IN NEW BUSINESS · ISSUE 518

(仮ビジュアル)石造りの建物の広い階段を、黒いロングコートに白いワイドパンツの女性がひとりで下りてくる写真● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

誰のどんな課題を、どう解き、どうお金にするか。事業の前提を1枚の紙の枠に書き出すリーンキャンバスは、2012年に第2版が出た実務書が広めた道具です。この号は、計画を立てることと成績の結びつき、その強さを変えるもの、書いた計画を書き換える意味の三つを、研究論文5点で確かめます。

先に向きを言うと、小さな会社の研究を束ねた分析では、計画と成績の結びつきは小さな正の向きで、新しい会社では弱く、書いた計画と計画する過程の差ははっきりしませんでした。キャンバスという道具そのものの効果は、この号では扱えません。対象は米国の研究が多い12か国の小さな会社や米国の支援プログラムのチームで、この号は日本の小さな商いに当てはめることも、起業の助言もしません。

2010年の概念論文は、事業モデルという考え方を、先の読めない環境で選択肢を考え直す新しい手がかりと位置づけ、新しいモデルを見つけて生かす戦略は、分析を重んじる従来の戦略と違って大きな実験と学習を要する、と論じました。原文は “a ‘discovery driven,’ rather than analytical approach”(分析ではなく「発見駆動」の進め方)。効果を測った研究ではありません。

(仮ビジュアル)薄暗い部屋の黒枠の大きな鏡の前で、黒いローブ姿の女性が鏡に映った自分と静かに向き合っている写真
新しい事業モデルは、分析より実験と学習で探るものだ、と概念論文は論じた。 Visual: ALIFE

この見方に立てば、キャンバスの枠に書いた言葉は、確かめる前の見込みの並びです(これはALIFEの読み)。では、計画を立てることは成績と結びついていたか。2010年のメタ分析(多くの研究の結果を統計的に束ねる方法)は、新しい会社と既存の小さな会社を含む46研究・11,046組織を束ねました。研究論文5点のうち、全文まで読めたのは2点(うち1点は投稿時の稿)。読めていないものについては書きません。

01強さは、会社の新しさと文化で変わった。結びつきの強さを表す標準化平均差(計画した側としない側の成績の差を、散らばりの幅で割った値)は、既存の小さな会社の研究で0.24、新しい会社の研究で0.13。どちらも正の向きで、差は統計的に有意でした。新しい会社の研究は15の効果量・3,713社と少ない、と著者は限界に挙げます。

02書いた計画と、計画する過程は、同じくらいだった。書き上げた計画書の有無を見た研究では0.18、計画づくりの作業の丁寧さを見た研究では0.21で、差は有意でなく、差を予想した著者の仮説は支持されませんでした。著者は両者を “comparable strength”(同程度の強さ)と書きます。

03先の読めなさは、検定ではなく著者の解釈。検定されたのは会社の新しさと文化で、不確実さを避ける傾向の高い国の研究では0.08、低い国では0.26でした。不確実さや手元の情報の乏しさが見返りを限るという点は、著者が「兆しがある」と書いた解釈にとどまり、そのうえで計画・学習・実行を同時に進める考え方を提案しています。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆の3本の脚が支えているコンソールテーブル
新しさと文化で強さが違い、書いたか作業したかでは差がはっきりしなかった。束ねた研究に並んだ三つ。 Visual: ALIFE

以下の三つは、概念論文・決定理論のモデル・追跡研究の議論から、キャンバスが問いの一覧として働いていない形を見分けるためにALIFEが置いた読み筋で、研究が確かめたサインではありません。

01どの枠も、確かめた事実と同じ調子で書かれている。2010年の概念論文は、新しい事業モデルは分析でなく実験と学習で探るものだと論じました。見込みと確かめた事柄が同じ書き方で並ぶと、どこから試すかが見えにくい、というのはALIFEの読みです。

02やめる条件が、どこにも書かれていない。2012年の論文は決定理論のモデルで、計画の価値は別の行動を比べて評価し、戦略を改められることから生まれると導きました。市場に入る前の評価の主な目的は “pursue good and terminate bad business ideas”(良い案を進め、悪い案を打ち切る)こと。実証データではなく、モデル上の結論です。

03一度書いたきり、試した結果が戻ってきていない。2020年の追跡研究は、米国の国立科学財団(NSF)の支援を受けた152チームの縦断データで、仮説を立て・探り・案を絞る部品が想定どおりつながったと報告しました。経営学修士(MBA)を持つメンバーは使用に抵抗したが、後になってその価値を認めており、著者は、考えて学ぶ訓練がやって学ぶ方法の広がりを抑えるようだと書きます。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
事実と同じ調子の見込み・やめる条件の不在・戻らない試し。問いとして働かない一枚の三つの形。 Visual: ALIFE

2010年のメタ分析の著者は、この方法は関係の強さを見積もれても “it cannot determine causality”(因果までは決められない)と自ら書きます。束ねた研究は米国のものが多い12か国にわたり、文化の比較は国ごとの指標を当てたものです。2010年の概念論文、2012年の論文、2020年の追跡研究は要旨までしか読めていません。

概念論文は議論、2012年の論文はモデルで、どちらも効果を測った結果ではありません。全文まで読めた2点はキャンバスを扱っておらず、要旨まで読めた3点の要旨にも、キャンバスの効果を測った記述はありません。この号は、日本の小さな商いで同じ向きが出るかは書きません。

小さな会社の研究を束ねた分析では、
書いた計画と計画する過程の差ははっきりせず、
正の結びつきは、新しい会社で弱かった。

2019年のメタ分析(2010年と一部同じ著者・別の設問・投稿時の稿)は、中小企業を率いる8,095人・31のデータセットで、誰が計画するかを調べました。教育や一般の職務経験は計画する過程と結びつく一方、正式な計画書づくりとは結びつかず、起業の経験は計画行動と結びつかなかったといいます。著者は、教える側は計画書の提出より計画の過程に目を向けてよい、と示唆しています。

TRY IT TODAY

  1. 01DATE

    今日の日付と、考えている(または思い描く)商いを一つ書く。本業の傍らの小さな試みでもよい。

  2. 02LOG

    1枚の紙を枠に区切り、「誰の」「どんな課題を」「どう解き」「どうお金にするか」を一言ずつ書く。全部を埋める必要も、正解らしく書く必要もない。

  3. 03SORT

    各枠に「確かめた事実=◯」「まだ見込み=?」の印をつけ、「?」のうち外れたら全体がいちばん困る一つに丸をつける。良し悪しは判定しない。

10分。実在の他社を評価せず、自分の仮説メモとして完結させます。これは研究結果そのものではなく、記録の単位を決めてみるためにALIFEが提案する実践入口です。資金調達・契約・税務などの判断は、専門家へ。

この号が運べたのは三段です。小さな会社の研究を束ねると、計画と成績の結びつきは正の向きで、新しい会社や不確実さを避ける文化では弱かったこと。書いた計画と計画する過程の差ははっきりしなかったこと。計画の価値は悪い案を打ち切れる点にもある、というのはモデル上の結論だったこと。

キャンバスの値打ちは埋めきることより書き換えにある、というのは概念論文と著者の提案に沿ったALIFEの読みで、シラバス側の見立てです。枠が埋まったことは、確かめたことの証明にはなりません。次の号は、並べた問いのどれから確かめるかを見にいきます。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「思い込みを仮説に変えるには?」を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

効果量
差や関連の「大きさ」を、単位の違う研究どうしでも比べられるようにした共通の物差し。「効果があるか」ではなく「どれくらいか」を表します。
メタ分析
同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
統計的に有意
「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。