IN NEW BUSINESS · ISSUE 515

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆の3本の脚が支えているコンソールテーブル● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「誰も手をつけていない市場こそ狙い目」と言われます。この号は、一番乗りの得を調べた研究で、先に入った企業は生き残りやすいか、利益の得は続くか、生まれたての市場でうまく進んだ会社は何をしていたか、の三つを確かめます。

先に向きを言うと、本当に新しい製品で始まった市場では、一番乗りの生き残りは危うい側でした。利益の得も平均では長く続かず、ただし条件がそろえば続くこともあった。扱うのは産業財の市場、消費財と産業財の事業単位、米国の新興企業5社の研究です。生存率や利益の数値は書かず、日本の小さな商いに当てはめることもしません。

一番乗りの得(先発優位)は、市場に最初に入った企業が、後から来た企業より有利になるという考え方です。2007年の理論論文は、この得が市場と技術の変化の速さしだいで “enables or disables”(生まれもし、消えもする)と論じ、食い違う実証結果をめぐる議論に見取り図を与えようとしました。実証ではなく理論です。

(仮ビジュアル)薄暗い部屋の黒枠の大きな鏡の前で、黒いローブ姿の女性が鏡に映った自分と静かに向き合っている写真
空いた席には、三通りの読みがありうる——というのがシラバス側の見立て。 Visual: ALIFE

空いている席には、まだ気づかれていない、誰かが挑んで去った、そもそも座りたい人がいない、の三通りの読みがありうる——というのがシラバス側の見立てです。この号はその手前の「一番乗りは有利か」を研究で確かめます。扱う6点のうち、全文まで読めたのは1点です。読めていないものについては書きません。

01本当に新しい市場では、生き残りが危うかった。2006年の研究は、新しく生まれた264の産業財の市場で、最初に入った企業の生存リスクを比べました。本当に新しい製品で始まった市場では “the first to market is often the first to fail”(一番乗りがしばしば最初に倒れる)。改良品で始まった市場では生存リスクはずっと低く、早い追随者はどちらでも同じでした。

02利益の得は、約12〜14年で不利に転じた。2003年の研究では、消費財と産業財の事業単位で、一番乗りは平均すると長期の利益で不利でした。最初は有利で、それが標本や物差しにより約12〜14年続いてから転じます。客の学習が乏しい・市場での地位が強い・特許で守られる、の3つがそろえば、持続する利益の優位もありうると報告しています。

03費用は、仕入れで得、生産と販売管理で損だった。2008年の研究は、2003年と同じ著者の別論文です。事業単位の費用を仕入れ・生産・販売管理に分けると、条件をつけない分析では一番乗りは仕入れで有利、生産と販売管理ではそれを上回って不利でした。結果は込み入っていた、と著者自身が書いています。

(仮ビジュアル)暗い室内の黒い壁ぎわに立ち、窓ガラスに自分の後ろ姿が映りこんでいる、黒いニットの女性
生き残り・利益・費用。一番乗りの得は、見る面によって違って見えた。 Visual: ALIFE

2020年の研究は、2007年に生まれた米国の新しい金融テクノロジー市場で、プロの投資家から資金を得た新興企業5社を追い、事例から枠組みを描きました。うまく進んだ会社は同業を観察して借り、既存の代替品に目を向け、“test assumptions, then commit to a broad business-model template”(前提を試し、大枠の事業モデルの型に決める)と要約されています。

以下の三つは、ここまでの研究から空席を読み違える形を見分けるためにALIFEが置いた読み筋で、研究が確かめたサインではありません。

01「誰もいない」と「誰も要らない」を、分けていない。空いている理由に需要の不在もありうる、というのはシラバス側の見立てです。2020年の研究でうまく進んだ会社は、同じ市場の新興企業を本当の競争相手とは見ず、隣の市場の既存の代替品をそう見ていました。

02一番乗りであること自体を、強みに数えている。2003年の研究は、一番乗りに典型的な需要の側の得を再現しつつ、それを上回る平均の費用の不利が、長期の利益の不利の源だったと報告しました。得の有無は、条件と測る物差しで違って見えます。

03いくつもの型を、長く同時に抱えている。2020年の研究で業績の低かった1社について、著者は複数の事業モデルを長く同時に追うことが “strains resources and creates confusion”(資源を圧迫し、混乱を生む)のを目の当たりにしたと書きます。5社の事例からの観察で、効果を測った検証ではありません。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
誰も要らない・一番乗りの過信・型の抱えすぎ。空席を読み違える三つの形。 Visual: ALIFE

2006年・2003年・2008年の研究は市場や事業単位のデータの分析で、この号が読めたのは抄録までです。結びつきの報告で、一番乗りだから倒れたとまでは言えません。2007年の論文は理論、2020年の研究は5社の事例から枠組みを描いた質的研究です。競争のない市場を創る発想を広めた2005年の実務書は実証の書ではなく、この号は書誌を確かめたにとどまります。

標本は、新しく生まれた産業財の市場、消費財と産業財の事業単位、米国の新しい金融市場で投資家の資金を得た5社です。日本の小さな商い——本業の傍らの新規事業や個人の開業——で同じ向きが出るかは書きません。

264の産業財の市場では、
本当に新しい製品で始まった市場では一番乗りが危うく、
改良品で始まった市場では守られていた。

シラバス側は、この単元を「空白は見つけるより設計するもの」とまとめます。2020年の研究でうまく進んだ会社が、型を決める前に前提を試し、決めた後も細部を詰めるのを急がなかったことは、この読みと同じ向きです。ただしそれは5社の事例から描かれた枠組みで、空白の見つけ方を比べた研究ではありません。これは編集側の読みです。

TRY IT TODAY

  1. 01DATE

    今日の日付と、気になっている「まだ誰も手をつけていない市場・すきま」を一つ書く。想像上のものでもよい。

  2. 02LOG

    その席が空いている理由の候補を三つ書く(まだ気づかれていない/誰かが挑んで去った/欲しい人が少ない、など)。それぞれに、確かめるには何を調べ、誰のどんな過去の行動を見るかを一行ずつ添える。

  3. 03SORT

    三つの理由に「確かめる手がある」「手が思いつかない」の印をつけ、数を数える。当たり外れや、挑むかどうかは判定しない。

10分。実在の企業の戦略の良し悪しや、自分の事業を始めるかどうかを判断する作業ではありません。点検するのは、自分の読みの記録だけです。これは研究結果そのものではなく、記録の単位を決めてみるためにALIFEが提案する実践入口です。資金・法務・税務の判断は、それぞれの専門家へ。

この号が運べたのは三段です。264の産業財の市場では、本当に新しい製品で始まった市場では一番乗りの生き残りは危うかったこと。事業単位の一番乗りは最初の約12〜14年は利益で有利でも、平均ではその後不利に転じ、3つの条件がそろえば得は続きうること。生まれたての市場の米国の5社では、観察して借り、前提を試して一つの型に決めた会社が進んだと描かれたこと。

空いた席の前で書けるのは、席が空いている理由の候補と、それを確かめる手の記録です。それは当たる市場の見つけ方ではなく、自分の読みが「まだ誰も気づいていない」に偏っていないかを見るための一枚です。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「誰も見ない市場を見つけるには?」を、もっと深く学ぶ。→

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。