IN COMMUNICATIONS & CRISIS · ISSUE 494
● 12 SEC「誠実に対応すれば、信頼は戻る」。危機のあとの心得として、こう言われることがあります。そしてその誠実さは、たいてい「まず謝る」と読み替えられます。けれど、信頼の回復を実験で比べた研究が示したのは、謝ることがいつも一番の返事だという姿ではありませんでした。
比べられてきたのは、何を疑われたかです。力や知識が足りなかったのか、わざとやったのか。同じ一つの誤りでも、どちらを疑われたかで、謝罪と否認のどちらがより信頼を戻すかが入れ替わりました。ただし測られたのは、学生が模擬の採用場面の映像を見て下した評価です。この号は、日本の商いで同じことが起きるとは書きません。
この系列の研究は、信頼を二つに分けて考えます。仕事に要る技能を備えているという能力(competence)への見込みと、自分が受け入れられる原則を守る人だという誠実さ(integrity)への見込みです。疑いも同じ二つに分かれます。「力が足りなかった」という疑いと、「わざとやった」という疑いです。
2004年の実験は、この二つを同じ一つの出来事で作り分けました。会計事務所の応募者が、前の職場で税務申告を誤ったと面接で指摘される映像です。原因は「税法の知識不足」か「故意」かの二通りで、どちらも裏づけの無い伝聞とされました。応募者はその場で、謝るか、責任を否定するかのどちらかで答えます。

では、どちらの疑いに、どちらの返事が合っていたのか。この系列の実験は、謝罪と否認に加えて、謝罪に添える理由と、肯定も否定もしない返事まで比べています。この号が全文まで読めたのは6点のうち2点です。読めていないものについては書きません。
01能力の疑いには謝罪が、誠実さの疑いには否認が、より信頼を戻した。2004年の1つめの実験は、学部生63人と経営大学院生137人の計200人が対象です。能力を疑われた応募者は謝ったほうが、誠実さを疑われた応募者は責任を否定したほうが、信頼を多く取り戻しました。“apologized for violations concerning matters of competence but denied culpability for violations concerning matters of integrity”(能力の違反には謝罪し、誠実さの違反には責任を否定した)。
02後から証拠が出ると、それと食い違う返事は誠実さの疑いで深く響いた。2つめの実験(学生444人)では、返事のあとに罪か潔白の証拠が示されました。罪の証拠なら謝っていたほうが、潔白の証拠なら否定していたほうが、信頼は高く保たれました。事後の分析では、“responses that were inconsistent with subsequent evidence concerning guilt/innocence were more damaging to trust when the violation concerned matters of integrity than competence”(証拠と食い違う返事は、能力より誠実さの違反で信頼を損ねた)。
03謝罪に添える理由も、疑いの種類で向きが逆だった。2006年の実験では、大学生189人が会計士の採用を決める役で映像の筋書きを見ました。応募者はどの条件でも謝ります。能力の違反では「自分の落ち度」とする謝罪が、誠実さの違反では「外の事情」を添えた謝罪が、信頼をより戻しました。著者は、誠実さの違反の打撃は大きく“any mitigating response, even one that perceivers are likely to question, may prove worthwhile”(疑われそうでも和らげる応答には価値がありうる)と書きます。読めたのは要旨までです。

2007年の実験は、疑いを肯定も否定もしない返事を比べました。米国西部の経営大学院生102人が採用面接の映像を、シンガポールの経営学部生241人が経営者のニュース映像を見ています。どちらの疑いでも、この返事はその場で効きにくいほうの返事と並ぶ傾向で、著者は“reticence is usually if not always suboptimal”(常にではないが、たいていは最善に届かない)とまとめます。
同じ著者は、この返事が正当で、ときには唯一とれる返事でもあると書いています。ここから先は研究の結果ではなく、記録の単位を決めるためにALIFEが提案する読み筋です。返事と疑いの種類が噛み合っていないとき、それは三つの形で表に出ます。
01疑いの中身を見ずに、同じ謝罪文を出している。2004年の実験では、同じ謝罪でも、能力を疑われたときと誠実さを疑われたときとで、信頼の戻り方が違いました。謝罪がいつも一番の返事だったわけではありません。
02事実を確かめる前に、否定している。後の証拠と食い違う返事が深く響いたのは、誠実さの疑いのほうでした(2004年の2つめの実験)。誠実さの疑いに否認が勝ったという結果は、事実に反して否定してよいという意味ではありません。
03「今は何も言えない」のまま、様子を見ている。2007年の論文は、この返事が正当な理由で使われ、受け手に正当と見られた場合でも、結果は他の返事より悪くなりやすいと書きます。受け手は判断を保留せず、悪いほうへ傾いていた、というのが著者の読みです。

数えられたのは、学生が映像や筋書きを見て下した評価です。2004年の論文自身が、現場ではなく実験室で調べたことを限界に挙げています。予備調査の平均と比べると、謝罪も否認も信頼を元の水準までは戻しておらず、“these responses represent only a partial solution for addressing trust violations”(これらの返事は部分的な解決にすぎない)と書きます。
2007年の論文も、東洋と西洋での受け止めの違いを今後の課題に挙げています。日本の小さな商いで同じ入れ替わりが起きるかは、ここからは言えません。この号は、どの返事を選べば信頼が戻るかを書きません。
学生の模擬実験では、
信頼を戻した返事が、
疑いの種類で入れ替わった。
実験が確かめたのは、誠実さの量ではなく、疑いの種類と返事の組み合わせでした。その先は理論の領分です。2009年の理論論文の1本は信頼の回復を双方向で多層の過程として描き、もう1本は組織の内と間の関係修復の研究を枠組みに整理しました。2015年の特集号の序論は、組織と制度の信頼回復を概念的に整理し、“no single mechanism can be relied on to rebuild organizational trust”(一つの仕組みだけでは組織の信頼を建て直せない)と結論づけています。
TRY IT TODAY
- 01DATE
今日の日付を書き、自分が誰かの信頼を損ねた、または疑われた場面を一つ書く。納期に遅れた、約束を忘れた、請求を誤った、など。
- 02TYPE
相手が疑ったのは、力や準備が足りなかったこと(能力)か、わざとやったこと(誠実さ)か。実際の事実はどうだったかを、別の行に分けて書く。
- 03REPLY
そのとき自分が返したのは、謝罪・否定・「今は言えない」という保留・何も返さない、のどれだったかを書き、後で分かった事実と食い違っていなかったかに一言そえる。
この号が運べたのは、三段です。学生の模擬実験では、能力の疑いには謝罪が、誠実さの疑いには否認が、より信頼を戻していた。後から証拠が出ると、それと食い違う返事は誠実さの疑いで深く響いた。そして肯定も否定もしない返事は、たいてい分の悪い側だった。どれも、謝れば戻る、否定すれば戻るという約束ではありません。
次に見るのは、危機のあとに誰へ何を語るか——相手ごとに言葉を分けることのほうです。
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