IN NEW BUSINESS · ISSUE 524
● 12 SEC「値付けは、客に『いくらなら買う?』と聞けば分かる」。そう考えがちです。この号は、仮に聞いた支払い額と実際に払われる額のずれを、論文6点で確かめます。3点は多くの研究を束ねたメタ分析、3点は測り方を比べた実証研究で、6点とも読めたのは公式の要旨までです。
先に向きを言うと、消費者向けの品を扱った研究を束ねた2019年の分析では、仮に聞いた支払い額は実際より平均21%(約2割)高く出ていました。一方で、払う仕組みを組み込んだ聞き方にも、実際の購買とは一致しきらない面が報告されています。この号は、日本の小さな商いの値札に当てはめることも、値付けの方法を勧めることもしません。
支払意思(WTP)は、ある品に最大いくらまで払うかという額です。研究は、仮の質問で聞いた値と、実際に払う場面で測った値を分け、その差を「仮想バイアス」と呼びます。2019年の分析の要旨は、この差の平均を “on average, the hypothetical bias is 21%”(平均すると仮想バイアスは21%)と書きます。

環境や公共の財も含む評価実験を束ねた2001年と2005年のメタ分析も、仮に聞いた値が実際より高く出る向きを報告しています。この号の中心は、それとは別の束である消費財(消費者向けの品)のメタ分析と、測り方を比べた3つの研究です。要旨に無いことは書きません。
01品物の77研究を束ねると、仮の額は平均21%高かった。2019年のメタ分析は、消費財の支払意思を仮と実際の両方で測った77研究から115の効果量(比べた組の数)を束ねました。仮に聞いた額は実際より平均で21%高く出ています。これは全体をならした平均で、ずれの大きさは測り方や品の種類によって違った、と要旨は書きます。
02答えた額で買うことになる聞き方は、ただ尋ねるより低く出た。2002年の研究は3つの研究で、購買の場面で使える聞き方を比べました。答えた額しだいで実際に買うことになる仕組み(BDM法)では、ただ金額を尋ねる方法より支払意思が低く出ました。差を生んだのは答える手間ではなく、この払う縛りだった、と実験で示しています。
03払う仕組みでも、実際の購買とは一致しきらなかった。2011年の研究は、4つの聞き方を実際の購買データと比べました。払う仕組みを組み込んだ2つ(BDM法と、払いつきの選択型の調査)は統計と判断の検定に通った一方、実際の購買より価格に敏感な答えが出た、と要旨は書きます。

以下の三つは、2019年のメタ分析の要旨が、仮の額と実際の額のずれが大きかった条件として挙げたものです。束ねた研究どうしを比べた結果で、個々の店や品で同じになるかは確かめていません。
01間接に割り出す方法のほうが、直接聞くより大きくずれた。「いくらなら払うか」を直接聞く方法と、選択の仕方などから額を割り出す間接の方法を比べると、間接のほうが実際を大きく上回りました。要旨は、間接の方法のほうが正確だという想定を “In contrast with conventional wisdom”(通説とは逆に)と退けています。
02値の張る品や、特別に探して買う品で。高価な品ほど、また専門品(特別に手間をかけて探して買う品)ほど、ずれは大きかったと報告されています。要旨はこの点から、そうした品では仮に聞いた額をより大きく割り引いて読む必要がある、と書きます。
03同じ人に、仮と実際の両方を尋ねる設計で。同じ回答者に仮の質問と実際の支払いの両方を行う設計は、別々の人に分けて比べる設計より、ずれが大きく出ました。研究の組み方の条件で、買い手の種類の違いを示したものではありません。

2006年の研究は、実際に払う場合と仮の場合とで答える支払意思に “substantial and significant differences”(大きく有意な差)があり、測り方の間でも推定が異なったと要旨に書きます。ただ、どちらが高いか、どの方法が正確かは要旨に無く、本文も読めていないため書きません。
2011年の研究の要旨は、仮に聞く方法が高めに出ても “they may still lead to the right demand curves and right pricing decisions”(正しい需要曲線と価格判断に至りうる)と書きます。実払いに近いほど正確、という一本の筋にはなりません。要旨の範囲で、日本の小さな商いの値札や予約を調べたものはありません。
品物の77研究を束ねた分析では、
仮に聞いた支払い額は、
実際より平均21%高く出た。
シラバス側はこの単位を「値付けは聞けば分かる——だが快く『買う』と言った人ほど、前払いを募ると静かになる」と置きます。仮の額が高めに出る向きは6点が支えますが、快く答えた人ほど払わないという一人ひとりの結びつきを測った研究は、6点の要旨にはありません。後半は編集側の言い回しです。
TRY IT TODAY
- 01DATE
今日の日付と、いま出している(または出したい)品を一つ書く。本業の傍らの品でもよい。
- 02LOG
紙を左右に分け、左にその品の値段について人から聞いた言葉(「その値段なら買う」など)、右にその後に実際に起きたこと(予約・前払い・購入・見送り)を、分かる範囲で対応させて書く。
- 03SORT
各行に「言葉だけ」「お金や予約が動いた」「まだ分からない」の印をつけ、それぞれの数を数える。値段を変えるかどうかは決めない。
この号が運べたのは三段です。消費財の77研究を束ねた分析では、仮に聞いた支払い額が実際より平均21%高く、ずれは測り方や品の種類で違ったこと。2002年の3つの研究では、答えた額で買うことになる聞き方のほうが低く出たこと。2011年の研究では、払う仕組みでも実際の購買より価格に敏感で、仮に聞く方法でも価格判断は正しくなりうると書かれたこと。
聞いた値段は高めに出やすいが、測り方を替えれば正解に届く、という一本の筋にもなりません。次の号は、本業の資産を新しい商いにどう生かすか、を見にいきます。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「値付けを試すには?」を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 効果量
- 差や関連の「大きさ」を、単位の違う研究どうしでも比べられるようにした共通の物差し。「効果があるか」ではなく「どれくらいか」を表します。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。