IN NEW BUSINESS · ISSUE 526
● 12 SEC「小さく始めれば、安全に育つ」。そう言われがちです。この号は、事業の伸び方と生き残りを、論文5点と業界調査1点で確かめます。論文は企業データの実証2点、理論2点、総説1点です。全文まで読めたのは6点のうち4点。読めていないものについては書きません。
先に向きを言うと、英国で2004年に開業した6,247社を6年追った研究では、売上の伸び方に決まった型は見当たりませんでした。しかし生き残りは偶然だけでは決まらず、それまでの伸びや開業時の規模と結びついていました。この号は、日本の小さな商いに当てはめることも、広げ方を勧めることもしません。
全額を一度に賭けず、少し投じて様子を見てから次を決める。経営の理論はこれをリアル・オプション的な考え方と呼びます。1999年の理論論文は、この考え方で起業の失敗を見直し、条件が良いときだけ追加で投じれば損を抑えられる、と論じました。出したのは検証を待つ命題7本で、データは使っていません。

同じ論文の命題の一つは、固定費と引き返せない投資を抑えて一つひとつの損の下限を区切るほど、全体の価値は大きくなる、というものです。区切る対象は、固定費と引き返せない投資です。ここまでは理論の側の話で、次にその境界と、二つの企業データを見ます。
01投資を順に重ねるだけでは、選択肢にならないと論じた。2004年の理論論文は、探るうちに選べる道そのものが変わっていくほど、撤退の判断は形を失い、刻んだ投資は単なる積み重ねと見分けにくくなると論じました。要旨は “a sequential stream of investment in and of itself does not constitute a real option”(投資を順に重ねること自体は、リアル・オプションではない)と書き、組織の工夫で当てはまる範囲は広がるが、引き換えの損も伴うと添えます。
02英国の開業6,247社では、伸び方に型は見当たらなかった。2013年の研究は、刊行版の要旨によれば2004年の同じ四半期に開業した英国の6,247社の売上と存続を、銀行の口座記録で6年追いました。伸びと落ち込みの並び方を調べると、どの並び方もほぼ同じ確率で現れ、成長の型を支える強い証拠は無かったと書きます。
03ただし生き残りは、それまでの伸びや開業時の規模と結びついた。同じ研究で、直前の規模をそろえても、何期も前までの伸びや開業時の規模は、その後の存続と有意に結びついていました。作業論文版で、著者は生き残りを “not purely a matter of chance”(純粋な運の問題ではない)と書きます。観察データの分析で、伸ばせば残れるという因果を示したものではありません。

以下の三つは、伸びた会社を別の角度から見たものです。一つ目はスウェーデンの実証、二つ目はそれと2013年の研究との食い違い、三つ目は総説です。同じ向きを支える材料としては束ねません。
01スウェーデンの高成長1,501社には、七つの型があった。2003年の研究は、1996年に従業員20人超だったスウェーデンの全企業11,748社から高成長の1,501社を選び、10年分を19の指標で分けました。伸び方は7種類で、著者は “These growth patterns are not random.”(これらの型は無秩序ではない)と書きます。型は年齢・規模・業種と結びついていました。
02型があるかないかで、二つの研究の答えは逆を向く。2003年の研究は高成長企業に絞って型を見つけ、2013年の研究は開業したての企業に型の強い証拠を見ませんでした。国も標本も物差しも違い、どちらかを正しい答えとはできません。重なるのは、典型的な伸び方が一つあるわけではない、という点までです。
03育つ途中の組織には、残る話と、大きく変わる話がある。2017年の総説は、成長する新しい事業の内部組織の研究を、組織の特徴が意外なほど残るという流れと、劇的に変わるという流れの二つに整理しました。組織の設計・チームの構成・文化の三つで、まだ分かっていないことが多いとまとめています。

「早すぎる拡大」の数字の出どころの一つは、起業支援の事業者が2011年に出し2012年3月に改訂した報告です。自社のオンライン診断に登録した約3,200社の回答を機械学習で分類した業界調査で、査読は経ていません。データ全体の約70%に早すぎる拡大の兆候があったとし、別に、高成長のネット企業の74%が早すぎる拡大で失敗する、と書きます。二つは分母が違い、失敗の定義も公開されていません。
理論の2点は論証で、効果を測っていません。実証の2点は英国(イングランドとウェールズ)の銀行口座と、スウェーデンの従業員20人超の企業です。どれも日本の小さな商いを調べたものではなく、本業の傍らの開業へは当てはめません。
英国の開業6,247社で、
伸び方は偶然に近かったが、
生き残りは偶然だけでなかった。
シラバス側はこの単位を「小さく始めれば安全に育つ——だが『小さく』は『遅く』でなく『引き返せる刻み』。段階投資にも境界、成長は運も絡む」と置きます。前半は理論2点が論じる範囲です。「運も絡む」は伸び方については2013年の研究と合いますが、生き残りまで運とは言えません。この号は、伸び方は読めないが、生き残りは伸びや開業時の規模と結びついていた、と組み直します。
TRY IT TODAY
- 01DATE
今日の日付と、これから広げたい(または広げた)商いを一つ書く。本業の傍らのものでもよい。
- 02LOG
その拡大に要るものを、思いつく順に書き出す(道具・場所・人・時間・お金)。それぞれに、かかる額か時間の見込みを分かる範囲で添える。
- 03SORT
各行に「あとで止められる」「止めにくい」「まだ分からない」の印をつけ、それぞれの数を数える。広げるかどうかは決めない。
この号が運べたのは三段です。1999年と2004年の理論が、少しずつ投じる考え方と、それが当てはまる境界を論じたこと。英国の6,247社では伸び方に型が見当たらなかった一方、生き残りはそれまでの伸びや開業時の規模と結びついていたこと。スウェーデンの高成長1,501社では七つの型が見つかり、二つの研究は型の有無で食い違うこと。
小さく刻めば必ず育つ、という一本の筋にはなりません。次の号は、その事業を組織の中でどう通すか、を見にいきます。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「小さく始めて大きく育てるには?」を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。