IN COMMUNICATIONS & CRISIS · ISSUE 481
● 12 SEC「初動が全て」「24時間以内に」。危機への備えを調べると、たいていこの言葉に出会います。けれど、その時間の数字を導いた実証研究は、この号が探した範囲では見つかりませんでした。見つからないことは、間違いだという意味ではありません。
では、研究は初動の何を測ってきたのか。実験で比べられてきたのは、時計ではなく誰が先に明かしたかでした。悪い知らせを、報道や第三者に暴かれる前に、組織が自分から出す。これを先出し(stealing thunder)と呼びます。記者と報道を学ぶ学生の実験では、先に知らせた広報担当者のほうが信頼できると評価されました。ただし、記事への関心も高まっていました。
状況的危機コミュニケーション理論(SCCT)は、2007年の査読論文が、それまでの実証研究から指針を引き出してまとめた枠組みです。危機を、組織が被害者と見られる型・事故と見られる型・意図や落ち度があると見られる型に分け、人々が組織に見る危機の責任は、この順に重くなるとします。対応はこの責任の見え方に合わせて選ぶ、というのが枠組みの芯です。
手厚さには、もう一つの面があります。“As crisis response strategies become more accommodative, show greater concern for victims, stakeholders perceive the organization as taking greater responsibility for the crisis”(対応が歩み寄りを強め、被害者への配慮を示すほど、関係者は組織がより大きな責任を引き受けたと受け止める)。

では、速さはどこに入るのか。2007年の論文の全文には、時間の数字も、対応の速さやタイミングを論じた箇所も見当たりません。速さに近い問いを実験で扱ってきたのは、悪い知らせを誰が先に明かすかを比べた研究です。この号が全文まで読めたのは6点のうち3点です。読めていないものについては書きません。
01先に明かした側のほうが、信頼できると評価された。2005年の実験は、組織が自分の危機を報道などに見つかる前に明かす条件と、別の誰かに先に明かされる条件を比べました。“Stealing thunder in a crisis situation, as opposed to allowing the information to be first disclosed by another party, was found to result in higher credibility ratings”(先出しは、別の者に先に明かされる場合より、信頼性の評価が高かった)。同じ論文の経路分析では、先出しと以前からの関わりが、危機を軽く見る受け止めや購入の意向と結びついていました。標本と効果の大きさは、読めた要旨に印字がありません。
02記者は信頼を高く見たが、記事への関心も高めた。2003年の実験では、記者と報道を学ぶ学生が、架空の危機の筋書きを一つ読みました。広報担当者が自分から記者に知らせた筋書きと、記者が別の筋から知った筋書きです。“journalists rated the practitioner as more credible, but also indicated greater interest in the story”(記者は広報担当者をより信頼できると評価したが、その話への関心も高めた)。先に知らせることは、関心を下げることにはつながっていませんでした。
03先に明かした側では、事実だけの説明でも謝罪と並ぶ傾向があった。2012年の実験は、ベルギーのオランダ語話者137人にオンラインで架空の詐欺事件(防げた危機)を読ませました。後から検察に明かされた側では、事実だけの説明だと信頼性が下がり、謝罪を加えたほうが高く保たれました。先に明かした側では、事実だけでも謝罪と同程度でした。ただしこの組み合わせの効き方は、偶然とみなす目安の5%をわずかに上回る境界的な水準です(信頼性で p=.056、評判で p=.085)。

ここから先は研究が示した結果ではなく、記録の単位を決めてみるためにALIFEが提案する読み筋です。初動が時計に引っぱられているとき、その様子は三つの形で表に出ます。
01何時間以内か、だけを数えている。2007年の論文の指針が条件に挙げるのは、危機の型に加えて、似た危機を以前にも起こしたかと、それまで関係者をどう扱ってきたかです。情報を伝えて整えるだけで足りうるのは、被害者と見られる型で、似た前歴がなく、それまでの関係の評判が悪くないとき、と書いています。時間の数字は、条件のどこにも出てきません。
02同じ型の文面を、誰にでも出している。2014年の実験(著者の博士論文に収められた版)は、ベルギーの回答者274人に、架空の飲料水汚染の記事と経営者の反応を読ませました。危機の型に合った対応が態度を上げたのは、危機が身近なときと、理詰めの伝え方のときです。身近でないときと感情に訴える伝え方のときは、“the impact of a matched or mismatched crisis response strategy on the post-crisis attitude toward the organization does not differ”(合った対応か否かで態度は変わらなかった)。タイミングの比較はありません。
03先に出したことを、収まった合図と読んでいる。2003年の実験では、先に知らせても、記者が感じる危機の深刻さや、記事の書き出しの枠づけには差が見られませんでした。2020年の実務家向けの論文は、デジタル時代の選択肢として先出しを検討すべき理由を、既存の研究と実例を並べて論じています。新しいデータを取った研究ではありません。

数えられたのは、架空の危機を読んだ人の評価です。2012年と2014年の回答者はベルギーのオランダ語話者を便宜的に集めた標本、2003年は記者と報道を学ぶ学生で、2005年の標本は読めた要旨に印字がありません。2012年の論文自身も、架空の会社1社への1回の提示で測ったことを限界に挙げています。日本の小さな商いで先に明かすことが同じように働くかは、ここからは言えません。
2012年の実験では、先に明かすことの効き目は組織の信頼性を経由していました。信頼性を加えて分析し直すと、評判への効き目は信頼性の側に吸収されています。そして何時間という数字は、探した範囲の研究からは導けませんでした。無いと言い切れるわけではありませんが、この号は時間の数字を書きません。
筋書きの実験では、
先に明かした側が
信頼を高く見られていた。
「初動が全て」という言い回しの中身を、探した範囲の研究はそのまま確かめてはいません。確かめられてきたのは、誰が先に明かしたかと、人々がどれだけの責任を組織に見るかのほうです。ただし、どちらも読ませた筋書きのなかで測られた話で、先に出せば収まるという約束ではありません。
TRY IT TODAY
- 01DATE
今日の日付を書き、自分の仕事で起こりうる困りごとを一つ書く。商品の不具合、対応の行き違い、短文投稿サービスでの誤解、守れなかった約束など、何でもよい。
- 02WHO
その困りごとで迷惑や被害を受けるのは誰か、その人にまず伝えるべきこと(身を守るための情報・気づかいの言葉)は何かを、書き分ける。
- 03ORDER
自分の言い訳や体裁を保つ言葉が先に浮かんだかどうかを書き、守る順番が「被害を受けた人が先、自分の体裁は後」になっているかに一言そえる。
この号が運べたのは、二段だけです。筋書きの実験では、自分から先に明かした側が信頼を高く見られ、同時に記者の関心も高めていた。そして対応を選ぶ前に、人々がその危機にどれだけの責任を見るかを読む、という枠組みがあった。何時間という数字は、そのどちらの研究からも出てきていません。
この群は、ここから初動・炎上・伝達・再建の順にたどっていきます。次に見るのは、責任の見え方に合わせて選ぶ一手のうち、いちばん誤解されやすいもの——謝罪のほうです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「危機の初動を制するには?」を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- p値
- 差がないと仮定したとき、偶然でこの結果以上が出る確率の目安。小さいほど偶然では説明しにくいことを表しますが、効果の大きさは表しません。

