IN DATA · ISSUE 544

(仮ビジュアル)暗い室内の黒い壁ぎわに立ち、窓ガラスに自分の後ろ姿が映りこんでいる、黒いニットの女性● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「測れないものは管理できない」。数字を大切にせよという文脈で、こう語られることがあります。この号は、数字の外にあるものとの向き合い方を6点で確かめます。会計の実験研究3点、公共部門の業績指標を事例から論じた論文1点、一般書1点、格言の出どころを確かめるための経営の実務書1点です。

先に向きを言うと、測りやすい指標は、それが指すはずの目的と取り違えられることがあります。ただし実験では、戦略を実際に選ぶことに関わった人や、書いた理由を上司に伝えられた人で、その取り違えが弱まりました。この号は、何をどう測るかを勧めることも、会計の実験や英国の公共部門の結果を日本の小さな店に当てはめることもしません。

会計の実験研究は、指標がもともと目に見えない戦略の不完全な代わりにすぎないのに、人がそれを戦略そのもののように扱ってしまうことを、代理(surrogation)と呼んでいます。2012年の2つの実験は、報酬を指標に結ぶとこの傾向が強まり、指標が一つのときに複数のときより顕著だったと示しました。

(仮ビジュアル)薄暗い部屋の黒枠の大きな鏡の前で、黒いローブ姿の女性が鏡に映った自分と静かに向き合っている写真
数字に映るのは、測った面だけ。映った像を本人と取り違えることがある。 Visual: ALIFE

では、取り違えは避けられないのでしょうか。2013年に同じ研究者たちが発表した研究は、2012年とは別の実験で、取り違えを弱める条件を調べました。もう1本の2019年の研究は、チェスの局面に賭ける実験で、理由を言葉で伝えられるかどうかを動かしました。

01戦略を実際に選ぶことに関わった人では、取り違えが弱まった。2013年の研究は、戦略の選択への関わりが取り違えをどう動かすかを調べ、要旨に “We predict and find that strategy selection reduces surrogation.”(戦略の選択は代理を弱めると予測し、そう見いだした)と書きます。参加者がどんな人だったかは、要旨には書かれていません。

02選ぶ前の話し合いに加わるだけでは、弱まらなかった。同じ要旨は “Surprisingly, we do not find that engaging in strategy deliberation, a key process underlying strategy selection, reduces surrogation.”(意外にも、選択の中心となる戦略の審議に加わっても代理は弱まらなかった)と続け、実際に選ぶことが必要かつ十分な条件に見える、と結びます。

03チェスの賭けの実験では、書いた理由を上司に伝えられると、取り違えが減った。上司の代わりに賭ける場面で、半数は上司が駒の損得の勘定だけを見ると、半数はそれに加えて自分の書いた理由も見ると告げられました。理由を伝えられた側は局面の全体を映す賭けをしやすく、のちに自分のために賭ける場面でも取り違えが少なく、測られない面を多く書きました。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆の3本の脚が支えているコンソールテーブル
選ぶこと・話し合うこと・理由を伝えること。取り違えを動かしたものと、動かさなかったもの。 Visual: ALIFE

取り違えは、測る人の頭の中だけでなく、測る仕組みの側でも起きうるのでしょうか。1995年の論文は、英国の公共部門の経験をもとに、業績データを公表することの意図せぬ結果を論じました。以下の三つは、その要旨と、2018年の一般書について確かめられた範囲です。

01公共部門の業績データの公表に、意図せぬ結果を8つ挙げた。論文は、業績指標の仕組みの多くが効率や公平の利点を前提に導入され、費用の側には注意が払われてこなかったとして、機能を損ないやすい意図せぬ結果を8つ挙げ、英国の公共部門の例を添えました。8つの名前と中身は全文に届いておらず、書きません。

02公表そのものは否定せず、指標の考え方の土台を問うた。要旨は “While not challenging the desirability of publishing performance data”(業績データを公表することの望ましさには異を唱えないが)と断ったうえで、業績指標の考え方は生産と統制の不十分なモデルに基づくと論じ、和らげる方法も提案したと書きます。効果を測った研究ではありません。

032018年の一般書は、指標への過度の依存を題名に掲げた。題名は『The Tyranny of Metrics』(指標の専制)。シラバス側は、何でも測って評価し報いれば現場が良くなるという考えへの批判の書として挙げます。実証の研究ではなく、この号は書誌までしか確かめておらず、中身は扱いません。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
8つの意図せぬ結果・公表の是非・一般書。測る仕組みの副作用を見る三つの面。 Visual: ALIFE

実験の場面は、会計の実験2本(参加者の属性は要旨に無い)と、オンラインで募りチェスの腕前を事前テストで確かめた75人の賭けの実験です。75人は博士論文の版の数字で、学術誌の要旨は参加者を経験のあるチェスの指し手と書き、人数は確かめていません。公表の論文は英国の公共部門の事例による分類です。日本の小さな店の評価表や売上目標を調べたものは、読めた範囲にありません。

測れるものだけを見て測れないものを軽んじる誤りには、人名を冠した呼び名もありますが、その命名の由来を確かめられる典拠に、この号は届いていません。全文まで読めたのは6点のうち2点(博士論文の版と、本の全文検索)で、読めていないものについては書きません。この号は、何をどう測ればよいかを書きません。

会計の実験では、
戦略を実際に選ぶと、
数字と目的の取り違えが弱まり、
話し合うだけでは弱まらなかった。

シラバス側は、2013年の研究が測定の仕組みそのものがすり替えを強めると示した、と書きますが、要旨が報告したのは、戦略の選択に関わると弱まるという逆向きの結果です。強まる側を示したのは、報酬を指標に結んだ2012年の実験でした。格言がある経営学者の言葉として紹介されることについては、その1954年の実務書を複数の版で全文検索しても、該当する句は見当たりませんでした。

TRY IT TODAY

  1. 01DATE

    今日の日付と、自分の商いでいま追っている数字を一つ書く(売上、来店数、フォロワー数など)。

  2. 02LOG

    その数字が本当は何の代わりなのかを一行で書き、その数字には映らない大事なことを一つ書き添える。

  3. 03SORT

    その数字に添える言葉を一行書き(なぜこの数字か/この数字が映していないもの)、映らないことを「数字で追える」「言葉でしか残せない」のどちらかに分ける。良し悪しは決めない。

10分。従業員や客の個人データは材料にせず、自分の記録として完結させます。数字で人を評価・監視するためのものではありません。これは研究結果そのものではなく、記録の単位を決めてみるためにALIFEが提案する実践入口です。

この号が運べたのは三段です。2012年の実験では報酬を指標一つに結ぶと取り違えが強まり、2013年の研究では戦略を実際に選ぶことに関わると弱まり、話し合うだけでは弱まらなかったこと。書いた理由を上司に伝えられると、取り違えが減ったこと。業績データの公表には意図せぬ結果が8つ挙げられ、それでも公表そのものは否定されていないこと。

次の号は、群の最初に戻り、見るべき数字をどう選ぶかを見ていきます。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「測れないものと向き合うには?」を、もっと深く学ぶ。→

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。