IN COMMUNICATIONS & CRISIS · ISSUE 491

(仮ビジュアル)石造りの建物の広い階段を、黒いロングコートに白いワイドパンツの女性がひとりで下りてくる写真● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「リリースを打てば載る」。報道の多くは広報の素材でできている、と聞いた人ほど、そう考えがちです。その話を支える数字の一つに、2006年の英国の全国紙を数えた研究があります。この号は、その数字と、同じ問いを別の国で数え直した研究を並べます。リリースの書き方の手引きは書きません。

答えの形を先に書くと、英国の紙面は既製の素材に多く頼っていた。けれど、オランダとベルギーの新聞ではそうではなかった、です。数えられたのは載った記事の出どころで、リリースが載る確率ではありません。そして載ったとしても、記事はリリースの写しとはかぎりませんでした。

チャーナリズム(churnalism)は、広報の素材や通信社の配信を、ほとんど手を加えずに記事へ流しこむことを指す、批判をこめた呼び名です。2008年の内容分析の論文は、英国の全国紙5紙の国内ニュース2,207本(ほかに放送402本)を、2006年の1週間ずつ2回にわたって調べました。新聞記事の約5本に1本(放送は17%)が、主に、または全部が広報の素材から生まれたと確かめられています。

著者たちは、この数え方に自ら断りを入れています。痕跡をたどれたものだけを数えたので、“they are inevitably conservative, and almost certainly underestimate the true extent of PR activity”(数字は必然的に控えめで、広報の働きの実際の広がりをほぼ確実に下回っている)。

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗いガラスに自分の姿を映しながら街の明かりのほうを見ている、黒いスーツの女性
何が載ったかを、どこから来たかでたどる。2006年の英国の全国紙で数えられたのは、その来歴だった。 Visual: ALIFE

では、この数字はどこまで持ち出せるのか。同じ年の別の論文は、同じ記事に記者への聞き取りと20年分の新聞社の決算を重ね、依存の背景を新聞の経済の側から説明しています。この号が読めたのはその要旨までです。全文まで読めたのは6点のうち4点で、読めていないものについては書きません。

01英国の全国紙で、より多く頼られていたのは通信社だった。同じ2006年の新聞記事では、60%が広報と通信社の既製の素材に全面的に、または主に頼り、既製の素材の痕跡が見当たらないのは12%でした。通信社の配信をほぼそのまま使った記事が30%、大きく頼った記事が19%で、“nearly half of all press stories appeared to come wholly or mainly from agency services”(新聞記事のほぼ半数が、全面的に、または主に通信社の配信から来ていたとみられる)。広報だけの約2割とは分けて読む数字です。

02オランダの新聞では、リリースが発端の記事は約1割だった。2018年の研究は、オランダの新聞と最大の通信社を対象に、2004〜2013年の4,455本のリリースを自動の内容分析で追いました。リリースが発端になった記事は、対象の10組織に触れた記事のうち新聞で約1割、通信社で約16%で、増える傾向はありません(英国の約2割は国内ニュース全体が分母で、分母が違います)。ほぼ丸写しは1%未満で、転載の度合いに見られた統計的に意味のある傾向は、減る向きだけでした。英国の「主に広報から」とは定義が違います。“The results differ from the alarming findings from studies from the United Kingdom and United States.”(結果は、英国と米国の研究の警鐘的な知見とは異なる)

03ベルギーの外信記事では、コスト削減で説明できる変化は無かった。2014年の研究は、ベルギーの4紙の外信記事の情報源を1995〜2010年で追いました。“We found no substantive changes in the sourcing practices of Belgian journalists that can be explained by cost-cutting or the introduction of social media in newsrooms.”(コスト削減やソーシャルメディアの導入で説明できる実質的な変化は無かった)。一般市民が情報源の15%を占めた一方、政治的な情報源が優位だとも書いています。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆の3本の脚が支えているコンソールテーブル
英国の通信社・オランダのリリース・ベルギーの外信。同じ問いを数え直すと、答えは国ごとに違う形をしていた。 Visual: ALIFE

ここから先は研究が示した結果ではなく、記録の単位を決めてみるためにALIFEが提案する読み筋です。「打てば載る」と考えているとき、その考えは三つの形で表に出ます。

01英国の全国紙の数字を、自分の町の新聞に重ねている。2014年の研究の著者は、英国で出たチャーナリズムへの厳しい批判は、ほかの国にそのまま当てはめられないと結論しました。2016年の研究では、英国の広報の実務家が、地方の媒体やネット専業・専門業界の媒体では載りやすく、全国紙では経験がまちまちだと語っています。どちらも英国やベルギーの話で、日本の地方紙や業界紙は、ここでは数えられていません。

02載せるかどうかを、出す側が決めていると思っている。2016年の研究は、英国の広報の実務家28人への聞き取りです。力関係は複雑で矛盾をはらみ、状況の多くは自分たちに有利だと認めつつ、強気にはなれないと語られました。記者が自分から取り上げに来るときは主導権がこちらにある、という声もあれば、“ultimately journalists will hold the upper hand”(最後は記者が上に立つ)と言い切る実務家もいました。記者を測った研究ではありません。

03載った記事を、リリースの言い換えだと思っている。2013年の研究は、オランダの製品発表のリリースと記事49組を一文ずつ比べました。記事の情報のうちリリースに由来するのは半分未満で、記者は肯定的な評価を減らし、消費者向けの情報を足して枠を組み替えていました。ただし“radical transformations are rare”(大きな書き換えはまれ)で、組み替えは記事の後半に多く、リリースの主な枠はしばしば残っていました。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
よその国の数字を重ねる・出す側が決めると思う・写しだと思う。「打てば載る」は、この三つの形で表に出る。 Visual: ALIFE

ここで数えられたのは、すでに載った記事の来歴です。リリースを多く出すと載りやすくなるかを確かめた研究は、この中にありません。定義も研究ごとに違い、英国は「主に広報から」、オランダは「リリースが発端」、ベルギーは外信記事の情報源です。オランダの研究は、扱ったのがリリースという一つの形だけだとして、一般化に慎重です。

聞き取りは広報の実務家の語りで、書き換えの研究は読めた要旨の範囲です。日本の地方紙や業界紙で同じことが起きるかは、ここからは言えません。この号は、リリースの本数と載る確率の関係を書きません。

英国の全国紙で数えられた像は、
オランダとベルギーの新聞では
同じ形では出なかった。

「リリースを打てば載る」を支える数字は、2006年の英国の全国紙のものでした。しかもそこで最も頼られていたのは、広報のリリースより通信社の配信です。別の国で数え直すと、像は同じ形では出てきませんでした。載るかどうかの像も、載ったあとの言葉も、国と媒体によって違う形で報告されていました。

TRY IT TODAY

  1. 01DATE

    今日の日付を書き、自分の店や仕事でいちばん伝えたいことを一つ選ぶ。言いたいことを全部詰めこんだ形で、三〜四文書く。

  2. 02CORE

    飾り・自慢・細かい説明を削り、「誰に向けた、何が新しい話か」だけを残した一文に書き直す。削った言葉も横に書き残しておく。

  3. 03CHECK

    その一文が、記事の後半に回されたり言葉を足されたりしても残るかどうかを考え、「残る」「崩れそう」のどちらかに分けて一言そえる。

10分。他社の報道を集めたり比べたりする作業ではありません。点検するのは、自分の伝えたいことの記録だけです。これは研究結果そのものではなく、記録の単位を決めてみるためにALIFEが提案する実践入口で、載りやすくなることを確かめた方法ではありません。取材対応や法的な判断が要るときは、広報の専門家や弁護士などへ。

この号が運べたのは、三段です。2006年の英国の全国紙では、記事の約5本に1本が主に広報の素材から生まれ、より多くは通信社に頼っていた。オランダとベルギーの新聞では、その像は同じ形では見つからなかった。そして載った記事では、リリースの枠が残りつつ、情報の半分を超える部分はリリースの外から来ていた。

次に見るのは、報道に載せたい話ではなく、事実でない話が広がってしまったときのほうです。

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