IN DATA · ISSUE 529

(仮ビジュアル)暗い背景の石の台に、白い発酵乳の瓶と、切り漬けを詰めた低いグラスと、琥珀色の発酵茶が入った細長い容器が、三つ横に並んでいる静物写真● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「測れないものは管理できない。だから、まず何でも測れ」。数字の扱いをめぐって、こう語られることがあります。この号は、見るべき数字の選び方を原典7点で確かめます。実証研究4点(記録の分析2・質問紙調査1・実験1)、論理で格言を検討した論文1点、経営の実務書1点、一般書1点です。

先に向きを言うと、1つのホテルチェーンでは顧客満足の指標がのちの財務業績と結びつき、製造業の調査では指標を広く使う会社ほど業績の自己評定が高めでした。ただし選んだ数字は、目的そのものと取り違えられることがあり、実験では報酬を指標一つに結ぶとその傾向が強まりました。この号は、どの数字を見るべきかを勧めることも、米国やベルギーの会社・実験の結果を日本の小さな店に当てはめることもしません。

会計の実験研究は、指標がもともと目に見えない目的の不完全な代わりにすぎないのに、人がそれを目的そのもののように扱うことを、代理(surrogation)と呼びました。要旨の言葉では “act as though the measures are the construct of interest—a phenomenon we label surrogation”(測定値を関心の対象そのものであるかのように扱う——私たちが代理と呼ぶ現象)です。

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗いガラスに自分の姿を映しながら街の明かりのほうを見ている、黒いスーツの女性
指標は、目的を映すガラスにすぎない。研究はそれを目的と取り違えることを代理と呼んだ。 Visual: ALIFE

2012年の研究は2つの実験で、戦略に結びついた指標を管理者の報酬に使うと代理が強まり、その傾向は指標が一つのときのほうが、複数のときより顕著だと示しました。実験の参加者がどんな人だったかは、要旨には書かれていません。では、どの数字を選ぶかは、そもそも成果と関係するのでしょうか。

011つのホテルチェーンでは、顧客満足の指標がのちの財務業績と結びついていた。2000年の研究は、1社が運営する18ホテルの72か月の記録を分析しました。顧客満足の指標は将来の財務業績と結びつき、過去の財務指標に無い情報を含んでいました。非財務の指標を含む報酬制度の導入後には、非財務・財務の業績がともに改善していた、と要旨は書きます。数値はここでは扱いません。

02製造業の調査では、戦略に関係なく、指標を広く使う会社ほど業績の評定が高かった。2006年の研究は、米国87社とベルギー41社、計128社の製造部門の管理者への質問紙調査です。業績は業界平均と比べた部門の自己評定。本文は “regardless of strategy, firms with more extensive performance measurement systems … have higher performance”(戦略に関係なく、業績指標の体系が広い会社ほど業績が高い)と書きます。

031998年の論文は、顧客満足が財務業績の先行指標かを、問いの形で立てた。顧客満足と、会計上の業績や株式市場の反応との結びつきを調べた論文であることは、他の書籍の言及によります。この号は要旨にも届いておらず、答えの向きも数値も書きません。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆の3本の脚が支えているコンソールテーブル
ホテルの記録・製造業の調査・問いの形の論文。数字と成果を見た三つの脚。 Visual: ALIFE

シラバス側は、「測れないものは管理できない」がしばしば、ある経営学者の言葉として紹介されると書きます。以下は、その出どころを、実務書・査読誌・一般書の三つの層で確かめたものです。

01実務書: その経営学者の1954年の本に、格言は見当たらなかった。1954年の経営の実務書を、11の版・刷の全文検索で調べると、格言にあたる句は見当たりませんでした。見つかったのは、広告の効果や生産性のように、まだ測る手段がない領域があるという限られた記述です。頁の画像は見ていません。

02査読誌: 2000年の論文が偽と論じたのは、向きの違う別の格言だった。2000年の論文は「測られたものは管理される」を真理表で検討し、“Thus, the statement ‘if X gets measured, then X gets managed’ is false.”(ゆえに「Xが測られればXは管理される」という言明は偽である)と論じました。帰属の考証ではなく、本文にその経営学者の名は出てきません。

03一般書: 品質管理の統計学者は、格言を高くつく神話と退けた。1993年の一般書は “It is wrong to suppose that if you can’t measure it, you can’t manage it—a costly myth.”(測れなければ管理できないと考えるのは誤りだ。高くつく神話だ)と書いています。この本も帰属は論じていません。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
実務書・査読誌・一般書。格言の出どころを、三つの層で確かめた。 Visual: ALIFE

実証の場面は、1つのホテルチェーン、米国とベルギーの製造業の管理者、2つの実験です。製造業の調査は一時点の横断データで、著者自身、戦略や指標を変えている途中の会社の影響を排除しきれないと断っています。戦略との組み合わせが業績と結びついたのは、品質重視の戦略と主観的な評価の組み合わせだけで、客観的な非財務指標ではそうなりませんでした。

日本の小さな店が自分の数字を選ぶ場面を調べたものは、読めた範囲にありません。全文まで読めたのは7点のうち4点(うち本2冊は全文検索)で、読めていないものについては書きません。この号は、どの指標を使えばよいかを書きません。

ホテル1社では顧客満足の指標が、
製造業の調査では指標の広さが、
業績と結びついていた。
実験では、報酬を指標一つに結ぶと、
目的との取り違えが強まった。

シラバス側はこの単位に、戦略に合った指標を選ぶ組織ほど成果が高いこと、そしてその経営学者がむしろ逆のことを書いたことを置きます。製造業の調査の主な結果は戦略に関係のない指標の広さで、適合は主観的な指標に限られました。逆の趣旨の一文も、1954年の本の全文検索では見つかっていません。

TRY IT TODAY

  1. 01DATE

    今日の日付と、自分の商いで本当に大事にしたいことを一つ、数字ではない言葉で書く。

  2. 02LOG

    ふだん見ている数字を思いつくだけ書き出し、各行に、その数字では映らないことを一言ずつ添える。

  3. 03SORT

    各行に「大事だから見ている」「測りやすいから見ている」「報告のために見ている」の印をつけ、それぞれの数を数える。どれを見るべきかは決めない。

10分。従業員や顧客の個人データは材料にせず、自分の記録として完結させます。これは研究結果そのものではなく、記録の単位を決めてみるためにALIFEが提案する実践入口です。

この号が運べたのは三段です。1つのホテルチェーンでは顧客満足の指標がのちの財務業績と結びつき、製造業の調査では指標の広さが業績の評定と結びついていたこと。実験では、報酬を指標一つに結ぶと、指標を目的と取り違える傾向が強まったこと。格言は1954年の本に見当たらず、品質管理の統計学者の一般書は格言を高くつく神話と退けていたこと。

次の号は、見る数字が決まったあとの、データを一箇所に集める仕事を見ていきます。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「見るべき数字を決めるには?」を、もっと深く学ぶ。→

Next in Data

VIEW ALL
ISSUE 528やめ時を自分で決めても、のめり込みはあまり減らなかった。ISSUE 530企業の研究125本で、価値と結びついたのは、技術より人と組織だった。
ALIFE · ISSUE 529

本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。