IN M&A · ISSUE 498
● 12 SEC「仲介に頼めば、相手は見つかる」。たくさんまとめてきた大手に任せれば安心、という考えです。この号はそれを、仲介の立場、助言者の報酬、助言者による違いという三つの筋で確かめます。
先に向きを言うと、投資銀行の研究では市場シェアの大きさは、助言した買い手の成果と結びついていませんでした。シラバス側の「シェアの高い助言者ほど買い手の成果はむしろ低い」は、原典と向きが違います。研究はどれも、主に米国の上場企業が絡む買収の話で、日本の小さな商いの仲介とは単位が違います。株価の反応を扱う研究も出てきますが、株価の数値と、仲介の選び方の助言は書きません。
中小企業庁の『中小M&Aガイドライン』第3版(2024年8月)は、国の公的な指針です。仲介者を「譲り渡し側・譲り受け側の双方との契約に基づいてマッチング支援等を行う支援機関」と定め、どちらか一方とだけ契約するFA(フィナンシャル・アドバイザー)と分けています。
指針は仲介者について、「一方の利益を優先し、又は一方の利益を害するリスクがあると指摘されている」と書き、同じ段落で「利益相反が直ちに違法となるものではない」と添えています。シラバス側の「両手取引」は指針の語ではなく、双方から手数料を受け取る形を指す言い換えです。

研究の側で調べられてきたのは、上場企業の買収を助ける投資銀行です。ここから先の3本はその世界の話で、日本の中小の仲介に同じ向きが出るとは言えません。研究論文5点のうち、全文まで読めたのは2点です。読めていないものについては書きません。
01銀行のシェアは、まとめきった割合と成功報酬とともに伸び、買い手の成果とは無関係だった。2000年の研究は、合併と公開買付け(TOB)で助言する投資銀行の市場シェアを調べました。シェアは成功報酬(まとまったときに払う報酬)の支払いと過去にまとめきった割合とともに高く、“It is unrelated to the performance of the acquirors advised by the bank in the past”(過去に助言した買い手の成果とは無関係だった)。TOBに限ると、成功報酬が大きいほど買い手の買収後の業績は低い関係でした。読めたのは要旨までです。
02どの銀行がつくかで、買い手の発表時の株価の反応に差があった。2011年の研究は、米国の株価データベースで追える買い手の1980〜2007年の15,344件を分析し、発表前後3日間の株価の反応に銀行ごとの固定効果(銀行そのものに付く差)を見つけました。差は時間を通じて続き、過去の成績から予測できたのに、“Clients do not chase past returns”(顧客は過去のリターンを追わない)と書いています。
03一流の銀行と買い手の高い反応の結びつきは、公開買収に限られ、非公開の会社の買収では出なかった。2012年の研究は、米国の1996〜2009年の上場企業・非公開企業・子会社の買収を分けて比べました。一流の銀行を使った買い手は発表時の反応が高い向きでしたが、“but in public acquisitions only”(ただし公開買収だけで)。非公開企業と子会社の買収では差が出ていません。一流の銀行はその公開買収で割高な報酬を取っていた、とも報告しています。

ここから先は研究が示した結果ではなく、記録の単位を決めてみるためにALIFEが提案する読み筋です。相手探しを誰かに託すとき、仲介の側の都合は、三つの形で表に出ます。
01同じ窓口が、売り手と買い手の両方と契約している。指針は、仲介者にはリピーターになりうる買い手の利益を優先してまとめる動機がある、という指摘を紹介し、報酬が譲渡額に連動すると逆に売り手を優先する動機が働くという指摘も併記しています。単位の違う話として並べると、米国の上場企業の買収を扱った2013年の研究では、両者が共通のアドバイザーを使った案件は、まとまるまでに時間がかかり、売り手へのプレミアムが低い向きでした。
02報酬が、まとまったときに発生する。米国の上場企業の合併を扱った1994年の研究は、銀行が得た報酬と買収プレミアムを調べ、“a positive relationship between premium and compensation for investment bankers of both target and bidder firms”(売り手側・買い手側どちらの銀行でも、プレミアムと報酬は正の関係)と報告しました。売り手とは利害がそろい、買い手とはずれる向きです。
03ほかの専門家に聞く道が、契約で狭められている。指針は、ほかの業者への並行依頼を禁じる専任条項に一定の合理性を認めつつ、セカンド・オピニオンを求めることは許容すべきで、専任を設けるなら契約期間は最長でも6か月〜1年以内を目安に定めるべきだ、としています。

3本の研究が見たのは、株価の付く買い手と、発表時の反応や買収後の業績です。日本の中小の事業承継で売り手が受け取るものとは、物差しも主体も違います。しかも一流の銀行との結びつきは公開買収に限られ、非公開の会社の買収では差が出ていません。小さな会社の売買は、まさに差が出なかった側に近い取引です。
2000年の研究は要旨まで、2013年と1994年の研究も要旨までで、効果の大きさは書きません。シラバス側の「素早く多くまとめる」は要旨に無い言葉です。指針は研究ではなく、論点と望ましい対応を定めた文書で、仲介の効果を測ったものではありません。
投資銀行の研究では、
シェアの大きさと、
買い手の成果は別だった。
研究が支えるのは、投資銀行のシェアがまとめきった割合と成功報酬とともに伸びること、そのシェアが買い手の成果とは結びついていなかったこと、までです。日本の中小については、国の指針が利益相反のリスクを論点に据えている、という事実があります。どちらも、この仲介なら安心という約束ではありません。
TRY IT TODAY
- 01DATE
今日の日付と、買う側か売る側かの想定を書き、左に「良い相手の条件」、右に「仲介に確かめたいこと」の二つの欄を作る。
- 02LOG
左に、譲れない条件と避けたい相手の特徴(売る側なら託したい相手像)を書く。右に、双方と契約する形か、専任の縛りの範囲と期間、秘密の守り方、報酬が発生する時期を書く。
- 03SORT
左の条件を「値段・規模」「人・信頼」「手続き・利益相反」の三つに分け、買う・売る理由を書いたメモがあれば横に置いて、条件がその理由と合っているかに一言そえる。
この号が運べたのは三段です。投資銀行のシェアはまとめきった割合と成功報酬とともに伸び、買い手の成果とは無関係だったこと。銀行ごとの差はあったが、一流の銀行との結びつきは上場企業の公開買収に限られたこと。日本の中小の仲介には、国の指針が利益相反のリスクと専任の縛りを論点として書いていること。
相手の姿が見えてきたら、次に来るのは、いくらで譲るか・引き受けるかの問いです。次の号は、その値付けの内側を見ます。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「相手先を探し当てるには?」を、もっと深く学ぶ。→