IN DATA · ISSUE 543

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「講座を開けば、現場はデータ好きになる」。この期待を、この号は6点で確かめます。3点は「データリテラシー」という言葉を論じた特集号の序文・論文・総説、1点は教員養成への提言、2点は企業のビッグデータ分析を扱った研究です。後者のうち1点は、要旨も読めていません。

先に断ると、シラバス側の看板「文化は講座でなく使う経験に宿る」を、読めた範囲で実証として支えうるのは会社を単位にした研究1点だけで、その結果も半分は逆向きでした。この看板は研究の結論ではなく、編集側の読みです。「講座ではデータ好きにならない」も、全文まで読めた1点と要旨まで読めた4点の範囲では測られていません。この号は、数字を使う場の作り方を勧めることも、企業の結果を日本の小さな店に当てはめることもしません。

2016年、地域の情報化を扱う学術誌が、データリテラシーの特集号を組みました。その序文は、この言葉を、専門家でない人がデータを使いこなす力と括弧書きで説明したうえで、“still poorly defined”(まだ定義が不十分だ)と書き、子どもにも大人にも、どう力を伸ばすのがよいかは学ぶべきことが多い、と論じています。

(仮ビジュアル)暗い室内の黒い壁ぎわに立ち、窓ガラスに自分の後ろ姿が映りこんでいる、黒いニットの女性
言葉の輪郭は、まだ定まっていない。特集号の序文はそう論じた。 Visual: ALIFE

では、定まらない言葉のまわりで、研究は何を論じてきたのでしょうか。概念を論じた論文、図書館情報学の総説、教育学の提言の3点を、定義・呼び名・学ぶ場の順に見ます。いずれも、人がデータを好きになる過程を測った研究ではありません。

01同じ特集号の論文は、まだ明確な定義がないとして、定義を自ら提案した。学校で身につけるべき力について “as yet there is no clear definition”(まだ明確な定義がない)と書き、データと統計のリテラシーの見方を比べ、学校での教え方の実例を調べたうえで、現実の現象を理解するためにデータを使う力、という定義を提案しました。概念を論じた論文です。

02研究者とデータ司書に向けた総説は、呼び名が分かれていることを整理した。2017年の総説は、定義を示すことを狙いに掲げ、情報リテラシーとの近さを特徴に挙げました。著者自身の2015年の論文を引いて、データ情報リテラシー、科学データリテラシー、研究データリテラシーなど呼び名が分かれていると並べ、用語をそろえることを勧めています。

03教員養成への提言は、データを正式に学ぶ科目が少ないと論じた。2013年の教育学の論文は、政策が教員にデータの活用を求める一方、人の力を育てる手当ては増えていないと論じました。現職の教員向けの研修の機会は一部あるものの、教員養成の課程では “fewer formal courses”(正式な科目が少ない)とし、制度全体から考える視点を提示しています。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆の3本の脚が支えているコンソールテーブル
定義の提案・分かれた呼び名・少ない学ぶ場。言葉の側の三つの脚。 Visual: ALIFE

使った経験は、次に使う気持ちを生むのでしょうか。2014年の研究は、会社を単位に、ビッグデータ分析を取り入れたい意向を、データの品質の管理とデータを使った経験から説明する研究モデルを立てて、実証的に調べました。対象の国や社数は、読めた要旨には書かれていません。以下の三つは、その要旨が報告した点です。

01社内データの品質を保つ力は、導入の意向を高めうる、と報告された。要旨は、会社のビッグデータ分析への意向が、社内のデータの品質を保つ力によって前向きに左右されうると書きます。品質を保つ力を先に鍛えたから意向が上がった、という順序までは、要旨からは読めません。

02外部のデータで得をしたと感じた経験は、次の導入を後押ししうる。ここでの「よい経験」は、要旨の括弧書きで便益の知覚、つまり役に立ったと会社が感じたことを指します。社外から得たデータでその手応えがあると、ビッグデータ分析を今後取り入れる意向が高まりうる、という向きです。

03社内のデータで得をしたと感じた経験は、導入の意向を妨げうる、と出た。要旨は “Surprisingly, a firm's favorable experience (i.e., benefit perceptions) in utilizing internal source data could hamper its adoption intention”(意外にも、社内のデータを使って得をしたと感じた経験は、導入の意向を妨げうる)と書きます。使った手応えが、いつも次を呼ぶわけではない、という結果です。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
品質を保つ力・外の手応え・内の手応え。会社の研究が報告した三つ。 Visual: ALIFE

この研究が測ったのは、会社としてビッグデータ分析を取り入れたいかどうかで、働く人がデータを好きになったかでも、文化が育ったかでもありません。結果も「〜しうる」という書き方です。自分の店の売上表を使うのは言葉の上では社内データの側ですが、会社の導入意向の研究を、小さな店の人の気持ちには当てはめられません。

もう1点、ビッグデータ分析の能力をどう形づくるかを題に掲げた2016年の論文は、要旨も読めていないので中身は書きません。講座の前後で使い方や好みが変わったかを比べた結果は、全文まで読めた1点に無く、要旨まで読めた4点の要旨にも書かれていません。元の分野は学校教育、研究者と図書館、企業の情報システムです。全文まで読めたのは6点のうち1点で、読めていないものについては書きません。

社内のデータを使ってよかった
会社ほど、次を
望むとは限らなかった。

シラバス側の看板は、「研修でデータ好きになる」は俗説で、文化は講座でなく使う経験に宿る、というものです。ただ、読めた5点のうち使った経験と次の意向を実際に調べたのは会社を単位にした1点で、外部のデータでは看板と同じ向き、社内のデータでは逆でした。——というのが、この号が看板を編集側の読みと呼ぶ理由です。

TRY IT TODAY

  1. 01DATE

    今日の日付と、この1週間に自分が実際に見た数字を一つ書く(売上表、来店の数、地域の公開統計、取引先から届いた数字、ネットの口コミの件数など)。

  2. 02LOG

    その数字を、いつ・どこで見て、何に使ったか(見ただけ、一言書いた、決めごとに使った)を書き出す。

  3. 03SORT

    その数字が自分の店の中で生まれた数字か、外から来た数字かに分け、使って役に立った手応えがあったかを、あった・無かった・分からない、の三つから一つ選ぶ。良し悪しは決めない。

10分。自分の商いだけで完結させる記録のメモです。これは研究結果そのものではなく、記録の単位を決めてみるためにALIFEが提案する実践入口です。人の働きぶりを数字で見張ったり、誰かを格付けしたりするためには使わないでください。

この号が運べたのは三段です。データリテラシーは定義がまだ定まらないと論じられ、定義の提案と呼び名の整理が続いていること。教員養成では、正式に学ぶ科目が少ないと論じられたこと。会社を単位にした研究では、外部のデータの手応えは導入の意向を高めうる一方、社内のデータの手応えは妨げうると出たこと。講座と使う経験のどちらが人をデータ好きにするかは、全文1点と要旨4点の読めた範囲では決まっていません。次の号は、測れないものと向き合います。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「現場をデータ好きにするには?」を、もっと深く学ぶ。→

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。