IN COMMUNICATIONS & CRISIS · ISSUE 488
● 12 SEC「平時にコツコツ発信しておけば、信頼の貯金になる」。自分の店や仕事の発信を考えると、たいていこの言い方に出会います。けれど、この号が読んだ6本の研究が測ったのは、発信の量ではありませんでした。測られたのは、危機の前にすでにあった評判、業績の履歴、ブランドへの態度です。
では、その評判は危機のとき守りになったのか。答えは一つではありません。2つの研究では、良い評判は盾として働きました。ただし範囲は限られていました。米国の自動車のリコールでは、評判の高い会社ほど市場からの罰が重くなっていました。良い評判は、盾にも重荷にもなっていた。貯金という比喩の当たり外れを、研究の境界ごと見ていきます。
危機の前に世間が持っている評判を、事前評判と呼びます。良い事前評判が危機の痛手を和らげる働きはハロー効果(後光効果)と呼ばれ、危機対応の実務家はその価値を信じてきました。ところが2006年の論文は、研究者がその効果をなかなか作り出せずにきたと書き、2つの研究で試しています。
結果、ハロー効果は作り出せました。ただし、“The halo operated in a limited range for organizations with very favorable prior reputations.”(ハローが働いたのは、事前評判が非常に良い組織での、限られた範囲だった)。しかも働き方は、責任を軽く見てもらう大目に見る効果ではなく、評判の傷を遮る盾のほうでした。

盾がある一方で、評判の高さそのものが裏目に出た記録もあります。次の三つは、いずれも過去の記録を集めて分析した研究で、実験ではありません。結果は「結びついていた」の水準で読みます。この号が全文まで読めたのは6点のうち1点です。読めていないものについては書きません。
01米国の自動車では、評判の高い会社ほどリコール後の市場の罰が重かった。1975〜1999年の米国の自動車リコールの記録を分析した研究です(2006年)。“highly reputed firms suffer more market penalty”(評判の高い会社ほど、リコールで市場からの罰を多く受けた)。ただし同じ論文で、同じくらい評判の高い代わりが少ない会社と、専門に特化した会社では、市場の否定的な反応が和らいでいました。罰の中身と大きさは、読めた要旨に印字がありません。
02米国の大学では、卒業生の寄付では得に、卒業生以外の寄付では損になっていた。大学スポーツの重大な規則違反(1999〜2009年)のあと、大学への寄付額を分析した研究です(2016年)。指摘された規則の数が増えるほど、全米ランキング上位50校は他の大学に比べ、卒業生以外からの寄付が少なく、卒業生からの寄付は多くなっていました。ただし探索的な分析では、違反が重なると卒業生の寄付も減りはじめ、“the benefit of a high reputation has a limit”(高い評判の利点には上限がある)と著者は書いています。
03リコール後、会社の評判は負債に、新製品そのものの評判は資産になりうる。2018年の研究は、新製品のリコールをめぐり、会社の評判と製品の評判を分けて分析しました。リコールのあと、会社の良い評判はかえって負債になりえた一方、発売直後の製品では“the product reputation can therefore be an asset”(製品の評判は資産になりうる)。01と著者の一人が重なる別の研究です。市場の反応を何で測ったか、業種や国は読めた要旨に印字がありません。

ここから先は研究が示した結果ではなく、記録の単位を決めてみるためにALIFEが提案する読み筋です。平時の評判を貯金のように当てにしているとき、その様子は三つの形で表に出ます。
01「これだけやってきたのだから」と、大目に見てもらう前提でいる。ハロー効果の2研究(2006年)で良い評判が働いたのは、責任を軽く見てもらう形ではなく、傷を遮る形でした。一方、韓国の食品危機1件について16人に深く聞いた質的研究(2017年)では、良い業績の履歴が責任を軽く見させていました。親しみと信頼の一因に挙がったのは、長い操業の歴史と比較的大きな規模です。
02期待を上げる言葉が、中身より先に出ている。自動車リコールの研究(2006年)は、評判の高い製品ほど欠陥が品質への期待を裏切りやすい、という理論上の見方を検証し、罰が重いほうの結果を得ました。期待を上げた分だけ請求が膨らむ——これを「逆利子」と呼ぶのはALIFEの比喩で、研究の言葉ではありません。代わりが少ない・専門特化で和らぐ条件も、同じ論文にあります。
03危機のときの語り口だけで、取り返そうとしている。短文投稿サービスでの企業の危機対応を比べた2017年の実験では、“human voice had no impact overall”(人間味のある声は、全体としては評価に影響しなかった)。評価の出方を左右していたのは、危機の前からあったブランドへの態度でした。対応の型の効果も探られていますが、読めた要旨に結果の記述はありません。

測られたのは、米国の自動車会社のリコール(1975〜1999年)、米国の大学スポーツの違反と寄付(1999〜2009年)、韓国の食品危機1件をめぐる16人の語りです。2018年の研究は、業種や国が読めた要旨にありません。大学の研究の著者自身も、“stakeholders’ levels of organizational identification may be particularly strong in our context”(この文脈では関係者の同一化がとりわけ強いかもしれない)と限界を挙げています。
自動車の研究の「市場からの罰」が株価なのか売上なのか、読めた要旨からは確かめられませんでした。罰や寄付の大きさも書きません。韓国の事例で親しみと信頼の一因とされた長い歴史と大きな規模は、小さな商いとは逆の条件です。そして6本のどれも、平時の発信そのものの効果は測っていません。
非常に評判の良い組織で、
良い評判は盾になった。
範囲は、限られていた。
では、平時の発信は何を積むのか。この号の研究から言えるのは、発信の手前にある評判が危機のとき盾にも重荷にもなっていたこと、盾の範囲は限られ、評判の高い会社ほど罰が重かった記録もあることまでです。韓国の事例で責任を軽く見させたのも、発信ではなく業績の履歴でした。貯金の元本は発信より行動にある——というのが、この号の読み筋です。
TRY IT TODAY
- 01DATE
今日の日付を書き、自分の平時の発信(投稿・お知らせ・プロフィール・紹介文など)を、思い出せる範囲でいくつか書き出す。
- 02SORT
それぞれについて、その裏に実際の行動の裏づけがあるか、発信だけで行動がまだ伴っていないかを書き分ける。良し悪しの判定は付けない。
- 03COUNT
裏づけのある発信と発信だけのものの数を書き添え、裏づけが少なければ「発信を増やす前に、行動を増やす番」と一言メモする。
この号が運べたのは、三段です。良い評判は、非常に評判の良い組織の限られた範囲で盾になった。評判の高い会社ほどリコールで市場の罰が重く、ただし代わりが少ない・専門特化だと和らいだ。大学への寄付では、同じ高い評判が寄付者によって得にも損にもなり、その得にも上限がうかがえた。どれも、平時の発信を測った話ではありません。
次に見るのは、危機のとき外へ出す前に、内側へどう伝えるか——社内への知らせ方です。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「平時の発信で信頼を築くには?」を、もっと深く学ぶ。→