど無く、934社の研究でも独立性の高い取締役会は業績で上回らなかったこと。人数は、1999年のメタ分析で正、934社の研究で一貫しなかったこと。顔ぶれは業績に応じても変わり、相関を因果と読みにくいこと。会議の中の過程を測って効き目を確かめたものは、読めた範囲の6点にはありません。
次の号は、権限の暴走を防ぐにはどうすればよいのか、を見ていきます。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「取締役会を機能させるには?」を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
