IN GOVERNANCE · ISSUE 548
● 12 SEC「三つの防衛線をきちんと敷けば、会社は守られる」。第1線は現場、第2線は方針を示して横から見る役、第3線は独立に確かめる内部監査です。この号はこの枠組みを6点で確かめます。内部監査人の国際団体IIAの規範文書1点、金融機関を論じた論考1点、総説1点、構造化レビュー1点、概念の論文1点、質問票調査1点です。
先に向きを言うと、三線は責任を分ける地図として作られた規範で、効果を確かめた仕組みではありません。地図があることは、それだけでは守りの証明になりません。一方で、オマーンの産業企業の調査は、三線とガバナンスの強化の正の結びつきを報告しています。この号は、三線の敷き方を勧めることも、金融機関や大企業の議論を日本の小さな店や事務所に当てはめることもしません。
IIAは2020年7月に三線モデルの文書を公表し、用語集で自らを “The model previously known as the Three Lines of Defense.”(以前は三つの防衛線と呼ばれたモデル)と書きました。第1線と第2線は経営陣の役割、第3線は経営から独立した内部監査の役割と定めています。現行の文書は、2024年9月の更新版です。
文書は、リスク管理が目的の達成と価値の創造に果たす寄与に、「防衛」や価値の保護と並べて目を向けることを、モデルを生かす条件の一つに挙げています。価値を生む役割も含める趣旨で「防衛」の語を外した、と読めるのはここまでです。作り手が「線を敷けば守れる」を否定したとは、文書に書かれていません。

では、線は何を分けるのでしょうか。IIAの文書は注で “the ‘lines’ are not intended to denote structural elements but a useful differentiation in roles”(線は組織の構造の要素を示すものではなく、役割を区別する便宜だ)と書きます。この号が地図と呼ぶのは、この意味です。区別が現場で働くかどうかは、規範の文書だけでは分かりません。以下の三つは、研究が何を書いてきたかです。
01金融機関を論じた論考は、三線の効果は検証されていないと書き、問いで結んだ。2018年の論考は、金融危機のあと規制当局が金融機関に三線を勧めた経緯を扱い、要旨で “its origins are opaque, and its effectiveness untested”(起源は不透明で、効果は検証されていない)と書きます。責任を分散させると説明責任が弱まるという見方も紹介し、偽りの安心ではないかと問います。答えの部分は読めていません。
022010年の総説は、内部監査の独立性と客観性に関わる論点を整理した。組織の中での位置、保証と助言の二役、リスク管理への関与、外部への委託、管理職を育てる場としての使われ方の五つです。どれも第3線が同じ組織に属し、別の役割も担うことから生じる論点で、この号はこれを独立性の構造的な緊張と読みます。要旨までの確認です。
03中央銀行の実務家は、三線の強化を継続的な改善の過程として論じた。2017年の論文は、モンテネグロの中央銀行に勤める著者が、品質管理と業務リスク管理の経験から書いた概念の論文で、複数の銀行を調べた実証ではありません。要旨は “the term strengthening may be interpreted as a process of continual improvement”(強化とは継続的な改善の過程と解釈できる)と書きます。

三線を小さな組織に重ねる前に、研究がどこを調べてきたかを見ておきます。2020年の構造化レビューは、2000年代初めの会計不祥事以降の内部監査の研究を、2005〜2018年の64誌・471本について分類しました。2023年の質問票調査は、三線の三つの要素とガバナンスの強化の関係を、オマーンの産業企業で調べました。
01471本の研究は、米国の上場企業に偏っていた。レビューは、内部監査の研究が米国の著者と学術誌に偏り、米国の上場企業を主な舞台にしてきたと書き、“key organisational settings (private SMEs and not-for-profit organisations) are largely absent”(私企業の中小と非営利の組織はほとんど扱われていない)と記します。
02内部監査を効かせる要因は、まだあまり分かっていないと結論した。同じレビューは、研究が内部監査の機能の理解にあまり寄与しておらず、実務の効果を有効で測れるものにする要因は、まだ比較的わずかしか分かっていないと結論します。三線そのものではなく、第3線にあたる内部監査の研究の総括です。
03オマーンの産業企業の調査では、三線とガバナンスの強化が正に結びついていた。内部監査人・財務担当・経営層・取締役などへの質問票で、三線の三つの要素がガバナンスの手続きの強化と有意に正に結びつくと報告しました。旧い名前のままの研究です。要旨は300票配布・有効159票、本文の方法の節と表は123票と書き、数が合いません。

6点の舞台は、金融危機後の金融機関(論考)、モンテネグロの中央銀行1行(概念の論文)、米国の上場企業が中心の研究群(レビュー)、オマーンの産業企業(質問票調査)です。オマーンの結果は回答者の意見を一時点で集めた相関で、著者自身が回答の偏り・一時点・一国という限界を挙げ、効果の大きさも著者の基準で小さいと判定しています。
日本の小さな店や事務所で三線を調べたものは、読めた範囲にありません。全文まで読めたのは6点のうち4点(規範の文書は2020年版と2024年更新版の両方)で、読めていないものについては書きません。論考が自らの問いにどう答えたかも読めていません。この号は、誰を第何線に置くべきかを書きません。
三線は、役割を分ける規範で、
効果を確かめた仕組みではない。
オマーンの調査は正の結びつきを報告し、
金融機関の論考は効果を未検証と書いた。
シラバス側は、作り手が名前から「防衛」を外したことを、「線を敷けば守れる」という受け取り方が作り手からも否定されたしるしと書きますが、文書が述べるのは、価値を生む役割にも目を向けるという趣旨までです。また、2023年の調査を三線を問い直した研究として懐疑の側に並べていますが、この調査は旧い名前のまま、三線の働きを肯定的に報告したものです。
TRY IT TODAY
- 01DATE
今日の日付と、自分の店や事務所の主なリスクを一つ書く(お金の扱い、個人情報、品質など)。
- 02LOG
そのリスクについて、日々扱う人、決まりを示して横から見る人、全体を離れた立場から確かめる人が、それぞれ誰かを書く。一人が兼ねていれば、そのまま書く。
- 03SORT
三つの役割を「別の人」「同じ人が兼ねる」「誰もいない」のどれかに分ける。良し悪しや、誰を置くべきかは決めない。
この号が運べたのは三段です。三線は以前は三つの防衛線と呼ばれた規範で、線は組織の区切りではなく役割の区別だと作り手が書いていること。金融機関を論じた論考は効果が検証されていないと書き、内部監査の研究は米国の上場企業に偏って中小をほとんど扱っていないこと。それでもオマーンの産業企業の調査は、三線とガバナンスの強化の正の結びつきを報告していること。
次の号は、取締役会を機能させるにはどうすればよいのか、を見ていきます。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「三つの防衛線を敷くには?」を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

