IN COMMUNICATIONS & CRISIS · ISSUE 495

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗いガラスに自分の姿を映しながら街の明かりのほうを見ている、黒いスーツの女性● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

常連には品質を、取引先には安さを。相手ごとに言い方を変えるのは、配慮のつもりです。けれど短文投稿サービスでは、別々の相手に向けた言葉が、同じ一つの画面に並びます。相手ごとに語り分ければ届く、という前提は、場が分かれていることを当てにしていました。

この号が運ぶのは、相手を見極めるための理論と、個人の投稿で聴衆が重なることを調べた研究です。その先の「店や会社の語り分けは、並べば食い違いとして読まれる」は、研究が確かめた結論ではありません。この号はそれを結論としては書かず、見取り図として置きます。

ステークホルダー(利害関係者)という見方を経営の戦略に据えた1984年の学術書は、相手をこう定義します。“any group or individual who can affect or is affected by the achievement of the organization's objectives”(組織の目的の達成に影響を与えうる、あるいは影響を受けるあらゆる集団や個人)。

では、誰にどの順で応えるか。1997年の理論論文は、相手が持つ力・正当性・緊急性という三つの属性の組み合わせから相手を類型に分け、経営者にとっての重要度(顕著性)についての命題を立てました。

(仮ビジュアル)暗い室内の黒い壁ぎわに立ち、窓ガラスに自分の後ろ姿が映りこんでいる、黒いニットの女性
影響を与える側も、受ける側も。相手の範囲を決めるところから、この理論は始まっていた。 Visual: ALIFE

1995年の理論論文は、この理論が記述の正確さ・道具としての力・規範としての妥当性の三つの面から論じられてきたと整理し、“the three aspects of stakeholder theory are mutually supportive”(三つの面は互いを支え合う)と結論しました。土台は規範の面だ、とも書いています。どちらの論文も理論を組み立てたもので、語り分けの効果を測った研究ではありません。

では、相手ごとに場が分かれている、という前提はどうか。2011年の論文は冒頭でこう書きます。“Social media technologies collapse multiple audiences into single contexts”(ソーシャルメディアは、複数の聴衆を一つの文脈に潰してしまう)。この号が全文まで読めたのは6点のうち1点です。読めていないものについては書きません。

01別々の聴衆が、一つの画面に重なっていた。2011年の論文は、短文投稿サービスの利用者に「誰を思い浮かべて書くか」を直接問いかけ、181人から226の返信を集めました。利用者全体を代表する標本を狙ったのではない、と著者自身が書いています。返信には、相手を絞って書く・話題を伏せる・自分らしさを保つといった工夫が並び、書き手は見えない聴衆を想像しながら書いていました。

02返信では、思い浮かべる読み手がしばしばいちばん敏感な人だった。“Context collapse creates an audience that is often imagined as its most sensitive members: parents, partners, and bosses”(文脈の崩壊は、しばしば親・パートナー・上司といういちばん敏感な人として想像される聴衆を生む)。同じ論文は、これが誰にとっても安全な話題だけに書き手を絞る方向にも働きうる、と書いています。

03聴衆の大きさと多様さは、開示の仕方と結びついていた。2012年の研究は、SNS上の開示を質問紙で調べ、聴衆の構成・開示・プライバシーの工夫・人づきあいの資源の関係をモデルで分析しました。“audience size and diversity impacts disclosures and use of advanced privacy settings”(聴衆の大きさと多様さが、開示と高度なプライバシー設定の使い方に関わる)。人数と効果の大きさは、読めた抄録にありません。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆の3本の脚が支えているコンソールテーブル
重なる聴衆・敏感な読み手・開示と設定。まず報告されたのは、この三つだった。 Visual: ALIFE

ここから先は研究が示した結果ではなく、記録の単位を決めてみるためにALIFEが描く見取り図です。2014年の理論論文は、文脈の重なりを二つに分けています。“The former is an intentional collapsing of contexts, while the latter is unintentional”(前者〔共謀〕は意図して文脈を重ねること、後者〔衝突〕は意図しない重なり)。

01相手ごとに、約束の中身まで変わっている。品質を約束する相手と、安さを約束する相手が別々にいる状態です。2014年の理論が言う意図しない重なり(衝突)が起きたとき、二つが食い違いとして読まれうる——というのはこの号の外挿で、商いの場で確かめた研究は読めた範囲にありません。

02場が分かれている前提のまま、書き分けている。2011年の返信では、利用者は画面が一つであることを踏まえて、特定の相手に向けて書き、話題を伏せていました。店の告知が、取引先向けと客向けの場が分かれている前提のまま書かれていないか。研究の結果ではなく、記録できる単位としての提案です。

03声の大きさだけで、応える順番を決めている。1997年の理論は、相手の重要度を力・正当性・緊急性の組み合わせで考える枠組みを論じました。一つの手がかりだけで順番を決めていないかを見る、というのはこの号の読みで、枠組みの効き目を測った結果ではありません。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
約束の中身が違う・場の分離を当てにする・声の大きさで決める。ALIFEが置いた、三つの形の見取り図。 Visual: ALIFE

全文まで読めた2011年の論文は、短文投稿サービスの利用者181人の226の返信に基づく研究で、代表する標本ではないと著者が断っています。2012年の研究は抄録までで、人数や効果の大きさは書けません。1995年・1997年・2014年の論文は理論で、1984年の本は定義の一文を2010年の再刊版で確かめたところまでです。

3本のSNS研究はどれも、個人の自己呈示や開示を調べたものです。店や会社が相手ごとに芯を変えて語ると矛盾として露見する、を確かめた研究は、この号が読めた範囲にはありません。2014年の論文は、先行研究を踏まえ、文脈の重なりには良い面も問題の面もありうると書いています。この号は、露見を研究の結論としては書きません。

181人の返信では、
書き手は重なった聴衆を
想像しながら書いていた。

語り分けること自体を、研究は退けていません。2011年の返信でも、利用者は特定の相手に向けて書き分ける工夫を語っていました。重なった画面の上で問われるのは、書き分けた言葉どうしが並んだときにどう読まれるか。ここはALIFEの読み筋で、測られた結果ではありません。

TRY IT TODAY

  1. 01DATE

    今日の日付を書き、自分の商いで最近伝えた(これから伝える)メッセージを一つ選ぶ。値上げの知らせ、新商品の案内、方針の表明など、何でもよい。

  2. 02TWO

    そのメッセージを、二種類の相手向けに書き分けてみる。顧客向けと取引先向け、常連向けと初めての人向け、など。

  3. 03SIDE BY SIDE

    二つを並べ、芯(約束の中身)は同じか・並べて読まれても食い違わないか・変えたのは言葉と切り口だけか、の三つを一言ずつ記録する。

10分。他人に送って反応を試す作業ではありません。記録するのは、自分の書き分けの中身だけです。これは研究結果そのものではなく、記録の単位を決めてみるためにALIFEが提案する実践入口です。法的な判断や実際の危機対応が要るときは、弁護士・広報の専門家・所管の窓口などへ。

この号が運べたのは三段です。相手の範囲と見極めを論じる理論があったこと。短文投稿サービスの利用者の返信では、別々の聴衆が一つの画面に重なり、書き手はしばしばいちばん敏感な読み手を思い浮かべていたこと。そして店や会社の語り分けへの当てはめは、まだ見取り図であること。

次に見るのは、こうした発信の積み重ねが形づくる評判そのものが、危機のときにどう働くかです。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「ステークホルダーごとに語るには?」を、もっと深く学ぶ。→

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。