IN NEW BUSINESS · ISSUE 520
● 12 SEC「ピボットは、腹をくくって一夜で舵を切る大決断だ」。そう語られがちです。この号は、事業の向きを大きく変えるとき何が起きるかを、論文6点で確かめます。うち4点は少数の事例や聞き取りから枠組みを描いた質的研究、残る2点は概念と理論の論文で、どれも効果を測った実証ではありません。
先に向きを言うと、写真フィルムの新興企業1社の事例研究は、向きを変えた後、離れかけた使い手の多くと、苦労を見せることで結び直した過程を描きました。米国の新興市場の5社を追った研究では、複数の事業モデルを長く同時に追った会社は低業績の側でした。この号は日本の小さな商いに当てはめることも、向きを変えるか粘るかの助言もしません。
写真フィルムの新興企業1社を追った事例研究(2020年)は、ピボットを、最初のやり方が行き詰まった新興企業が “radically transform what they are about”(自分たちが何者かを根本から変える)ことと書きます。そのうえで、事業に自分を重ねてきた人たち、たとえば使い手の集まりや専門の取引先との結びつきが揺らぎ、支えを引き上げられる危うさがある、と述べます。

この1社は、アナログの写真フィルムから、アナログとデジタルの併存へと向きを変え、使い手の集まりから強い反発を受けました。研究は関係者の証言と記録から、その後の反応と会社の働きかけを時間を追って描き、過程のモデルにまとめています。論文6点のうち、全文まで読めたのは3点(うち1点は刊行前の受理稿)。読めていないものについては書きません。
01使い手の一部は裏切りと感じ、一部は不安を抱いた。使い手の集まりへの帰属を拠り所にしてきた人の一部は、転換を裏切りと受け止め、会社への反対そのものを拠り所にする「攻撃する側」に回りました。製品に愛着を持っていた別の一部は、その製品が続くのかを不安に思う「疑う側」になりました。反応は一様ではなかった、と研究は書きます。
02会社は強みではなく、苦労のほうを見せた。会社は、フィルム製造の技術的な苦労を打ち明けて共感を求め、技術と製品への打ち込みを熱く語り続けました。研究者は強みを見せると予想していたので驚いた、と記しています。論文の中心の知見は、苦労を分かち合う絆によって敵意を和らげ、多くの人と結びつきを作り直せたというものです。
03結び直した人も、受け入れて去った人もいた。疑う側の一部は、変化を受け入れたうえで関係を終えていきました。著者は、外の支え手に頼る、ある程度育った新興企業にとって、ピボットは “far from a ‘cost free’ strategic option”(決して代償のない選択肢ではない)と書きます。1社の事例から描いた過程で、ほかの会社で同じ経過になるかは確かめていません。

以下の三つは、創業者の聞き取り研究と二つの事例研究から、向きの修正が滞りやすい形を見分けるためにALIFEが置いた読み筋で、研究が確かめたサインではありません。
01案への思い入れが、自分が何者かと重なっている。2018年の研究は、59人の創業者へのフィールド研究から、人の意見を受けて案を直す過程の枠組みを提示しました。案が自分の一部に感じられるほど直すことへの抵抗が生じうること、案を「自分のもの」と感じる度合いの違いがその後の直し方を左右することを描きます。要旨までしか読めていません。
02複数の型を、試さずに長く並べ続けている。米国で生まれたばかりのネット投資サービス市場の5社を2007〜11年に追った事例研究では、高業績の2社は同業を観察して借り、前提を試してから一つの大枠の型に絞りました。低業績の1社は二つの型を試さず議論し続け、著者は “simultaneously pursuing multiple business models over an extended time strains resources and creates confusion”(複数の事業モデルを長く同時に追うと資源が張りつめ、混乱を生む)と書きます。
03作り直しの進め方は一つだと、決めてかかっている。既存企業が新しい事業モデルを加えた4つの事例を追った2016年の研究は、まず動いて経験から学び後で考える「漂流」と、先に考えて後で試す「跳躍」の二つの型を見いだし、どちらも大きな刷新に至りうるとしました。新しい事業のピボットを調べた研究ではありません。

6点のうち4点は少数の事例や聞き取りの質的研究です。2010年の論文は、新しい事業モデルは分析より実験と学習で探る「発見駆動」の進め方を要する、と論じた概念論文です。2003年の論文は、事業の失敗からの学びを自営業者の悲嘆からの回復として命題の形で論じた理論論文ですが、本文も要旨も読めていないため、中身は書きません。
5社の研究は、事業の型を急いで細部まで作り込むやり方について、うまくいくこともあるが、より良い型を見落としたり、ピボットのような難しい方向転換を要したりしやすいと論じます。高業績の1社にも大きな方向転換がありました。向きを変えることの良し悪しを、これらの研究は測っていません。この号は、日本の小さな商いで同じ経過をたどるかは書きません。
写真フィルムの1社の事例では、
向きを変えた後、離れかけた使い手の多くと、
苦労を見せることで結び直していた。
シラバス側はこの単位を「方向を変えるのは度胸ではなく、証拠の束だ」と置きます。この号が読めた範囲の研究は、証拠の量と方向を変える時期の関係を測っていないため、これは編集側の見立てです。読めたのは、向きを変えることに関係の代償があり、その後の結び直しに時間と働きかけが要った、という1社の経過までです。
TRY IT TODAY
- 01DATE
今日の日付と、いま手がけている(または思い描く)商いを一つ書く。本業の傍らの取り組みでもよい。
- 02LOG
紙を左右に分け、左に「当初こうなるはずだと思っていたこと」、右に「実際に確かめて分かったこと」を対応させて書き出す。
- 03SORT
左右の食い違いを三つ選んで番号を振り、それぞれに「まだ様子を見る小さな揺れ」か「繰り返し出る一貫したずれ」かの印をつける。向きを変えるかどうかは決めない。
この号が運べたのは三段です。写真フィルムの1社の事例では、向きを変えた後に使い手の一部が反発や不安に回り、会社は苦労を見せることで多くと結び直したが、去った人もいたこと。米国の新興市場の5社の事例では、前提を試して一つの型に絞った会社が高業績の側で、複数の型を長く並べた会社は低業績の側だったこと。59人の創業者の研究では、案と自分の重なりが、直すことへの抵抗を生みうると描かれたこと。
ピボットは一夜の決断ではなく関係と物語を結び直す過程だ、というのは質的研究が事例から描いた見方で、効果を測った結果ではありません。次の号は、最初の客を見つけにいく、の実際を見にいきます。
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