IN DATA · ISSUE 537
● 12 SEC「数字の羅列より、物語にすれば伝わる」。そう言われることがあります。この号は、データを物語として見せることを6点で確かめます。1点は報道などの図を事例として分類した論文、1点は図の修辞を論じた概念の論文、3点は見せ方を比べた実験、1点は研究者と記者の議論をまとめた学術書です。
先に向きを言うと、題の傾きは図の主旨の受け取りを変えても態度ははっきり動かさず、グラフと表の差は元の意見の強さで変わり、物語の導入は図の探索を増やしませんでした。実験の一つは米国在住の作業者を対象にしたもので、どれも日本の店を調べたものではありません。この号は、人を動かす見せ方の作り方を勧めることも、実験の結果を日本の小さな店の告知や報告に当てはめることもしません。
データの物語とは、図に順序・注釈・強調を足し、読み手を一つの筋へ導く見せ方です。2010年の論文は、58の図を事例研究の方法で分析しました(オンライン報道71%・ビジネス20%・可視化研究9%)。雑誌風から映像まで7つの型に分類し、作り手が導く筋と読み手の探索の釣り合いで整理しています。読み手の反応は測っておらず、著者ら自身 “we do not claim that our sample is exhaustive”(標本が網羅的だとは主張しない)と書きます。

では、筋のある見せ方は人の考えを動かすのでしょうか。シラバス側は「物語型の図のほうが説得的」の根拠に2014年の実験を挙げます。ただ、その実験が比べたのは物語か素の表かではなく、同じ題と説明文のなかで、証拠を棒や折れ線のグラフで出すか、表で出すかでした。
01強い意見を持たない人では、表より棒や折れ線のグラフが説得的だった。2014年の実験は、ネットで募った米国在住の720人のうち注意確認を全問通過した577人に、グラフか表かを無作為に割り付け、態度の変化を測りました。強く反対の人では表が上回るようにも見えましたが、著者ら自身がこの側の結果はずっと不確かで、さらなる検証が要ると断っています(学会で配布された組版の本文による)。
02同じ図でも、題の傾きで、逆の主旨が読み取られた。2018年の実験は、意見の割れる話題の図に傾いた題を付け、主旨の受け取り・偏りの感じ方・態度の変化を、読み手のもとの態度とあわせて調べました。題の傾きは図の主旨の受け取りを変え、同じ図から逆の主旨を読む人が出ました。態度の変化には、統計的にはっきりした効果は見られませんでした。
03物語仕立ての導入を添えても、図を探る関与は増えなかった。2015年の研究は、ニュース・論評のサイトと図の作品集のサイトで、ウェブ上の実地実験を3本行いました。自分で操作して探る図の前に物語の導入を置いても、結果は著者らの仮説に反し、探索への関与は “does not seem to increase”(増えるようには見えない)でした。

2011年の論文は、物語仕立ての図が特定の解釈を優先させる技法を、修辞として分析する枠組みを論じました。政治的なメッセージの枠づけ研究などとの類推に立ち、情報の足し引きはデータ・見た目の表し方・文字の注釈・操作の4つの層で起きると整理しています。以下は、そのうち3つの層に、題の実験を重ねたものです。
01何を載せ、何を省くか。修辞の論文は、設計の技法を、データの層での情報の追加や省略として捉えました。たとえば売上の図で、どの月から載せるかも、この層の選び方に当たります(例はこの号のもの)。
02図は、言葉にされない見方の約束事に乗る。同じ論文は、図が、言葉にされない見方の約束事や符号を前提に、ものごとを示し、またほのめかすと論じました。論文が挙げた層では、見た目の表し方がこれに当たります。
03題と注記が、読む向きを決めうる。2018年の実験の著者らは、目立たない統計の枠づけの危うさと、読み手の “unwarranted conviction of the neutrality of visualizations”(図は中立だという根拠のない確信)を指摘しています。

2014年の実験の題材3つは、強い意見を呼びにくいものとして選ばれ、題材の影響はこの研究の焦点ではないと著者らは断っています。物語仕立てかどうかも比べていません。2018年の実験は意見の割れる話題、2015年の研究は操作して探る図の導入に限った結果です。
どれも日本の小さな店の告知や報告を調べたものではありません。学術書は書誌まで。全文まで読めたのは6点のうち2点で、読めていないものについては書きません。この号は、見せ方の型を選べば正しく伝わるとは書きません。
同じ図でも、
題の付け方で、
逆の話が読み取られた。
シラバス側の看板は、物語は諸刃で、伝わる力はそのまま歪める力になる、というものです。向きを支えるのは、修辞の枠組みを論じた論文、読み取りは動くが態度は動かなかった題の実験、条件つきのグラフと表の実験、そして物語の導入が探索を増やさなかった実地実験です。物語そのものが説得力を高めると確かめた実験は、全文まで読めた2点には無く、要旨まで読めた3点の要旨の範囲にもありませんでした。
TRY IT TODAY
- 01DATE
今日の日付と、自分の手元の数字を一つ書く(先月の売上、来店数、頒布の部数など)。
- 02LOG
同じ数字について、良く見せる短い語りと、悪く見せる短い語りを一つずつ書く。どこを強調し、どんな題を付け、どの順で見せたかも添える。
- 03SORT
二つを並べ、動かない事実の芯と、言葉・強調・順序で変えた部分に線を引く。印象をいちばん変えた一言が、強調・題・順序のどれだったかに印をつける。良し悪しは決めない。
この号が運べたのは三段です。2010年の論文が58の図から分類した、筋を与える見せ方の型。2011年の論文が論じた、見せ方に埋まる修辞。そして三つの実験が示した、グラフと表の差は元の意見の強さで変わり、題の傾きは読み取りを変えても態度ははっきり動かさず、物語の導入は探索を増やさなかったこと。次の号は、分析を意思決定につなぎます。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「データから物語を語るには?」を、もっと深く学ぶ。→