IN NEW BUSINESS · ISSUE 517

(仮ビジュアル)暗い室内の黒い壁ぎわに立ち、窓ガラスに自分の後ろ姿が映りこんでいる、黒いニットの女性● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「作る前に売れてしまえば、もう確実だ」。そう思いたくなります。この号は、前払いを集めた作り手はその後どう届けたか、支援はどう集まったか、群衆の判断は専門家とどう違ったかの三つを、米国のクラウドファンディングを調べた研究6点で確かめます。

先に向きを言うと、前払いの義務を負った作り手の大半は約束を果たし、同時に多くは遅れて届けていました。支援の集まり方は時期やつながりと結びつき、群衆の判断は専門家とおおむね一致していました。この号は、日本の小さな商いに数字を当てはめることも、起業や資金の助言もしません。

事前販売(プレセールス)は、まだ完成していないものを先に注文として受けることです。報酬型のクラウドファンディングは、大勢から少しずつ前払いを集め、品物や体験で返すやり方です。この号はこれを前払いの購買として扱い、株式を渡す型は扱いません。研究でいう「成功」(目標額まで前払いが集まったこと)は、資金集めの成否ではなく買い手の集まり方として読みます。売れたことは強い需要のしるしになりえますが、作れる・届けられるの証明とは別です。

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗いガラスに自分の姿を映しながら街の明かりのほうを見ている、黒いスーツの女性
先にお金を受け取った瞬間から、まだ無いものを届ける約束が始まる。 Visual: ALIFE

扱う6点は、米国に拠点を置く大手のクラウドファンディングのサイトの記録を使った実証研究4点と、作業論文から編著の章になった研究1点、経済学の論考1点です。対象は創作・芸術・演劇などの案件が中心です。全文まで読めたのは6点のうち3点(3点とも刊行前の稿)。読めていないものについては書きません。

01義務を負った作り手の大半は届け、75%超は遅れた。2014年の探索研究は48,500件超の案件を記述し、支援者への義務を負った作り手の大半は約束を果たしていたが、“over 75% deliver products later than expected”(75%超が予定より遅れて届けた)と報告しました。遅れの程度は集まった支援の水準と結びついていました。

02支援は初めと終わりに集まり、つながりは初期の支援を経て表れた。2013年の作業論文(2018年に章として刊行)は、支援が多く集まった案件ほど次の支援が減り、締切が近づくと戻ることを示し、章の要旨は支援が初めと終わりの週に集まる形を報告しました。2015年の研究は669件で、サイトの中で築いたつながりと成功の結びつきが、初期に集まった支援を経て表れると報告しました。

03演劇の案件で、群衆と専門家審査員の判断はおおむね一致した。2016年の研究は、演劇の案件について群衆の判断と、国の助成審査の経験を持つ専門家30人の評価を比べ、“significant agreement”(かなりの一致)を報告しました。食い違いの多くは、専門家が見送る案を群衆が支援する側で、その案の事後の出来に差は見られませんでした。

(仮ビジュアル)暗い室内の黒い壁ぎわに立ち、窓ガラスに自分の後ろ姿が映りこんでいる、黒いニットの女性
届けの遅れ・初めと終わりに集まる支援・群衆と専門家の一致。前払いの研究に並んでいた三つ。 Visual: ALIFE

以下の三つは、6点の研究から、売れた結果を読み違えやすい形を見分けるためにALIFEが置いた読み筋で、研究が確かめたサインではありません。

01売れたことを、届けられることと同じに数えている。2014年の探索研究では、約束を果たした作り手が大半でも、遅れは75%超に及びました。前払いを受けた時点で、まだ無いものを届ける仕事が残る、というのはALIFEの読みです。

02売れた理由を、中身の良さだけに帰している。2014年の探索研究は、個人のつながりと案件の質の両方が成功と結びついていたと書きます。2014年の記述研究は421件を調べ、目標額の低さが正当性のしるしになり、語りの正当性は “may derive more from the online platform community than the visual pitch”(動画の売り込みより、サイトの共同体から来るのかもしれない)と述べました。

03最初に買った人を、これから広げたい客と同じに見ている。この点は6点のどの研究も確かめておらず、編集側の推論です。2016年の研究は、群衆の判断が専門家とおおむね一致し、専門家の見落とし(偽陰性)を拾いうると報告しており、群衆の支持を疑う材料ではありません。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
売れた=届けられる・売れた=中身・最初の客=本流。売れた結果の三つの読み違い。 Visual: ALIFE

2014年の探索研究は要旨までしか読めておらず、遅れを調べた案件の数は分かりません。2014年の記述研究は探索的・記述的な計量研究で、期間の短さと成功の関係は弱いと著者が断っています。2016年の研究は事後の出来の比較を “more tentative due to the smaller sample size”(標本が小さく暫定的)と書きます。どれも無作為に割り付けた実験ではありません。

対象は米国に拠点を置くサイトの創作系の案件で、日本の小さな商いの予約販売や先行注文とは、売り手の規模も買い手の層も違います。この号は、日本で同じ向きが出るかは書きません。

米国のクラウドファンディングの探索研究では、
前払いの義務を負った作り手の大半は届けたが、
75%超は予定より遅れて届けていた。

シラバス側はこの単位を「事前販売は強い需要の仮説であって、届ける力・交絡・本流の証明ではない」に置きます。届ける力は2014年の遅れの記述で支えられますが、「本流の証明ではない」は6点のどれにも支えがなく、編集側の見立てです。2014年の論考は、見知らぬ遠くの相手から前払いが集まる仕組みの広がりを、取引費用・評判・市場の設計で整理し、多くの問いを残しました。

TRY IT TODAY

  1. 01DATE

    今日の日付と、先に注文を受けてみたい(または思い描く)品物や講座を一つ書く。予約でも、先行注文でも、受注生産でもよい。

  2. 02LOG

    もし売れたら、という前提で四行書く。「届ける」まだ確かめていない作る・届ける手順、「交絡」中身以外に効きそうなこと(つながり・時期・見せ方)、「本流」買いそうなのは広げたい相手か一部か、「開示」できていることと未完のことをどう伝えるか。

  3. 03SORT

    四行それぞれに「確かめ済み」「未確認」の印をつけ、いちばん自信がない一つに丸をつける。良し悪しは判定しない。

10分。実在の案件を評価したり、借り入れをしてまで作ることを考えたりはせず、自分の設計メモとして完結させます。これは研究結果そのものではなく、記録の単位を決めてみるためにALIFEが提案する実践入口です。資金・契約・表示などの判断は、専門家へ。

この号が運べたのは三段です。前払いの義務を負った作り手の大半は約束を果たしたが、75%超は遅れたこと。支援は時期やサイトの中のつながりと結びついて集まったこと。演劇の案件で、群衆と専門家の判断はおおむね一致し、群衆は専門家の見送った案を拾う側にいたこと。

売れたことは需要の仮説を強めても、届ける力や本流の需要の証明にはなりません。後者は編集側の見立てです。次の号は、仮説を一枚に並べる道具を見にいきます。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「作る前に売ってみるには?」を、もっと深く学ぶ。→

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。