IN DATA · ISSUE 536
● 12 SEC「数字が本物のデータで、客の声は彩りの添え物」。そう考えがちです。この号は、言葉や観察で捉える定性と、数で測る定量を組む読み方を、6点で確かめます。1点は定義を集めて分析した論文、1点は事例の選び方を論じた方法論のエッセイ、2点は面接を何件重ねれば新しい発見が出なくなるかを調べた実証研究、2点は混合研究法をまとめた学術書です。
先に向きを言うと、定性には数える調査とは別の論理と止めどきの基準があり、何件で足りるかは「飽和」の定義で変わり、少ない件数の目安には同質な集団という条件がついていました。元の面接は西アフリカと米国の保健の研究です。この号は、何人に聞けば十分かを勧めることも、件数の目安を日本の小さな店に当てはめることもしません。
定性は、言葉や観察で「なぜ」「どういう仕組みで」を捉える調べ方、定量は数で「どれだけ」を測る調べ方です。両方を一つの研究で組むのが混合研究法です。2007年の論文は、この分野の指導的な研究者に定義を尋ね、集まった19の定義の中身を分析して整理し、混合研究法を定量・定性と並ぶ “three major ‘research paradigms’”(三つの主要な研究の枠組み)の一つと論じました。

では、数人に話を聞いただけの定性は、数が少ないから弱いのでしょうか。2009年の方法論のエッセイは、面接の研究を無作為に選んだ小さな標本に見立てる工夫は狙いに届かないと論じ、面接の研究は “not small-sample studies but multiple-case studies”(小さな標本の研究ではなく、複数の事例の研究)として考えうると書きました。
01事例の選び方は、統計の代表性とは別の論理で考えうると論じた。2009年のエッセイは、全体を代表させるための標本の論理と、事例を重ねて仕組みを確かめる事例研究の論理を分け、二つの代案として、前の面接の答えが次の面接の問いを決める逐次的な面接と、拡張事例法の延長を論じました。実験や調査の結果ではありません。
02同質な集団の面接60件では、主題の基本要素は6件、飽和は12件までに現れた。2006年の研究は、飽和という考えは事前に人数を見積もる手がかりをほとんど与えないとして、ナイジェリアとガーナの女性60人の面接で確かめ、見積もりの目安を示しました。飽和は最初の12件のうちに起き、大きな主題の基本要素は6件目までに現れていました。
0325件の面接で、話題の種類は9件で出そろい、意味の理解には16〜24件を要した。2017年の研究は、米国の HIV 診療から離れた人と通い続ける人への面接25件を見直し、話題の種類が出尽くす「コードの飽和」と、中身を深く理解する「意味の飽和」を比べました。前者は9件、後者は16〜24件でした。

以下の三つは、2017年の研究の本文が報告した、飽和までの道のりです。面接は2013年の2月から7月、米国の一つの診療施設の患者25人(診療から離れた16人・通う9人)に行われました。離れた側では語られる事情が多様で、理解するのにより多くの面接が要ったと著者らは書きます。
01全45の話題のうち、53%は1件目の面接から出ていた。この研究で作られた話題の分類(コード)は全部で45。その53%が1件目から生まれ、6件目までに84%、9件目までに91%が出そろいました。残る16件から新しく出たのは4つ(全体の8%)で、より抽象的な話題でした。
02話題が出そろっても、意味の理解はその先まで続いた。著者らは “code saturation may indicate when researchers have ‘heard it all,’ but meaning saturation is needed to ‘understand it all.’”(コードの飽和は「すべて聞いた」時点を示し、「すべて理解する」には意味の飽和が要る)と書きます。
03「12件」も、6件ずつまとめて数えた値だった。2017年の研究は、2006年の研究の面接が6件ずつまとめて見られたため、飽和は実際には7件目から12件目のどこかで起きた、と読み直しています。件数は、数え方の細かさでも変わります。

2006年の面接は、HIV の危険が高い女性(性産業で働く人を含む)を対象にした研究の一部で、著者ら自身、集団は比較的同質で目的も狭かったと断り、話題の出そろい方は自分たちの分類の作り方に基づくと書きます。12件は事前の見積もりの目安で、どこでも足りる人数ではありません。
2017年の研究も米国の一つの施設の面接です。どちらも日本の店の客の声を調べたものではありません。学術書2冊は書誌まで。全文まで読めたのは6点のうち2点で、読めていないものについては書きません。
話題が出そろっても、
意味の理解は、その先の
面接まで続いた。
シラバス側の看板は、定性は独自の論理と標本の考え方と厳密さの基準を持つ、数字と対等な相棒で、数字にならない仕組みや意味や想定外を掘り当てる、というものです。この向きを支えるのは、方法論のエッセイ、飽和を調べた実証2本、定義を整理した論文、そして組み方をまとめた学術書2冊です。
TRY IT TODAY
- 01DATE
今日の日付と、自分の商いの数字を一つ書く(ある月の売上、ある品の返品数、来客数の増減など)。
- 02LOG
その数字の隣に、数字にならない観察を思い出せるだけ書く。レジでの客の一言、アンケートの自由記述、現場で見た様子、自分が引っかかった違和感など。
- 03SORT
観察のそれぞれに、「なぜ」「どういう仕組みで」「思いもしなかったこと」のどれに当たるかの印をつけ、数字だけでは分からなかったことを一言で書く。良し悪しは決めない。
この号が運べたのは三段です。2007年の論文が19の定義から整理した、混合研究法という組み方。2009年のエッセイが論じた、面接を複数の事例として設計する論理。そして二つの実証が示した、飽和までの件数が飽和の定義と数え方で変わり、目安には集団の同質さという条件がつくこと。何人に聞けば十分かを、読めた範囲で一つの数で答えたものはありません。次の号は、データから物語を語ります。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「定性の声を数字と組むには?」を、もっと深く学ぶ。→