IN NEW BUSINESS · ISSUE 525
● 12 SEC「本業で培った客や技術、信用があるなら、ゼロから始めるより有利だ」。そう考えがちです。この号は、本業の資産が新しい事業でどう働くかを、論文6点で確かめます。3点は数量の分析、1点は新聞社の現場データの研究、2点は1社ずつを詳しく追った事例研究です。全文まで読めたのは6点のうち3点。読めていないものについては書きません。
先に向きを言うと、工業製品の社内新事業88件の分析では、本業との近さの高低だけでは市場シェアに差がなく、親会社の無形資産が厚いときに近い事業が最も高いシェアでした。米国の上場企業の出資が企業価値と結びついたのも、技術を取り込む狙いのときでした。対象は大企業で、日本の小さな商いの本業に当てはめることも、進め方を勧めることもしません。
ここで言う本業の資産は、すでにある事業が持つ客・技術・設備・信用、仕事の手順、ものの見方です。研究は、大企業が社内で立ち上げる新事業や、外の新興企業への出資(社内ベンチャー投資、CVC)を通じて、この資産が新しい事業で生きるかを問うてきました。この号では本業を「親」、新事業を「子」と呼びます。

6点は、助けになる側と足を引く側の両方を報告しています。数量の分析3点は資産と成果の結びつきに条件があることを示し、新聞社の研究は硬直の二つの型を描き、事例研究2点は1社ずつの過程を描きました。事例は、どの会社にも同じことが起きると示したものではありません。まず条件の側から見ます。
01本業に近いだけでは、新事業のシェアに差はなかった。1995年の研究は、工業製品の社内新事業88件のデータで、本業との近さを高・中・低に分けて市場シェアを比べました。要旨は “relatedness does not affect venture performance”(近さは新事業の成果を左右しない)と書く一方、親の無形資産が厚いときは、近い事業が最も高いシェアだったと報告します。
02米国の上場企業の出資が企業価値と結びついたのは、技術を狙うときだった。2006年の研究は、米国の上場企業1,173社(1990〜99年、うち出資したのは171社)のパネルデータで、企業価値の指標(Tobin's q=市場の評価)を比べました。結論は “CVC is likely to create firm value only when pursued for strategic reasons”(戦略的な狙いのときにだけ企業価値を生みそうだ)です。
03出資と後の特許の結びつきは、知財の守りが弱い業界で強かった。同じ著者による2005年の研究は、約2,300社の上場企業を20年追い、出資の増加がその後の特許(引用で重みづけ)の増加と結びついたと報告します。結びつきが強かったのは、知的財産の保護が弱い業界と、知識を取り込む力(吸収能力)を持つ会社でした。2006年とは別のデータと指標です。

以下の三つは、1社を追った事例研究2点と、新聞社の現場データの研究1点が描いた過程です。数を比べた結果ではなく、どの会社にも起きる頻度を示したものではありません。
01写真フィルム大手1社では、経営陣の見方が投資を押し、製品化を遅らせた。2000年の事例研究は、アナログからデジタル画像への転換に直面した写真フィルム大手1社を、作業論文版で15人への20回の面接と資料から追いました。経営陣の信念はデジタル技術への大きな投資を後押しした一方、本業で成功した「本体は安く、消耗品で稼ぐ」型の信念が、単体のデジタルカメラの製品化を遅らせたと描きます。
02新聞社の研究では、脅威の認識が二つの硬直に逆向きに働いた。同じ2005年でも、こちらはデジタルメディアの台頭への新聞社の対応を調べた研究です。慣性を、資源の配分を変えられない硬直と、資源を使う手順を変えられない硬直に分け、強い脅威の認識は “helps overcome resource rigidity but simultaneously amplifies routine rigidity”(前者を越える助けになり、同時に後者を強める)と要旨に書きます。
03ハイテク大企業1社では、新事業の種は現場の個人の発案だった。1983年の研究は、米国のハイテク大企業1社の6つの社内事業と、関わった61人への面接から過程のモデルを描きました。多くの発案は現場の個人の自律的な動きから生まれ、中間管理職がそれを会社の戦略につなぎ、親会社の構造の文脈の中で選ばれていく、という過程です。

全文まで読めたのは、2006年と特許を見た2005年の出資の研究、写真フィルム大手の事例研究(作業論文版)の3点です。近さの研究、新聞社の研究、1983年の研究は要旨までです。出資の2研究は観察データの分析で、2006年は出資する会社の選ばれ方の偏りを補う推定も行っていますが、どちらも無作為に割り付けた比較ではありません。企業価値の指標も市場の評価です。
事例研究2点はどちらも1社を追ったものです。6点とも企業(大企業の社内事業、上場企業、新聞社)を対象にしており、本業を持つ個人が日本で小さな商いを始める場面を調べたものは、読めた範囲にありません。
工業製品の社内新事業88件では、
本業との近さの高低で、
シェアに差は見られなかった。
シラバス側はこの単位を「本業の資産は強みになる——だが強みは制約に反転し、関連は万能でなく、親の資産には型がついてくる」と置きます。近さの高低だけでは差がないこと、出資と学びに条件があることは数量の研究が支えます。強みが制約に反転する筋は1社の事例と新聞社の研究が描いた過程で、法則ではなく、この号の読み筋です。
TRY IT TODAY
- 01DATE
今日の日付と、自分の本業を一行で書く。本業の傍らで始めたい(または始めた)新しい商いも一行添える。
- 02LOG
本業の資産(客・設備・信用・日々のやり方・ものの見方)から一つずつ選び、新しい商いで助けになりそうな点と、足を引きそうな点を、左右に分けて書く。
- 03SORT
書いた各行に「持ち物(客・設備・信用)」「やり方」「見方」の印をつけ、それぞれの数を数える。何を捨てるか、どう組み直すかは決めない。
この号が運べたのは三段です。工業製品の社内新事業88件では、近さの高低だけではシェアに差がなく、親の無形資産が厚いときに近い事業が最も高かったこと。米国の上場企業の出資は、技術を取り込む狙いのときに企業価値と結びつき、特許との結びつきは知財の守りが弱い業界で強かったこと。1社の事例と新聞社の研究では、同じ信念や脅威の認識が、助けと足かせの両方に働く過程が描かれたこと。
本業の資産は、あれば有利という一本の筋にはなりません。次の号は、小さく始めた商いをどう広げるか、を見にいきます。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「本業の資産を借りるには?」を、もっと深く学ぶ。→