IN COMMUNICATIONS & CRISIS · ISSUE 496
● 12 SEC「評判は管理できる」。順位を上げ、印象を整え、発信を磨けば守れる、という考えです。この号はそれを、評判の測り方、評判の捉え方、不祥事のあとの報道という三つの筋で確かめます。
先に向きを言うと、評判の数字は調査会社が作る商品で、評判という言葉の定義もまだ一つに定まっていません。けれど「管理は無駄」でもありません。米国の玩具業界の研究は、発表の中身を誰の不始末かで使い分けると得をしうる、と結論していました。投資家の反応を扱う研究も出てきますが、株価の数値は書きません。
2002年の測定論のレビューは、企業の評判を測る試みを、既存の定義とデータの集め方の両面から検討しました。“Both definitions and data are found to be lacking”(定義もデータも、ともに不十分だと分かった)。原因は、評判についての理論づくりが足りないことにある、と論じています。
2006年の定義論は、評判の定義を集めて似ている点と違う点で分類し、正確で共通に合意された定義はまだ無いと書きました。そのうえで、評判を「評価」の言葉で狭く定める新しい定義を提案しています。どちらも、新しいデータを取った研究ではなく、先行研究を整理した論文です。

実務で見る評判ランキングは、調査会社が定義と集め方を決めて出す業界の文書です。ある世界ランキングは、2014年版が15か国・5万5千件超の聞き取り、2021年版が15の大経済国の68,577人、2026年版が14か国と、同じ名前のまま年版ごとに国数も方法も変わっています。ただし、この号は「評判は測れない」とまでは書きません。研究論文5点のうち全文まで読めたのは2点です。読めていないものについては書きません。
01評判の高い企業は、悪い業績サプライズへの市場の罰が小さかった。2010年の研究は、経済誌と新聞の評判ランキングで上位25位に入った80社と、同業の比較企業211社(1991〜2005年)の記録を分析しました。アナリストの予想を大きく外れた業績発表の前後3日間の株式市場の反応を見ると、“Both high-reputation and celebrity firms experience greater market rewards for positive surprises and smaller market penalties for negative surprises than other firms”(評判の高い企業も注目を集める企業も、良い驚きにはより大きく報われ、悪い驚きにはより小さく罰せられた)。評判は、罰を和らげる側と結びついていました。
02自社の不祥事のあとは、原因への手当ての発表ほど、論調の悪化が小さかった。2012年の研究は、米国の玩具業界の1998〜2007年のリコールと、新聞・ブログの報道の論調を分析しました。原因に手を入れる技術的な行動と、印象を整えて注意を原因からそらす儀礼的な行動を分けて比べています。自社の不祥事による論調の悪化を、技術的な行動の発表は和らげる向きに、“whereas ceremonial actions amplify this effect”(儀礼的な行動は、この悪化を強めた)。
03他社の不祥事の余波には、印象を整える発表のほうが悪化の小ささと結びついていた。同じ研究では、業界の他社がリコールすると、自社の報道の論調も下がる負の波及が見られました。業界の不祥事が多い時期、とくに自社が不祥事を起こしていないときは、儀礼的な行動の発表のほうが技術的な行動より効果的だったと報告しています。著者の結論は“Taken together, our research findings suggest that ‘managing the message’ is an important part of a firm’s strategy”(総じて、メッセージの管理は企業の戦略の重要な一部だ)です。

ここから先は研究が示した結果ではなく、記録の単位を決めてみるためにALIFEが提案する読み筋です。評判を「管理」しようとしているとき、その様子は三つの形で表に出ます。
01順位や点数を、自分の通信簿として読んでいる。ランキングは、誰に聞き、何を基準に入れるかを調査会社が決めた商品です。2014年版では、回答者は「ある程度以上知っている」企業から無作為に割り当てられた最大5社を評価する方式でした。数字の裏には、その都度決められた定義と集め方があります。
02知られることと、期待されることを、一つに数えている。2011年の総説は、経営学の研究で評判が三つの捉え方をされてきたと整理しました。組織がどれだけ知られているか、この先その組織に何を期待できるかという信念、全体としての好ましさの印象です。この号が読めたのは公式の要旨までで、三つの呼び名の細部は書きません。
03印象を整える言葉だけで、自分の不始末に答えている。2012年の研究では、自社のリコールのあとに儀礼的な行動を発表すると、報道の論調の悪化が強まる向きでした。ただし業界の他社の不祥事の余波では、儀礼的な行動の発表のほうが効果的だったことも、同じ研究が報告しています。

2010年の研究が見た相手は投資家だけで、出来事も業績サプライズの1種類です。著者自身がこれを限界に挙げ、標本が主に大きく業績のよい企業に偏るとも書いています。2012年の研究も、四半期単位の粗い記録とコンピュータによる文章の分類という限界を認めています。日本の小さな商いで同じ向きが出るかは、ここからは言えません。
「評判は負債にもなる」という見方は、2010年の研究の結果ではありません。論文自身が、良い評判がかえって罰を重くしたリコールの研究(488号)と対比しているだけです。そして「管理には限界がある」は、2012年の著者の結論の片側です。言葉だけの手当ては自社の不始末で裏目に出る向きでしたが、著者は管理そのものを戦略の重要な一部としました。
米国の玩具業界の記録では、
報道が和らいだ発表は、
誰の不始末かで違っていた。
シラバス側は、評判を「行動の履歴に世間が付けた利子」と呼びます。これは研究の結果ではなく比喩です。研究が支えるのは、評判の数字が作られた商品であること、そして自社の不始末には原因への手当ての発表が論調の悪化の小ささと結びついていたこと、までです。どちらも、評判を守れるという約束ではありません。
TRY IT TODAY
- 01DATE
今日の日付を書き、二つの欄を作る。左は「本業の行動」(仕事の質・約束の守り方・日々の振る舞い)、右は「発信」(SNS・広告・順位や点数を上げる工夫)。
- 02LOG
この一週間、自分がどちらの欄にどれだけ時間を使ったかを、ざっと書き込む。正確な時間でなくてよい。
- 03SORT
右の欄に書いた発信を、「知られるため」「この先を期待してもらうため」「好ましく思われるため」のどれに近いかで分け、左の欄の行動と結びついているかに一言そえる。
この号が運べたのは三段です。評判の定義もデータも不十分だと指摘されてきたこと。評判ランキング上位の大企業の記録では、評判が悪い業績サプライズへの市場の罰の小ささと結びついていたこと。米国の玩具業界の記録では、報道が和らいだ発表が、自社の不始末か他社の余波かで違っていたこと。
この群は、初動の研究から始まりました。先に明かした側が信頼されていた、という筋書きの実験です。評判の話を締めたいま、次に戻るのはその出発点——危機の最初の一手のほうです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「評判をリスクとして管理するには?」を、もっと深く学ぶ。→