IN COMMUNICATIONS & CRISIS · ISSUE 489
● 12 SEC危機のとき、社内への知らせ方は、まだ誰も整えていない手つかずの領域なのでしょうか。2011年の枠組み論文は、研究についてこう書きました。“Apart from a few exceptions, the internal dimension of crises, crisis management, and crisis communication has, by and large, been unexplored”(わずかな例外を除き、危機・危機管理・危機コミュニケーションの内部の次元は、おおむね探究されてこなかった)。
けれど同じ年の春、デンマークの大手民間企業と自治体を調べた質問紙調査では、組織の多くが社内への対応を含む危機計画をすでに持っていました。未踏だったのは研究の側で、実務の側ではなかった——少なくとも、その調査が対象にした大きな組織では。この号はこの二つを分けて読みます。社内にこう流せば伝わる、という処方は書きません。
社内の危機コミュニケーションは、危機の前・最中・後に、組織が従業員など内部の関係者とやりとりすることを指します。2011年の論文はデータを取った研究ではなく、危機管理と危機コミュニケーションの文献を読み直して枠組みを組んだ理論の論文です。出発点は二つ。組織と従業員の関係を詳しく見て、外向けの発信と何が違うかを確かめること。そして危機の前・最中・後という段階で整理することです。

「探究されてこなかった」は、研究についての評価です。組織が社内への備えを欠いていた、という意味ではありません。では、実務の側はどうだったのか。この号が全文まで読めたのは6点のうち1点です。読めていないものについては書きません。
01デンマークの大きな組織の多くは、社内を含む危機計画を持っていた。2011年春、デンマークの大手民間企業367社と自治体98に、主に危機への備えを担う担当者あての36問の質問紙を送った調査です。大多数の組織が危機計画を持ち、その多くに従業員など内部の関係者への対応と伝達が含まれていました。著者のまとめは “a rather professional and formalized behavior”(かなり専門的で形式化された取り組み)。保有率の数字は読めた要旨にありません。
02イタリアの金融危機では、会社の意図と従業員の受け止めが食い違っていた。2008〜2009年の世界的な金融危機のさなかのイタリア企業を、社内広報の担当者と従業員への面接、フォーカスグループ2回、担当者への質問紙で調べた研究です。会社は優れた伝達を計画し、公式の手段を多く使い、危機を好機として描いていました。“employees complained about the lack of listening and about the clarity of messages”(従業員は、聴いてもらえないこととメッセージの分かりにくさを訴えた)。
03平時の研究では、双方向のやりとりが、従業員との関係の質と結びついていた。2014年の研究は、変革型のリーダーシップ、対称的(双方向)な社内コミュニケーション、従業員の態度と行動のつながりを調べました。対称的なコミュニケーションは従業員と組織の関係の質と強く結びつき、その関係を経由して、従業員が組織を擁護する行動とつながっていました。危機の場面の研究ではありません。回答者の数や国は、読めた要旨に印字がありません。

ここから先は研究が示した結果ではなく、記録の単位を決めてみるためにALIFEが提案する読み筋です。社内に知らせたのに伝わっていないとき、その様子は三つの形で表に出ます。
01計画があることを、伝わった証拠と読んでいる。デンマークの調査が尋ねたのは、計画を持っているか、そこに社内の次元が含まれるか、という担当者の回答です。危機のさなかに従業員へ伝わったかは、この調査の問いではありません。イタリアの研究では、優れた伝達を計画していた会社で、従業員が聴かれていないと訴えていました。
02一斉に流して、問いを受ける場がない。イタリアの研究の従業員は、分かりにくさに加えて、階層的な伝え方を嫌い、会社を便乗的だと責めてもいました。著者は実務への示唆として、危機の前に信頼関係を強め、さなかには開かれた継続的な傾聴に力を注ぐことを挙げています。効き目を比べた結果ではなく、著者の提言です。
03従業員を、受け手としてだけ見ている。2011年の概念論文は、従業員を受け身の受け手ではなく、能動的な伝え手として見るべきだと論じました。“co-workers are the most important ambassadors of their organization and its products”(従業員は、組織とその製品の最も重要な大使である)。データを取った研究ではなく、危機の場面を扱った論文でもありません。

デンマークの調査は、計画を持つかを担当者に尋ねた自己申告です。しかも組織が大きいほど計画を持ちやすく、とくに民間でその傾向がはっきりしていました。対象は大手企業と自治体で、イタリアの研究も企業の話です。従業員が数人の日本の小さな商いに、この向きがそのまま当てはまるとは言えません。規模の関係は、むしろ逆向きの注意を促します。
研究が薄いという評価は2011年時点のもので、いまも同じかをこの号は確かめていません。2010年の研究は、イタリア企業の社内広報担当者10人への面接から、危機に限らない社内コミュニケーションのモデルを提案し、質的な研究のため一般化はできないと著者自身が書いています。社内にこう伝えれば伝わる、を比べた結果は、全文まで読めた1点にも、要旨まで読めた5点の要旨にもありません。
2011年春のデンマークでは、
大きな組織の多くが
社内を含む計画を持っていた。
薄かったのは研究の蓄積で、その調査が見た大きな組織では、計画はすでにありました。ただ、イタリアの研究では、優れた伝達の計画があっても、従業員は聴かれていないと感じていました。計画があることと、内側に伝わったことは、別の問いとして残ります。
TRY IT TODAY
- 01DATE
今日の日付を書き、自分の商いで困りごとが起きたとき、真っ先に事情を伝える内側の人(一緒に働く家族・従業員・協力者など)を書き出して、伝える順に並べる。
- 02FIRST
それぞれの人に最初に伝える要点を一文で書き、相手の疑問を受けて答える場(顔を合わせる・電話・折り返しの時間など)があるかを「ある・ない」で分ける。
- 03OUTSIDE
その人が外で事情を尋ねられたとき、何を知っていれば落ち着いて答えられるかを一言そえる。
この号が運べたのは、二段です。2011年の時点で、社内の危機コミュニケーションは研究としておおむね探究されていなかった。けれどデンマークの大きな組織の多くは、社内を含む危機計画をすでに持っていた。この二つを分けずに「未踏の地」と呼ぶと、実務についての向きが逆になります。
次に見るのは、内側から外へ向きを戻した伝達——記者と関係を築くことのほうです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「社内に危機を知らせるには?」を、もっと深く学ぶ。→