IN NEW BUSINESS · ISSUE 516
● 12 SEC「まず小さく作って、出してみる」。MVP(必要最小限の試作)は、実務書に由来する考え方です。この号は、小さく試すことは成績と結びついていたか、その方法は実際どう使われたか、試し方の選び方に何があるかの三つを、研究論文5点で確かめます。
先に向きを言うと、比べて試す道具を入れた新興企業は、成績が伸び、早く畳みもする傾向でした(刊行版の要旨では「悪い信号で早く畳む」)。ただし観察研究で、導入した会社は少数です。試作の質は作る前の仮説で決まる、というのは論考の議論で、絞るか並べるかには両刃がありました。扱う研究は世界の新興ハイテク企業や米国の支援プログラムのチームで、この号は日本の小さな商いに当てはめることも、起業の助言もしません。
2020年のエッセイ(論考)は、MVPを広めた実務の方法が、すぐ観察できる反応と手早い検証を重んじるあまり、新しい仮説を組み立てる本来の仕事を軽く扱い、確かめやすい所だけを確かめる方向へ人を向ける、と論じました。そうした実験は “more often than not, only generate incremental value”(たいていは小さな上積みの価値しか生まない)とも書きます。効果を測った結果ではなく、批判の議論です。

では、実際に小さく試した会社はどうだったか。2022年の研究は、世界の新興ハイテク企業35,918社(作業論文の版の値)を、2015〜18年の週ごとの記録で追いました。見たのは、ウェブ上で二つの案を比べて試す道具(A/Bテスト)を入れたかどうかと、その後の成績です。研究論文5点のうち、全文まで読めたのは4点(うち2点は刊行前の稿)。読めていないものについては書きません。
01入れた会社は少なく、入れた会社は伸びていた。同じ会社の導入の前と後を比べる観察研究です。作業論文の版では、導入は比較的少なく、導入した会社ではページの閲覧や新しい機能の追加が増えていました。刊行版の要旨は、導入した会社の成績が使い始めて1年後に30〜100%高まったと書きますが、この値は作業論文には無く、どの指標かも要旨からは分かりません。
02若い会社は早く畳み、年数を経た会社は伸びやすかった。作業論文の版では、導入した会社は閲覧ゼロの週と大きく伸びた週の両方が増え、若い会社は閲覧ゼロが続く形で早く畳み、年数を経た会社は伸びやすい傾向でした。刊行版の要旨は “fail faster when they receive negative signals”(悪い信号を受けると早く畳む)と書きます。
03方法の部品はつながったが、MBAを持つ人は抵抗した。2020年の追跡研究は、米国の国立科学財団(NSF)の支援プログラムに参加した152チームの縦断データで、仮説を立て・小さく探り・案を絞る部品が想定どおりにつながったと報告しました。一方で経営学修士(MBA)を持つメンバーは、方法の使用に抵抗し、後になってその価値を認めていました。

以下の三つは、論考・概念の論文・事例研究の議論から、試作が答えを返しにくい形を見分けるためにALIFEが置いた読み筋で、研究が確かめたサインではありません。
01反応を見てから、何を確かめたかったかを決めている。2020年のエッセイは、すぐ観察できる反応を重んじる方法が、仮説を先に組み立てる仕事を軽く扱わせると論じました。先に書いた仮説が無いと、反応が鈍いとき、作りか売り方か需要かを分けにくい、というのはALIFEの読みです。
02比べる相手が、一つも無い。2019年の論文は、起業家は同時には追えない多くの選択肢から選ぶほかなく、探索には費用がかかると整理し、見込みが同程度の代替を二つ得るまで探して一つを選ぶ規則を “Test Two, Choose One” と名づけました。公理から組んだ概念枠組みで、著者自身、全員に合う規則ではないと断っています。
03一つの試作に、最初から全部を賭けている。2013年の事例研究は6社を長く追い、一つの事業モデルに絞る会社は初期の成長が速いが長く残りにくく、複数のモデルを同時に試す会社は初期の成長が遅い代わりに長く残りやすい、という命題を立てました。絞ることにも利点がある両刃です。

2022年の研究は “Because our study is observational”(観察研究なので)と自ら書き、統計の工夫で導入の影響を切り分けようとしていますが、無作為に割り付けた実験ではありません。30〜100%は刊行版の要旨の値です。2020年の追跡研究は要旨までしか読めておらず、方法に深く関わったチームほど18か月後の業績が高いという結果は、事後の追加分析の示唆にとどまります。
2019年の論文と2020年のエッセイは概念と議論、2013年の研究は6社の事例から立てた命題で、どれも効果を測った結果ではありません。対象は世界の新興ハイテク企業と米国の支援プログラムのチームで、資金や人手の前提も違います。この号は、日本の小さな商いで同じ向きが出るかは書きません。
世界の新興ハイテク企業を追った観察研究では、
比べて試す道具を入れた会社は少なく、
入れた会社は伸び、若い会社は早く畳んでいた。
2022年の研究は、この道具が事業の案を試す費用を大きく下げたと位置づけていますが、それでも導入は少数でした。安く試せることと、実際に試して学ぶことの間には隔たりがある、というのはALIFEの読みです。シラバス側はこの単位を「何を作るかより、何を反証したいかを先に決める」に置きますが、これも編集側の見立てです。
TRY IT TODAY
- 01DATE
今日の日付と、いま作ろうとしている(または思い描く)試作を一つ書く。品物でも、予約票でも、チラシでもよい。
- 02LOG
手をつける前に、「これは〔…〕という仮説を確かめる試作だ」と「もし〔…〕なら、その仮説は外れと認める」を一行ずつ書く。
- 03SORT
その反応を何で測るかに「言葉」「申し込み」「前払い」「継続利用」のどれかの印をつけ、かかりそうな手間と費用、同じ仮説をもっと安く確かめる別のやり方を一つ書き添える。良し悪しは判定しない。
この号が運べたのは三段です。比べて試す道具を入れた新興企業は伸び、早く畳みもする傾向(刊行版の要旨では「悪い信号で早く畳む」)だったが、観察研究で導入は少数だったこと。方法の部品はつながったが、MBAを持つ人は抵抗したこと。絞るか並べるかには、初期の成長と長い存続という両刃があったこと。
試作の質は作る前の仮説で決まる、というのは2020年のエッセイの議論であり、シラバス側の見立てです。安く作れたことは、学べたことの証明にはなりません。次の号は、作る前に売ってみる、の実際を見にいきます。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「最小の試作で検証するには?」を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 観察研究・前向き研究
- 介入せずに経過を追いかける研究。「関連がある」までは言えますが、「それが原因だ」とは言い切れません。
