IN NEW BUSINESS · ISSUE 513
● 12 SEC「顧客が片づけたい用事を掴めば、新しい商いは当たる」と語られることがあります。この号は、用事という見方がどこから来たか、計画や手法に効き目はあるか、掴んだ用事をどう扱うかの三つを、研究論文と書籍で確かめます。
先に向きを言うと、束ねた研究では計画した会社のほうが成績は少し良く、その強さは会社の新しさと文化で変わりました。「手法は撤退を賢くする」という説明は、読めた範囲に出典がありませんでした。扱う研究は海外の会社や米国の投資の世界のもので、日本の小さな商いに当てはめることも、起業の助言もしません。
顧客は製品そのものではなく、ある用事を片づけるために製品を雇う——これが片づけたい用事(ジョブ)の見方です。2016年の実務書はこの見方を広め、第1章の題に “The milk shake dilemma”(ミルクシェイクのジレンマ)を置いています。この号が読めたのは目次までで、例の中身と元の調査は確かめていません。

実務書の事例は見方を教えますが、査読を経た検証ではありません(これはALIFEの判断です)。研究の側は性格がばらばらで、2010年の研究は既存の研究を束ねたメタ分析、2014年の論考は総説、2001年と2020年の論文は理論とエッセイです。研究論文4点は全文まで読めました。書籍は目次と書誌まで、6点の外の1点は抄録までです。読めていないものについては書きません。
01全体では、差は小さく、向きは良い側。2010年のメタ分析は46の研究・11,046の小さな会社を束ね、計画した会社の成績(売上の伸び・収益性など)が少し良いと報告しました。標準化平均差(両群の差を散らばりの幅で割った値)は0.20で、小さな差です。著者の結論は “planning is beneficial”(計画は有益)。
02新しい会社では弱く、既存の会社で強い。新しい会社の研究(15の効果量・3,713社)では0.13、既存の小さな会社(36の効果量・7,333社)では0.24でした。どちらも正の向きで、計画が害になる向きは出ていません。新しい会社の研究が少ないことを、著者自身が限界に挙げています。
03不確実さを避ける文化では、弱まる。不確実さを避ける傾向が強い文化圏の研究(10の効果量)では0.08、弱い文化圏(41の効果量)では0.26でした。著者は、計画と学びを組み合わせ、状況に応じて手直しする進め方を提案しています。これは提案で、検証された手順ではありません。

2020年のエッセイは、起業家を価値の生み方について理論を立て、仮説を確かめる実験を組む存在としたうえで、すぐ観察できる反応を重んじるリーンの手法が “validation only where it is easy to observe it”(観察しやすい所でだけ確かめる)方向へ人を押すと論じました。実証ではなく論考です。
以下の三つは、用事を答えとして扱っているときの形としてALIFEが置いた読み筋で、研究が確かめたサインではありません。
01逸話が、根拠の欄に入っている。用事の見方の代表例は、実務書の一章です。事例は見方を教えますが、自分の顧客についての証拠にはなりません。これはALIFEの判断で、研究の結論ではありません。
02確かめやすい所だけを、確かめている。2020年のエッセイは、すぐ観察できる反応を重んじる進め方が、新しい理論や仮説を組み立てる仕事を軽く扱わせ、小さな改善しか生まない実験に偏らせがちだと論じました。
03用事を、遠くにだけ探している。2001年の理論論文は、予測の論理に対して “effectuation on the logic of control”(手元で制御できるものの論理)を置き、機会は手元の資源から組み立てられうると論じました。実証は今後の課題として、命題を示すにとどめています。

シラバス側には、比較試験が方法は撤退を賢くすると示した、という趣旨の説明がありますが、6点に比較試験はありません。いちばん近い無作為化比較試験(イタリアの116のスタートアップ・約1年、6点の外で抄録まで)では、仮説を立てて試すよう教わった群は業績が良く、別の案への切り替えが多く、初期にやめる率は対照群より高くありませんでした(“not more likely to drop out”)。「賢い撤退」は編集側の命題です。
2010年のメタ分析が束ねた研究は、計画の有無や程度を段階で測ったものが約8割で、横断と縦断の研究が混ざります。計画を始めれば成績が上がると確かめたものではありません。日本の小さな商いで同じ向きが出るかは書きません。
46の研究・11,046の小さな会社を束ねると、
計画した会社のほうが成績は少し良く、
その強さは会社の新しさと文化で変わった。
2014年の論考は、起業を実験として捉え、“the probabilities of success are low, extremely skewed and unknowable until an investment is made”(成功の確率は低く、極端に偏り、投資してみるまで分からない)と論じました。米国の事例とデータを多く引く総説で、実証の結果ではありません。
TRY IT TODAY
- 01DATE
今日の日付と、温めている(または想像する)新しい商いを一つ書く。副業でも、店の新しい売り物でもよい。
- 02LOG
「私は〔誰〕の〔どんな場面〕での〔片づけたい用事〕を助ける」の形で、二つか三つ書き出す。
- 03SORT
一文ずつに「自分の目で確かめた事実」「まだ確かめていない思い込み」の印をつけ、いちばん確かめたい思い込みに丸をつける。
この号が運べたのは三段です。用事の見方は実務書が広めたもので、代表例は書籍の一章だったこと。束ねた研究では計画した会社のほうが成績は少し良く、その強さは会社の新しさと文化で変わったこと。掴んだ用事は確かめる前の仮説として扱うべきだ、と論じられてきたこと。
この群は、ここから確かめ方へ進みます。次の号は、課題の深さの確かめ方です。用事を書いた一枚は当たりを約束しませんが、外れたときに何が違ったかを並べるための記録になります。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「顧客の片づけたい用事を掴むには?」を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 効果量
- 差や関連の「大きさ」を、単位の違う研究どうしでも比べられるようにした共通の物差し。「効果があるか」ではなく「どれくらいか」を表します。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
- 無作為化比較試験
- くじ引きの要領で「介入を受ける群」と「受けない群」に分けて比べる実験。「効いたかどうか」を言うための標準的な設計です。
