IN DATA · ISSUE 538
● 12 SEC「ちゃんと分析すれば、答えは自ずと決まる」。そう考えたくなります。この号は、分析と決定のあいだを6点で確かめます。理論の論文2点(うち1点は学会の会長講演)、研究の課題を提案した論文1点、1つの組織を調べた質的研究1点、先行研究の総説1点、そして実務書1点です。
先に言い切ると、6点のどれも、分析が決定を生むかを量的に確かめた実証研究ではありません。「分析と決定のあいだには距離があり、分析は問いを整える道具にすぎない」という看板は、確かめられた結論ではなく、6点が描いてきた構図を編集側がまとめた命題です。この号は、決め方を勧めることはしません。
ここで言う分析は、売上の集計や来店数の推移、アンケートの数字をまとめて眺めること。決定は、それを受けて何かを変える、あるいは変えないと選ぶことです。2005年の会長講演(2006年に論文化)は、医療の「証拠に基づく医療」を手本に、経営でも最良の証拠に基づいて決めるという考えを論じ、研究と実務の隔たりを “the failure of organizations and managers to base practices on best available evidence”(組織と経営者が、手に入る最良の証拠に実務を基づかせていないこと)と定義しました。

この講演の題は問いの形で、証拠に基づく経営は存在するのか、と尋ねます。答えは、証拠に基づく経営は “still a hope and not a reality”(まだ現実ではなく希望)というものでした。講演者はその最大の理由を、経営者や組織ではなく、自分を含む研究者と教育の側に置き、隔たりを埋める道筋も論じています。
011つの組織では、分析の仕組みが、問題の言語化と対話を促していた。2016年の質的研究は、組織が「知る」働きの枠組みを先行研究から組み立て、1つの事例組織で、数字を集めて見せる仕組み(BI)が “problem articulation and dialogue”(問題の言語化と対話)と、必要なデータの選び出しを促す様子を描きました。
02合理的な決定は、理論と人と道具で組み立てられると論じた。2011年の理論の論文は、組織の研究が合理的選択を批判してきたのに、現場では合理性が繰り返し戻ってくるという矛盾から出発し、合理的な意思決定を、理論・人・道具が組織の中でともに作り出す実践として捉える枠組みを提案しました。実験や調査の結果ではありません。
03分析の仕組みの価値は、投資から業績までの条件の連なりとして整理された。2017年の総説は、2000年1月〜2015年8月の情報システムの実証研究を整理し、価値は投資→資産→影響→業績という必要条件の連なりとして現れるようだとしつつ、条件どうしをつなぐ過程は十分に研究されていないと書きました。

以下の三つは、6点の性格そのものです。看板の構図を支える材料がどの種類の論文かを並べると、分析と決定の距離は、測られてきたのではなく、論じられ、描かれてきたことが見えてきます。
01研究の課題を掲げた論文は、意思決定の過程を的に据えた。2014年の論文は、題に「研究アジェンダ」とあり、分析が組織に与える影響を、意思決定の過程の変わり方から理解するための課題を提案するものです。提案であって、結果の報告ではありません。
02実務書は、証拠に基づく経営を題に掲げた。2006年の経営書は、証拠に基づく経営を題に掲げた実務書で、査読を経た研究ではありません。この号は書誌しか確かめておらず、中身の主張は運びません。
03現場を調べた材料は、1つの組織の事例だけだった。6点のうち、現場を調べたのは2016年の質的研究で、それも1つの組織です。総説は他の実証研究をまとめたものですが、分析が決定を生むかを直接測った研究は、6点の中にはありませんでした。

会長講演と理論の論文は、論じたものであって、実験や調査の結果ではありません。2016年の事例は1つの組織で、業種や国は読めた範囲に書かれておらず、他の組織で同じことが起きるかは分かりません。総説の整理も、価値が生まれる過程はまだ十分に研究されていない、という結論を含みます。
どの論文も、日本の小さな店が数字を見てから決めるやり方を調べたものではありません。企業や組織の研究の構図を、店の決め方にそのまま当てはめることはしません。全文まで読めたのは6点のうち1点で、読めていないものについては書きません。
分析と決定の距離は、
この6点では確かめられず、
描かれてきた。
シラバス側の看板は、分析すれば決まるのではなく、分析と決定のあいだには距離があり、分析は問いを整える道具にすぎない、というものです。この号はこの看板を、6点が論じ、描き、整理してきた構図を束ねた編集側の命題として扱います。「問いを整える道具」という言い方も、6点のどれかの言葉の訳ではなく、編集側のまとめです。
TRY IT TODAY
- 01DATE
今日の日付と、最近見た分析結果を一つ書く(売上の集計、来店数の推移、アンケートの数字など、自分が関わったもの)。
- 02LOG
その分析が、実際にどの決定や行動につながったかを書く。つながっていなければ「つながらなかった」と書く。
- 03SORT
誰が見て、どんな段取りで決定に持ち込んだか、あるいはどこで止まったかを書き、分析と決定の距離に「近い」「遠い」のどちらかの印をつける。良し悪しは決めない。
この号が運べたのは三段です。2005年の講演が論じた、証拠に基づく経営はまだ希望で、隔たりは埋めうるという答え。2011年の理論と2016年の1組織の事例が描いた、合理的な決定は理論と人と道具で組み立てられ、分析の仕組みは問題の言語化と対話を促すという見方。そして2017年の総説が整理した、価値は条件の連なりで現れ、その過程の研究は足りないという現状。次の号は、予測モデルを業務に使うことを扱います。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「分析を意思決定につなぐには?」を、もっと深く学ぶ。→