IN COMMUNICATIONS & CRISIS · ISSUE 493

(仮ビジュアル)暗い背景の石の台に、白い発酵乳の瓶と、切り漬けを詰めた低いグラスと、琥珀色の発酵茶が入った細長い容器が、三つ横に並んでいる静物写真● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

代表が前に出て感じのいい顔を見せれば、店や会社の好感も上がる。そう考えたくなります。けれど、トップの顔と会社の評判を測ってきた研究が描くのは、もっと限られた、両刃の姿でした。この号が扱うのは米国の大企業・上場企業の研究で、日本の小さな商いにそのまま当てはめることはしません。

企業が社会や政治の争点で立場を表明したとき、米国の投資家の反応は平均すると負でした。表明したのがトップ本人だった件では、社内のほかの人や部署が発表した件より、さらに厳しい向きでした。顔は好感を集める場所になりうる一方で、反発を受け止める場所にもなります。

経営者の評判(CEO reputation)は、人々がトップ個人に抱く評価と、その人と会社を重ねて見る見方のことです。米国の大企業372社を1991〜1997年の1,599企業年分たどった研究は、経済誌の企業評判の調査の点数を、トップの目立ち方(受賞や報道の量)と評価で説明しようとしました。同じ会社の年ごとの上下のうち説明できる割合(決定係数)は、トップの指標を加えると3.5ポイント増えました。

著者はこれを、財務業績でも20%にとどまるなかでの意味のある増分と見る一方、全体としてはトップが評判の差の多くを説明するわけではないとも書きます。“Yes, CEOs can substantially affect their firm’s reputation, but relatively few of them make a dramatic difference”(トップは評判を大きく左右しうるが、劇的な差をつけるのは比較的少数だ)。

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗いガラスに自分の姿を映しながら街の明かりのほうを見ている、黒いスーツの女性
トップの顔は評判の一部を担う。ただし、大きな差をつけたのは一部のトップだった。 Visual: ALIFE

顔が会社の評判の一部を担うなら、その顔が発する言葉は会社に返ってきます。近年の研究が測ってきたのは、トップや企業が社会・政治の争点に立場を示したとき、誰がどう反応したかでした。この号が全文まで読めたのは6点のうち4点です。読めていないものについては書きません。

01賛成する人の買う気は上がり、反対する人の買う気は動かなかった。米国の2つの実験の1つ目は、ある州の宗教の自由をめぐる法律に反対するトップの発言を読ませました。法律への支持は下がりましたが、同じ文言を別の人の発言や無署名にしても差はありませんでした。製品の購買意図は上がり、“same-sex-marriage supporters drive this effect”(効果を生んだのは同性婚の支持者だった)。反対する人の購買意図に変化は見られず、気候政策をめぐる2つ目の実験では効果が見られませんでした。

02米国の上場企業の表明に、投資家の反応は平均すると負だった。2011〜2016年の米国の上場149社による293件の表明(行動を含む)を、発表前後5日間の株価の超過収益で調べたイベントスタディです。“on average, CSA elicits an adverse reaction from investors”(平均すると、企業の社会政治的な表明は投資家の否定的な反応を招く)。表明がトップ本人の発表だった件では、社内のほかの人や部署が発表した件より反応がさらに厳しい向きでした。

031社の従業員では、トップの信頼性が評判の見え方と結びついていた。大企業1社の従業員157人へのオンライン調査では、トップの信頼性が、従業員の目に映る会社の評判と仕事への関与の両方と正に結びついていました。関与との結びつきは、評判の見え方を経由して説明されていました。一時点の調査で、測ったのは従業員の知覚です。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆の3本の脚が支えているコンソールテーブル
回答者の買う気・投資家の反応・従業員の見え方。表明とトップの顔をめぐって報告されていたのは、この三つだった。 Visual: ALIFE

ここから先は研究が示した結果ではなく、記録の単位を決めてみるためにALIFEが提案する読み筋です。トップの顔を、好感を足すだけの資産として見ているとき、その様子は三つの形で表に出ます。

01賛成の声だけを数えている。上場企業の研究で投資家の反応が負でなくなったのは、表明が顧客・従業員・州の議員という主要な関係者のうち少なくとも2者の価値観に近いときでした。3者すべてに近ければ正の反応が見込める、と著者は書いています。賛成の数だけでは、この条件は見えません。

02称賛の記事を、自分の実力の証明として読んでいる。2004年の理論論文は、記者が会社の成果をトップ個人の資質に帰して称賛するとき、その称賛を信じ込んだトップが過信に傾き、問題を含む判断につながりうると論じました。データで確かめた研究ではありません。

03役員の見積もりを、測った事実として読んでいる。PR会社と調査会社による2015年の調査は、売上5億ドル以上の企業の役員1,700人超(19か国・トップ本人は除外)にオンラインで尋ねました。“on average, they attribute nearly half (45%) of their company’s reputation to the reputation of their chief executive officer”(平均で、自社の評判の約半分〔45%〕をトップの評判に帰した)。役員自身の見積もりの平均で、順位づけではありません。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
賛成だけを数える・称賛を実力と読む・見積もりを事実と読む。顔を資産だけで見るときは、この三つの形で表に出る。 Visual: ALIFE

投資家の反応を測った研究は、米国の上場企業の表明を扱ったもので、店主個人の顔ではありません。この号は株価の数値を書かず、向きだけを運びます。買う気の実験が測ったのは回答者の意図で、実際の購買ではありません。評判の研究は1990年代の米国の大企業、従業員の調査は大企業1社、役員の調査は業界の文書で、実施時期の記載がありません。

反対する人の買う気が動かなかったことは、反発が無いという意味ではありません。投資家の平均は負でした。どちらも米国の数字で、日本の小さな商いで同じ向きになるかは、ここからは言えません。

米国の上場企業の表明に、
投資家の反応は平均すると負で、
トップ本人の表明ではさらに厳しかった。

「顔で好感を作る」という言い回しの中身を、読めた研究はそのまま支えてはいません。トップの顔は評判の一部を担い、米国の実験では発言が賛成する人の買う気を上げた一方、投資家の平均は負でした。好感を足すだけの顔ではなく、返ってくる反応を引き受ける顔として見るほうが、研究の描く姿に近いはずです。

TRY IT TODAY

  1. 01DATE

    今日の日付を書き、自分(自分の商いの代表)が最近した、またはしそうな発信を一つ書く。店のあいさつ文、取材での発言、短文投稿サービスへの投稿など、何でもよい。

  2. 02SIDES

    その発信が、どんな人の支持を集めそうか、同時にどんな人の反発を買いそうかを、分けて書く。

  3. 03RECORD

    別の相手の前でした過去の発言と食い違っていないかを書き、返ってくる反発や後で問われる期待を引き受けられるかに一言そえる。

10分。他社の経営者の発言を眺めて品定めする作業ではありません。点検するのは、自分の発信の記録だけです。これは研究結果そのものではなく、記録の単位を決めてみるためにALIFEが提案する実践入口です。法的な判断や実際の危機対応が要るときは、弁護士・広報の専門家などへ。

この号が運べたのは、三段です。米国の大企業では、トップの顔は評判の一部を担い、大きな差をつけたのは一部だった。米国の実験では、トップの発言は賛成する人の買う気を上げ、反対する人の買う気は動かさなかった。そして上場企業の表明に、投資家は平均すると負の反応を見せ、トップ本人の表明ではさらに厳しかった。

顔が集めるのは好感だけではありません。次に見るのは、その顔が一度失った信頼を、どう取り戻せるのかという問いです。

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本コンテンツは学習目的であり、投資助言や個別の金融商品の推奨ではありません。