IN NEW BUSINESS · ISSUE 521
● 12 SEC「最初の客を掴めば、そこから広がる」。そう語られがちです。この号は、新製品が初期の買い手から本流の買い手へ広がる途中で何が起きるかを、論文6点で確かめます。4点は販売の記録やモデルを使った量的研究、1点は研究の流れをまとめた総説、1点はイタリアの8事例の質的研究です。
先に向きを言うと、欧州16か国と日本・カナダ・米国で家電など10品目を追った研究では、売れ出した156組のうち148組で売上の谷が始まり、その理由は品目で違いました。初期と本流の買い手の断絶が支持されたのは、情報・娯楽の機器の側です。この号は日本の小さな商いに当てはめることも、最初の客の探し方の助言もしません。
2011年の研究は、谷(サドル)を “a sudden, sustained, and deep drop in sales of a new product”(新製品の売上の、急で、長く続く、深い落ち込み)と定義し、売れ出した後の急成長に続いて起き、やがて前の山まで回復するもの、と書きます。初期と本流の間の落ち込みを「キャズム(溝)」と呼んだのは1991年の実務書『Crossing the Chasm』で、のちに研究がモデルにした、と2010年の総説は記します。

2002年の研究は、家電の業界団体がまとめた62品目のうちデータの揃った32件を調べ、谷は厳しい条件(深さ20%以上・2年以上)で31%、条件を緩めると50%に見られた、と報告しました。初期市場と本流を別の二つの市場とみなし、両者の間の口コミの行き来が少ないと谷が起きやすいことを、模擬のモデルで示しています(模擬の値で50%超から5%未満まで)。
論文6点のうち、全文まで読めたのは3点(うち1点は刊行前の著者稿)。読めていないものについては書きません。
01売れ出した156組のうち、148組で谷が始まった。台所・洗濯の家電6品目と、パソコンやビデオカメラなど情報・娯楽の機器4品目を、1950〜2008年の販売記録で追いました。売れ出した品目と国の組み合わせのうち、台所・洗濯では99%、情報・娯楽では88%で谷が始まり、著者は “fairly pervasive”(かなり広く見られる)と書きます。
02谷は売れ出してから平均9年後、普及率30%のころに来た。谷の始まりは売れ出してから平均9年後、そのときの普及率は平均30%、底での落ち込みは29%でした。回復まで追えた120組では、谷は平均8年続きました(情報・娯楽は6.6年、台所・洗濯は8.5年)。残る組は観察の期間内に回復を確かめられていません。
03理由は一つでなく、品目ごとに二つずつ支持された。谷の始まりについて、情報・娯楽の機器では初期と本流の断絶と技術の世代交代の説明が、台所・洗濯の家電では景気の波と技術の世代交代の説明が支持されました。台所・洗濯の家電では、主な推定で断絶の説明は支持されませんでした(時間の扱いを変えた頑健性の推定では三つの説明とも支持)。販売の記録から推定した結果で、買い手に尋ねた研究ではありません。

以下の三つは、二層の市場のモデル・8事例の研究・売れ出すまでの年数の国際比較から、初期の反応を本流の需要と読み違えやすい形を見分けるためにALIFEが置いた読み筋で、研究が確かめたサインではありません。
01最初の買い手と後の買い手を、同じ客の延長と見ている。2007年の研究は、新しい動きに敏感な「影響を与える層」と、それをまねる層からなる市場をモデル化し、二層の混ざり方しだいで普及の曲線に谷が生じうることを導きました。33の普及データでは、二段構造がありそうなものでとくに当てはまりが良かった。当てはまりの比較で、市場が二層でできている証明ではありません。
02最初の客の役目が、商品の型によらず同じだと思っている。イタリアで2000年代に出た産業財8件の探索的な事例研究は、初期採用者が、使った評判を広める役と、買ったこと自体が後の買い手にまねられる役を担うと描きました。他の製品の土台になる型の製品では前者が、そうでない製品では後者が効いていた、と著者は書きます。8事例から描いた知見です。
03売れ出すまでの年数が、どこでも同じだと思っている。欧州16か国で10区分137品目を追った2003年の研究では、売れ出すのは発売から平均6年後でした。娯楽の製品は台所・洗濯の家電の4分の1の短さで、北欧は地中海の国々のほぼ半分の長さ。国ごとの差は文化で一部説明され、経済の要因は強くも頑健でもなかった、と報告されています。

10品目の研究で断絶を測った指標は、平均的な普及率からのずれを使った目安で、買い手の間の口コミの途切れを直接とらえたものではない、と著者自身が書きます。価格・広告・流通や、企業の参入と退出も統制できていません。2002年の研究も、データは電子機器の耐久財に限られると断っています。
2010年の総説は、谷を技術の変化や景気の出来事に帰すことも、消費者どうしの相互作用で説明することもできると整理しました。調べられたのは家電と機器の販売記録と産業財の8事例で、サービスや地域の店は含まれていません。この号は、日本の小さな商いで同じ谷が来るかを書きません。
19か国の10品目では、
売れ出した156組のうち148組で
売上の谷が始まり、理由は品目で違った。
シラバス側はこの単位を「最初の客は、道を照らす灯りであって、道そのものではない」と置きます。読めた範囲の研究が支えるのは、家電と機器では売れ出した後の谷が広く見られ、その理由が一つではないこと、つまり初期の売れ行きが本流の広がりを保証しないことまでです。6点の中に最初の客の声そのものを測った研究はないため、この言い回しは編集側の見立てです。
TRY IT TODAY
- 01DATE
今日の日付と、これから試したい新しい売り物を一つ書く。本業の傍らの取り組みでもよい。
- 02LOG
二人の像を別々に書き出す。最初に飛びつきそうな人は何にひかれ、なぜ荒削りでも試しそうか。本命にしたい本流の客は何を求め、どんな安心があれば買うか。
- 03SORT
二人の「求めるもの」と「買う理由」の違いを一〜二点に番号を振って書き、二人を混同していた点があれば印をつける。どちらが正しいかは決めない。
この号が運べたのは三段です。19か国の10品目では、売れ出した156組のうち148組で谷が始まり、理由は情報・娯楽の機器と台所・洗濯の家電で違ったこと。家電の業界団体の32件では、谷の頻度は条件の厳しさで31%から50%まで動いたこと。二層の市場のモデルは、二段構造がありそうな普及データでとくによく当てはまったこと。
最初の客の熱が本流へそのまま続くとは限らない、というのは販売の記録とモデルから読める範囲の見方で、最初の客の声を測った結果ではありません。次の号は、初期のユーザーの声を聞くことの実際を見にいきます。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「最初の顧客を見つけるには?」を、もっと深く学ぶ。→