IN NEW BUSINESS · ISSUE 527

(仮ビジュアル)石造りの建物の広い階段を、黒いロングコートに白いワイドパンツの女性がひとりで下りてくる写真● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「熱意ある推進役がいれば、社内は通る」。そう語られがちです。この号は、組織の中で新しい案を推す人の研究を、論文6点で確かめます。3点は推進役を調べた実証研究、1点は理論、2点は一つの組織を掘り下げた質的研究です。全文まで読めたのは6点のうち2点。読めていないものについては書きません。

先に向きを言うと、研究開発の担当者から見た2000年の調査では、推進役は資源を集め、案件を打ち切りから守っていました。けれど成績の高い案と低い案を、同じように支えていたのです。この号は、この結果を日本の小さな商いに当てはめることも、通し方を勧めることもしません。

2000年の調査でいう推進役(チャンピオン)は、経営・マーケティング・生産・顧客サービスなどの部門にいて、研究開発の案件を支持する人です。反対に回る人は反対役と呼ばれます。上層部の限られた注意をある課題に向けさせる働きかけは「イシュー・セリング」と呼ばれ、1993年の理論論文がその枠組みと “a set of testable research propositions”(検証できる一連の命題)を論じました。

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗いガラスに自分の姿を映しながら街の明かりのほうを見ている、黒いスーツの女性
案を推す人と、上層部の注意を向けさせる働きかけ。この号が見る二つの役。 Visual: ALIFE

1990年の研究は、技術革新の推進役と、そうでない人の25組を質問紙と面接で比べました。推進役は変革型のリーダー行動をよくとると自ら答え、リスクをとり、多様な働きかけを多く試みていました。測ったのは “a model of champion emergence”(推進役の出現のモデル)で、推進役がいると事業が進むかではありません。

01研究開発の推進役は、成績の高い案も低い案も同じように支えた。研究開発の担当者から見た2000年の調査。推進役は資源を見つけ、案件を打ち切りから守っていた一方、“they are equally likely to support high and low performing projects”(成績の高い案と低い案を等しく支える)。著者は、推進役についての研究上の通念の多くと食い違う結果だと書きます。

02相手を動かしたのは、働きかけの手口より、相手との関係だった。4つの大企業の推進役53人と、そのチームに答えてもらった1998年の縦断調査。推進役は対立より協調的な働きかけを使っていましたが、手口の選び方は相手の協力の度合いと結びついていませんでした。強い影響が見られたのは、相手と良好な個人的関係があるときでした。

03チームの側から見ると、推進役が業績に寄与した裏づけはなかった。同じ1998年の調査の要旨は、チームの視点では “do not support the notion that champions make a positive contribution to project performance”(推進役が業績に良い寄与をするという考えを支持しない)と書きます。一方で推進役自身は、案件をチームより一貫して肯定的に見ていました。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆の3本の脚が支えているコンソールテーブル
選ばずに支える・関係で動く・見立てがずれる。推進役を調べた三つの結果。 Visual: ALIFE

以下の三つは、ある地域の非営利病院1施設で、管理者42人が振り返った82件の売り込みの語りから、2001年の質的研究が整理したものです。うまくいった・いかなかったという本人の振り返りで、効果を確かめたものではありません。著者もこれを “imperfect representations of managers' implicit theories”(管理者の暗黙の理論の不完全な写し)と書きます。

01包み方: 数字と図で、事業計画の筋に乗せる。語りで最も多く挙がった見せ方は、数字や図を使い、収支への影響を強調する事業計画の筋立てで、4分の3を超える管理者が触れていました。課題を収益性など組織が重んじる目標に結びつける包み方も、うまくいった語りに多く出ています。

02巻き込み: 誰を、いつ、どう引き込むか。自分より下の立場にいて、その課題で影響を受ける人を巻き込んだという話は、うまくいった語りに3倍多く出ました。失敗を振り返って、先に働く人たちに話すべきだったと語った管理者もいます。語られた頻度の差で、巻き込めば通るという検証ではありません。

03タイミング: 粘り強さと、好機をつかむこと。粘り強さは、うまくいった語りに2倍多く挙がりました。好機を逃したと悔やむ語りもありました。一方で入念な準備は成否の語りにほぼ同じ頻度で出ており、著者は、準備は関係するが成功の十分条件ではないかもしれない、と書きます。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
包み方・巻き込み・タイミング。病院1施設の管理者が振り返った三つの動き。 Visual: ALIFE

推進役を調べた3点は、要旨まで読めた範囲で書いています。1983年の研究は、米国のハイテク大企業1社の6つの事業と61人への聞き取りから社内ベンチャーの過程を描いた質的研究で、現場の人の自発的な発案が社内起業の案の多くを生み、中間の管理者がそれを全社の戦略につなぐ役を担っていたと報告しました。

2001年の研究は病院1施設で、著者自身が、競争の圧力から長く離れてきた単一の組織のデータだと限界に書きます。6点の読めた範囲に、日本の小さな商いで、家族や共同経営者、取引先に新しい案を通す場面を調べたものはありません。

研究開発の推進役は、
案件を打ち切りから守り、
成績の高い案と低い案を等しく支えた。

シラバス側はこの単位を「熱意あるスポンサーがいれば通る——だが熱意は良い案も悪い案も等しく押し通す。通すことと筋が良いことは別」と置きます。前半の「いれば通る」は、2000年の調査が見た「資源を集め、打ち切りから守る」の範囲までです。後半は2000年の調査と1998年の調査の範囲で支えられます。ただ、6点の読めた範囲に、推進役がいれば事業が成功すると示したものはありません。1998年の調査はむしろ、チームから見た寄与を支持しませんでした。

TRY IT TODAY

  1. 01DATE

    今日の日付と、新しい商いや計画を誰かに通した(またはこれから通す)場面を一つ書く。相手は家族・共同経営者・取引先など。

  2. 02LOG

    紙を左右に分け、左にその案を推す気持ち(なぜやりたいか)、右にその案について手元にある客の反応や数字(予約・前払い・聞き取りで分かったことなど)を書く。

  3. 03SORT

    右の各行に「確かめた事実」「人から聞いた話」「まだ無い」の印をつけ、左に比べて右が薄い所を一つ書き出す。通すかどうかは決めない。

10分。相手も自分も評価せず、自分の記録として完結させます。これは研究結果そのものではなく、記録の単位を決めてみるためにALIFEが提案する実践入口です。資金・契約・税務などの判断は専門家へ。

この号が運べたのは三段です。研究開発の担当者から見た2000年の調査で、推進役が案件を打ち切りから守る一方、成績の高い案と低い案を同じように支えていたこと。1998年の調査で、相手を動かしたのは手口より関係で、チームから見た業績への寄与は確かめられず、推進役自身は楽観的だったこと。売り込みの動きは、病院1施設の管理者の語りから整理されたこと。

推す力は案件を生き延びさせても、案の出来を選り分けた証拠にはなりませんでした。次の号は、事業化の関門をどう越えるか、を見にいきます。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「社内の壁を越えるには?」を、もっと深く学ぶ。→

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。