IN NEW BUSINESS · ISSUE 519
● 12 SEC「一番危ない仮説から確かめる」。外れたら事業が崩れる根っこの前提を、いちばん先に、安く確かめておきたい。理にかなった心得です。この号は、その順番を他の順番と比べた研究はあるのか、順番を考える手がかりに何があるのか、の二つを研究論文6点で確かめます。
先に向きを言うと、順番を他の順番と比べた査読の実証は、探した範囲では見当たりません。6点は理論2点・概念の論文1点・数理モデル1点・6社の事例研究1点と、米国のベンチャー投資家を調べた研究1点で、どれも個人の検証の順番を測ったものではありません。この号は、日本の小さな商いに当てはめることも、何から試すべきかの助言もしません。
一番危ない仮説とは、外れたら事業の前提ごと崩れる思い込みのことです。そこから先に確かめる進め方は、起業の実務で語られてきた経験則(発見的原則)です。ただ、その順が他の順より良い結果を生むかを比べた査読研究は、論文データベースと候補になる論文の要旨を2026年9月に探した範囲では見当たりませんでした。良い出発点ではあっても、比べて確かめられた唯一の手順ではありません。

では、手元の6点は何を扱っていたのか。順番そのものではなく、選び方の組み立て、絞るか並べるか、試す費用と投資の仕方、といった周辺の論点です。研究論文6点のうち、全文まで読めたのは4点(うち2点は刊行前の稿)。読めていないものについては書きません。
01進め方は、選び方の組み立てだと論じられた。2019年の概念の論文は、起業家は同時には追えない多くの案から選ぶほかないと論じ、同じくらい有望な案が二つそろうまで探して一つを選ぶ、という止めどきの規則を立てました。危なさの順に並べる規則ではありません。著者自身、“not necessarily a suitable search rule for all entrepreneurs”(全員に合う規則とは限らない)と断っています。
026社の事例から、絞ると速く、並べると長く残るという命題。2013年の事例研究は、不確実さの大きい6社を業種をまたいで長く追い、一つの事業モデルに絞る会社は初期の成長が速いが長く残りにくい、と描きました。複数のモデルを同時に試すほうは “Simultaneous experimentation implies lower initial growth levels, but facilitates long-term survival”(初期の成長は遅いが長い存続を助ける)。事例から立てた命題で、どちらにも利点がある両刃です。
03試す費用が下がると、米国の投資家に小口で多く配る型が増えた。2018年の研究は、米国のベンチャー投資の記録を使い、2006年にクラウドの計算サービスが広まった前後を比べました。主語は投資家です。事業を始める費用が下がると、少ない資金を多くの会社に配り、早めに見切る “spray and pray”(ばらまいて祈る)型の投資が増えたと報告しています。起業家がどの仮説を先に試したかは調べていません。

以下の三つは、理論・数理モデル・命題の論文の議論から、順番を一つに決め打ちしている状態を見分けるためにALIFEが置いた読み筋で、研究が確かめたサインではありません。
01先の予測が立つまで、動かないでいる。2001年の理論の論文は、予測に基づいて進める考え方と、手元で制御できるものから進む考え方(エフェクチュエーション)を対にして “Causation rests on a logic of prediction, effectuation on the logic of control” と論じました。後の実証のための命題を並べた理論で、効果を測った結果ではありません。
02計画を、悪い案をやめるためには使っていない。2012年の論文は、開業前の計画の価値は代わりの案を評価できることから生まれると、決定理論の数理モデルで導きました。市場に出る前の評価の主な目的は “the main purpose of evaluation is to pursue good and terminate bad business ideas”(良い案を進め、悪い案をやめること)だとします。データで確かめた結果ではありません。
03外れたときの受け止め方を、考えに入れていない。2003年の理論誌の論文は、題名から、自営の人の事業の失敗からの学びを、悲嘆からの回復の命題として論じたものです。本文も要旨も読めていないため、中身は書きません。外れの受け止め方も次の学びに関わりうる、というのは題名から読める範囲でのALIFEの読みです。

6点のうち、数量のデータを扱ったのは2018年の研究だけで、それも米国のベンチャー投資家の投資の仕方の研究です。起業家個人の検証の順番の根拠にはなりません。2019年と2001年の論文は概念と理論、2012年は数理モデル、2013年は6社から立てた命題、2003年は題名の範囲までしか読めていません。
順番を他の順番と比べた査読の実証は、探した範囲では見当たりませんが、探し漏れの余地は残ります。対象は米国の投資市場と少数の事例で、資金や人手の前提も違います。この号は、日本の小さな商いで同じ向きが出るかは書きません。
一番危ない仮説から、は出発点の一つ。
その順を他の順と比べた実証は、
探した範囲では見当たらなかった。
シラバス側はこの単位を「順番はコスト・不確実性・同時に試せるかで変わる」に置きます。選び方の組み立てと、絞るか並べるかの両刃は手元の論文が論じていますが、確かめる費用が個人の順番を左右する、というのは編集側の推論で、関連する実証は投資家の側にしかありません。
TRY IT TODAY
- 01DATE
今日の日付と、いま頭の中にある新しい商いの前提のうち、まだ確かめていないものを三つ書く。
- 02LOG
それぞれの横に「外れたときの痛手(大・中・小)」と「確かめる手軽さ(安い・普通・高い)」を書き添え、同時に確かめられそうな組み合わせがあれば線で結ぶ。
- 03SORT
仮の順に①②③と番号を振り、高くつく前提には、もっと安く確かめる別の形を一行メモする。番号は仮置きで、正解かどうかは判定しない。
この号が運べたのは三段です。一番危ない順を他の順と比べた査読の実証は、探した範囲では見当たらなかったこと。手元の論文は、選び方の組み立てと、絞るか並べるかの両刃を論じていたこと。試す費用の話は、米国の投資家の側の研究だったこと。
一番危ない仮説から、は良い出発点の一つで、比べて選ばれた正解ではありません。次の号は、方向を変えるときの実際を見にいきます。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「検証の順番を決めるには?」を、もっと深く学ぶ。→