IN NEW BUSINESS · ISSUE 514
● 12 SEC「欲しい」「いいですね」と言われると、課題は深いと感じます。この号は、仮の質問で答えた支払いの額と、実際に払った額を比べた研究から、ずれはどれくらいか、聞き方で縮むか、深さを何で測るかの三つを確かめます。
先に向きを言うと、支払い意思の実験を束ねた分析では、仮に答えた額は実際の払いを上回りがちでした。聞き方で縮むことはあっても、ある比較実験では偏りを説く台本が逆側へ補正しすぎました。扱うのは公共財を含む品物への支払い意思の実験で、商品やサービスの課題の深さを直接測った研究ではありません。この号は、起業の進め方の助言は書きません。
仮の質問で答えた支払い額が、実験で実際に自分のお金で払う額を上回ることを仮想バイアス(hypothetical bias)と呼びます。2011年の総説は、この偏りは “not found in all”(すべての調査で見られるわけではない)としたうえで、仮の額は典型的には実際の2〜3倍だと整理し、偏りを説明する広く受け入れられた理論はまだ無いと書いています。

扱う研究の多くは環境・資源経済学の雑誌に載ったもので、題材には公共財(みんなで使う財)も私的な品物も含まれ、学生を参加者にした実験もあります。研究論文と実務書あわせて6点のうち、全文まで読めたのは1点です。読めていないものについては書きません。
0128研究の真ん中は、1.35倍だった。2005年のメタ分析は、仮の答えと実際の支払いを同じ方法で聞いた28研究・83観測を束ね、仮の額÷実際の額の中央値(並べて真ん中の値)は1.35倍でした。分布は大きい値の側へ強く偏っています。偏りを縮める工夫をした観測も含む全体の値です(2009年の論文の記述)。
0229研究の平均は、約3倍だった。2001年のメタ分析は29の実験研究を束ね、仮の場面では参加者が好みを平均で約3倍に言い過ぎると報告しました。ずれの大きさは、払う額か受け取る額か、公共財か私的な財か、聞き出し方で変わっていました。2005年の中央値とは指標も研究の集め方も別です。
03選ぶ形の聞き方では、ずれが小さかった。2005年のメタ分析では、選択肢から選ぶ形の聞き方ほど、ずれが小さい関係でした。学生の参加者が偏りの一因の可能性もありましたが、集団での実験と強く重なり結論は出せない、と著者は書きます。結果はモデルの組み方に敏感だとも述べています。

2009年の実験は、豪州の地方大学の学部生610人を4群に分けました。題材は、慈善団体を通じて学校の子どもに朝食を届ける準公共財です。本当にお金を払う投票と、三つの手当てをつけた仮の投票を比べると、仮の投票にはやはり偏りが出ました。以下は、その三つの手当ての結果です。
01偏りを説く長い台本は、補正しすぎた。1999年の実験と同じ数値例つきの長い台本(チープトーク)で偏りの仕組みを説き、避けるよう頼んだ群では、仮の答えが実際を下回りました。行き過ぎは、元の偏りと “about equal in magnitude”(ほぼ同じ大きさ)でした。別の推定法では、この群の平均は実際の75%でした。
02確信の強さで絞ると、実際に近づいた。「はい」と答えた人に確信の強さを10段階で聞き、7未満を「いいえ」に数え直すと、実際の支払いの割合にほぼ合いました。区切りを8にすると下回り、区切りは状況ごとに合わせる必要がある、と著者は書いています。
03賛成と支払いを分ける聞き方も、効いた。二択に「目的には賛成だが払う気はない」などの答えを足す聞き方(不協和の最小化)も、確信度の尺度と並んで最も有効な側でした。実際の支払いと比べてこの聞き方を試したのは、この実験が初めてだと著者は述べています。

2009年の論文の紹介では、1999年の実験は偏りの仕組みと過去の研究の数値例を示す、読み上げ約5分の長い台本で、偏りの縮小に意外なほど効きました。ただし学生が公共財を投票で選ぶ実験で、試した金額は1つだけです。それ以前の短い台本は、実際の額まで下げられませんでした。この号は1999年の論文の本文を読めておらず、効果の大きさは書きません。
2009年の著者は、三つの手当てはどれも状況に合わせて調整し言葉を選べば偏りを消しうるとしつつ、台本の効き方は状況や金額で揺れるため、確信度の尺度などのほうが実務で頼れるかもしれないと書きました。いずれも公共財などの実験の値で、日本の小さな商いの課題の深さには移しません。
支払い意思の実験を束ねた分析では、
仮に答えた額が、実際の払いを上回りがちだった。
ある学生実験では、それを縮める台本が補正しすぎた。
シラバス側は、2013年に自費出版された顧客インタビューの実務書を由来に、深さは言葉でなく相手が差し出したもの(時間・お金・手間)で測ると置きます。この号はその本を書誌までしか確かめておらず、6点の中にこの命題を検証した研究はありません。研究が支えるのは「言葉は行動より上振れしがち」までで、その先は編集側の推論です。
TRY IT TODAY
- 01DATE
今日の日付と、自分のアイデアについて相手に聞いてみたいことを三つ書く。「あったら使いますか」のような、未来の意見を求める形のままでよい。
- 02LOG
三つを一つずつ、「最近いつ、どう対処したか」「いくら・どれだけの手間をかけたか」「いま何で代わりを済ませているか」のような過去の行動を聞く形に書き換え、元の文の横に並べる。
- 03SORT
六つの文に「意見」「行動」の印をつけて数える。課題が本物なら差し出されうる小さなコミットメント(少しの時間・予約など)を一つだけ書き添える。
この号が運べたのは三段です。公共財などへの支払い意思の実験を束ねた分析では、仮に答えた額が実際の払いを上回りがちだったこと(中央値1.35倍・平均約3倍、ただしすべての調査ではない)。聞き方で縮むことはあるが、豪州の学生実験では偏りを説く台本が補正しすぎたこと。深さを行動で測るのは編集側の推論であること。
この号の研究が測ったのは支払いの額で、インタビューの言葉そのものではありません。それでも、仮に答えた言葉と実際の行動を別々の段に書いておけば、どちらが上振れしていたかを、あとで見比べることはできます。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「課題の深さを確かめるには?」を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
- 中央値
- 全員を並べたときの、ちょうど真ん中の人の値。平均と違って、極端な値に引っ張られません。
