IN NEW BUSINESS · ISSUE 522

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗いガラスに自分の姿を映しながら街の明かりのほうを見ている、黒いスーツの女性● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「初期ユーザーの声をたくさん集めて聞き切れば、正しく進める」。そう考えたくなります。この号は、集めた声がどちらへ寄りやすいかを、論文5点と実務書1点で確かめます。論文は、質問への答えの歪みを調べた研究、顧客満足の測り方の総説と再分析、買うつもりと実際の購買を扱った研究、1社のアイデア募集の比較、先を行く使い手に学ぶ方法を提案した概念論文です。

先に向きを言うと、1992年の総説と再分析は、顧客満足の自己申告がいつも高い側に偏って分布すると書きました。1993年の研究は、答えが自分を良く見せたい方へ歪むことを前提に、それを減らす聞き方を3つの研究で確かめています。この号は、消費財の調査や1社の募集の結果を日本の小さな商いに当てはめることも、聞き方の助言もしません。

1993年の研究は、社会的望ましさのバイアスを、自己申告の答えに生じる系統的な誤差で、回答者が恥を避け、“project a favorable image to others”(人に好ましい姿を見せる)ことを望むために起きるもの、と定義します。そのうえで、本人のこととして尋ねる直接の質問と、他人のこととして尋ねる間接の質問を比べました。

(仮ビジュアル)薄暗い部屋の黒枠の大きな鏡の前で、黒いローブ姿の女性が鏡に映った自分と静かに向き合っている写真
歪みの向きは、答える人が自分を良く見せたい方。1993年の研究はそう定義した。 Visual: ALIFE

結果は、間接の質問のほうが、社会的な評価を受けやすい項目で歪みが小さく、中立的な項目では有意な差がない、というものでした。複数の製品分野で同じ傾向だったと要旨は書きます。ここでの歪みは答える人自身の見え方で、聞き手の案を気遣って褒める迎合を直接測った研究は、6点の中にありません。全文まで読めたのは6点のうち1点。読めていないものについては書きません。

01満足の自己申告は、いつも高い側に偏っていた。1992年の論文は、顧客満足の文献の検討と実データの分析から、自己申告の満足度は “invariably possess distributions that are negatively skewed”(いつも高い側に偏った分布を持つ)と書き、測り方の交絡や汚染、多くの作りものが混じると述べます。測ること自体が偏りを生む、とまでは要旨は書いていません。

02買うつもりの申告と、実際の行動は食い違ってきた。1989年の研究は、新製品の購買意向と実際の購買について、著者らが最大と考えるデータを集めました。先行研究は “substantial variation between stated intention and actual behavior”(表明した意向と実際の行動の大きなばらつき)をしばしば見てきたと述べ、意向を補正して試し買いを予測するモデルを比べています。

031社の募集では、客の案が新しさで社内の案を上回った。乳幼児用品メーカー1社のアイデア募集で、群衆から集めたユーザーの案と社内の専門家の案を、出所を伏せて同社の幹部が評価しました。ユーザーの案は新しさと顧客にとっての便益で有意に高く、実行しやすさでは “somewhat lower in terms of feasibility”(やや低い)でした。1社・1回の比較です。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆の3本の脚が支えているコンソールテーブル
高く寄る満足・食い違う意向・新しさで勝った客の案。三つの研究が扱った声の中身。 Visual: ALIFE

以下の三つは、集めた好意をそのまま証拠として数えている形を見分けるためにALIFEが置いた読み筋で、研究が確かめたサインではありません。

01高い評価がそろったことを、そのまま手応えにしている。満足の自己申告はもともと高い側に寄りやすい、と1992年の論文は書きます。高い点が並ぶこと自体は、この分布の性質と区別しにくい、というのがこの読み筋です。自分の商いの感想で同じ偏りが出るかは、確かめられていません。

02「買いたい」の数を、そのまま見込みに足している。1989年の研究は、意向の申告をそのまま使わず、人に相談したいか・手が届くか・好きか・手に入るかといった見方で補正して、試し買いを予測するモデルを比べました。ずれがどちらの向きにどれだけ出るかは、この号が読めた要旨にはありません。

03先を行く少数の声と、多数の声を分けずに聞いている。1986年の論文は、今の強い必要が数か月から数年後に市場で一般的になる「リードユーザー」に注目する市場調査を提案し、彼らが “need-forecasting laboratory”(必要を先読みする実験室)になりうると論じました。しばしば自分で必要を満たす工夫をする、とも書きます。効果を測った論文ではありません。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
そろった高評価・足し上げた「買いたい」・分けずに聞く声。好意をそのまま数える三つの形。 Visual: ALIFE

論文5点のうち全文まで読めたのは1986年の論文(刊行前の稿)だけで、残る4点は要旨までです。1993年の研究の参加者、1989年の研究の品目数と、意向が実際より高く出たか低く出たかの向きは、要旨に無いため書きません。1986年の論文は方法の提案で、先を行く使い手の声が役立つかを測ってはいません。

2012年の比較は乳幼児用品メーカー1社の1回の募集で、評価したのは同社の幹部です。著者は、実行しやすさの平均はもともと高く、この研究では狭い関門にならなかったとし、群衆の案が社内の案を補う有望な方法になりうるのは少なくともある条件の下で、と限定します。先を行く少数か多数かではなく、群衆のユーザーと社内の専門家の比較です。日本の小さな商いで同じことが起きるかは、書きません。

顧客満足の自己申告は、
いつも高い側に偏って分布する、と
1992年の総説と再分析は書いた。

シラバス側は、2013年に自費出版された顧客インタビューの実務書を由来に、この単位を「母親でさえ、あなたの事業案を褒めてくれる」と掲げ、意見より過去の行動を聞く作法を置きます。この号はその本を書誌までしか確かめておらず、作法の効き目を測った研究は、論文データベース2つとウェブ検索で探した範囲では見当たりませんでした。聞き手への気遣いという中身は、6点のどれも測っていません。

TRY IT TODAY

  1. 01DATE

    今日の日付と、自分の売り物や試みを一つ書く。本業の傍らの取り組みでもよい。

  2. 02LOG

    最近もらった好意的な感想を一つ書き写し、その人が実際に買ったか、使い続けているか、以前に似た困りごとへお金や時間をかけていたかを、分かる範囲で書き出す。

  3. 03SORT

    感想の熱の高さと、書き出した行動の有無を並べ、食い違っている点に印をつける。相手を評価したり、確かめるために相手を試したりはしない。

10分。手元の感想と分かる範囲の行動を並べるだけで完結させます。これは研究結果そのものではなく、記録の単位を決めてみるためにALIFEが提案する実践入口です。資金・契約などの判断は、専門家へ。

この号が運べたのは四つです。1992年の総説と再分析では、満足の自己申告がいつも高い側に偏って分布していたこと。1993年の研究では、答えが自分を良く見せる方へ歪み、他人のこととして尋ねると社会的な項目でその歪みが小さかったこと。1989年の研究では、意向と行動のずれを補正するモデルが比べられたこと。2012年の1社の募集では、客の案が新しさと便益で社内の案を上回ったこと。

集まった「いいね」がそのまま需要の証拠にはならない、というのはこれらを束ねた編集側の見立てで、研究が直接確かめたものではありません。次の号は、採算の型を見にいきます。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「初期ユーザーの声を聞き切るには?」を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

統計的に有意
「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

Next in New Business

VIEW ALL
ISSUE 521売れ出した家電や機器の大半に、売上の谷が来た。ISSUE 523あるネット店は、いちばん有利な仮定で、やっと採算が合った。
ALIFE · ISSUE 522

本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。