IN NEW BUSINESS · ISSUE 528

(仮ビジュアル)暗い石の台に並ぶ朝食。器に盛られた洋梨とさくらんぼとオーツ麦、水の入ったグラス、たたまれた麻の布● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「新しい事業を段階ごとに審査する関門があれば、良い案が残り、悪い案は落ちる」。そう考えがちです。この号は、始めた事業を止められなくなる傾向と、それを減らす手立てを、論文6点で確かめます。4点は管理者の判断を調べた実証研究(うち3点は実験)、1点は1つの組織の事例研究、1点は論考です。

先に向きを言うと、上級幹部を被験者にした1997年の実験では、失敗した新製品を続ける強い偏りが出ました。発売時に自分で決めた撤退ルールに縛っても偏りはあまり減らず、最も効いたのは与えられたルールに従うことと、止める判断の時点で判断役を替えることの二つです。ただし、どれも偏りを消し切れていません。この号は、この結果を日本の小さな商いに当てはめることも、打ち切りの方法を勧めることもしません。

研究はこの傾向を「コミットメントのエスカレーション」(ここでは、のめり込み)と呼びます。2014年の実験の要旨は、それを “decision‐makers' tendency to persist with an innovation project despite negative feedback”(否定的な知らせがあっても、革新の事業を続けようとする意思決定者の傾向)と書きます。

(仮ビジュアル)石造りの建物の広い階段を、黒いロングコートに白いワイドパンツの女性がひとりで下りてくる写真
うまくいかない事業を、それでも続ける。研究はこの傾向をエスカレーションと呼ぶ。 Visual: ALIFE

事業化の関門は、段階の終わりごとに続けるか止めるかを決める審査の型で、ステージゲートとも呼ばれます。2014年の実験は、この型の審査を設定にしました。この号が見るのは、関門の仕組みの良し悪しではなく、そこで判断する人に何が起きるか、です。

01事業を始めた本人ほど、失敗と認めにくく、資金を出し続けた。新製品開発の継続と打ち切りの判断を調べた2002年の研究では、事業を自分で始めた管理者は、途中から引き継いだ管理者より、失敗しつつあると認めにくく、資金を出し続けやすかった。革新的な製品ほど傾向は強く、商品化の後より開発中のほうが深刻だった、と要旨は書きます。対象が学生か実務家かは読めていません。

02最初の決定に関わっていない人も、のめり込んだ。2006年の研究は、最初の決定に関わったことはのめり込みの必要条件ではなく、原動力は、はじめの楽観的な見込みを悪い新情報の前で不適切に使うことだと報告しました。2000年の作業論文版の実験は142人が経営者の役を演じる形で、約3分の2が MBA の学生です。刊行版の標本の記述は確かめていません。

03上級幹部の実験では、失敗した製品を続ける偏りが強く出た。1997年の研究は、上級幹部を被験者にした統制実験(条件を割り振って比べる実験)で、発売に失敗した新製品に関与し続ける強い偏りを見いだし、それを減らす5つの決定支援を作って試しました。何がどこまで効いたかは、次の節で見ます。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆の3本の脚が支えているコンソールテーブル
始めた本人・はじめの見込み・幹部の偏り。三つの研究が見たのめり込みの姿。 Visual: ALIFE

以下の三つは、1997年と2014年の実験の要旨が、失敗しつつある事業を続ける判断を減らした、または減らさなかったとして挙げたものです。実験の中の判断で、実際の会社の関門で同じ結果になるかは確かめていません。

01情報をよくしても、自分で決めた撤退ルールでも、あまり減らなかった。1997年の実験では、判断材料の質を上げても、発売時に自分で決めた撤退ルールに前もって縛っても、偏りは大きくは減りませんでした。要旨は後者を “nor does precommitment (at time of launch) to self-specified decisions rules”(発売時に自分で決めた決定ルールへの事前の縛りも〔減らさない〕)と書きます。

02最も効いたのは、与えられたルールと、判断役の交代。同じ実験で最も効いたのは、あらかじめ定められた決定ルールに前もって従うことと、止めるかどうかの判断の時点で新しい意思決定者を入れることの二つでした。後者がわずかに上回っただけで、どの手続きも偏りを消し切れなかった、と要旨は書きます。

03判断を見える形にし、外の助言を入れると、続ける判断が減った。ステージゲート型の審査を設定にした2014年の実験では、研究開発の管理者137人を対象に、判断を目に見える形にする支援とコンサルタントの助言が、損失の続く事業に資金を出し続ける判断を減らしました。両方の併用で効果は最も強く、商品化の前のほうが有効だった、と要旨は書きます。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
自分で決めたルール・与えられたルールと交代・見える形と助言。実験が比べた手立て。 Visual: ALIFE

2008年の研究は、1つの組織のポートフォリオ会議(どの事業に投資し、どれを止めるかを決める会議)を観察した事例研究です。決める人は損得を計算する存在ではなく、公式の規則・他の人の観察・組織の文脈・組織の学習に形づくられ、判断は “more a matter of making appropriate decisions than of optimal or rational decision making”(最適や合理より、適切な判断の問題)になっていた、と要旨は書きます。

要旨はこの研究が1つの組織の事例に限られると自ら断り、「政治」の語も使っていません。実証の5点が見たのは、企業の新製品開発をめぐる上級幹部・管理者・MBA の学生の判断と1つの組織で、日本の小さな商いで自分の案を自分で打ち切る場面を調べたものは、読めた範囲にありません。全文まで読めたのは6点のうち2点で、読めていないものについては書きません。

上級幹部の実験で効いたのは、
与えられたルールと、判断役の交代。
それでも偏りは消し切れなかった。

シラバス側はこの単位を「関門はのめり込みと政治で歪み悪い案を延命する。良い案を残すのは証拠」と置きます。6点が支えるのは、のめり込みが実験で現れ、与えられたルールと判断役の交代が効いたところまでです。「政治」は6点に無く、1つの組織の研究が描いたのは周りの期待に沿う「適切さ」でした。

「良い案を残すのは証拠」も6点に直接の支えはありません。2014年の論考はむしろ、事業を続けるか畳むかは、市場で競う前に少数の投資家が、誘因や利害の問題を抱えながら決めることが多いと論じています。どちらも編集側の命題です。

TRY IT TODAY

  1. 01DATE

    今日の日付と、自分の新しい商いの案を一つ書く。本業の傍らの案でもよい。その案が誰のどんな用事に応えるつもりか、書き留めた記録があるかも一行で。

  2. 02LOG

    その案についてこれまでに届いた知らせを書き出す(困りごとは本当にあったか・試しはうまくいったか・客は払ったか)。各行に、届いた日付か時期を添える。

  3. 03SORT

    各行に「記録がある」「始めたときの見込みのまま」「まだ空白」の印をつけ、それぞれの数を数える。続けるか止めるかは決めない。

10分。実在の相手を評価せず、自分の記録として完結させます。これは研究結果そのものではなく、記録の単位を決めてみるためにALIFEが提案する実践入口です。資金・契約・税務などの判断は専門家へ。

この号が運べたのは三段です。2002年の研究では事業を始めた本人ほど続けやすく、2006年の研究では始めた本人でなくても、はじめの楽観的な見込みが悪い知らせの読み方を歪めていたこと。上級幹部の実験では、自分で決めた撤退ルールより、与えられたルールと判断役の交代が効き、それでも偏りは残ったこと。管理者137人の実験では、見える形の支援と外の助言が続ける判断を減らしたこと。

1つの組織の会議の事例は、判断が周りの期待に沿う「適切さ」へ流れる姿を描きましたが、政治で歪むとは書いていません。次の号は、この群の最初に戻り、顧客の片づけたい用事を見にいきます。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「事業化の関門を越えるには?」を、もっと深く学ぶ。→

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。