IN COMMUNICATIONS & CRISIS · ISSUE 486
● 12 SEC店の口コミや、投稿についた反応を眺めていると、世間はこう思っていると感じる瞬間があります。SNSの投稿を集めて、何が言われているかをつかむことをソーシャルリスニングと呼びます。では、そこに映っているのは誰の声か。研究が確かめてきたのは、映っている人の側でした。
2010年1月の米国の上院補欠選挙をめぐる短文投稿を調べた研究では、50回以上書いた574人の投稿量が、1回だけ書いた32,817人の分の倍を超えていました。見えている声の量と、人の数は同じではありません。この号は、この一つの選挙の数字を、世論一般の比率としては書きません。
ソーシャルリスニングが集められるのは、書かれた投稿です。その手前には、ふるいが二つあります。誰がそのサービスを使っているかと、使う人のうち誰がどれだけ書くか。そして使う人の顔ぶれは、年ごとに入れ替わります。

ここで扱う6本のうち5本は、2006〜2015年の短文投稿や利用者調査(米国・英国・スペインほか)を、1本は医師へのオンライン評価を対象にしています。政治の研究が3本、医療の研究が1本で、店や仕事の評判に当てはめるときは一般的な向きとして援用します。全文まで読めたのは6点のうち4点です。読めていないものについては書きません。
012009年までの米国の短文投稿の利用者は、人口の縮図ではなかった。2011年の研究は、2006年3月〜2009年8月に54,981,152人が書いた投稿の記録から、所在地が米国の300万人超(米国人口の1%超)を国勢調査と比べました。人口の多い郡ほど多く映り、性別にも偏りがありました。“a significant male bias exists, although the bias is becoming less pronounced over time”(男性への大きな偏りがあるが、時とともに弱まりつつある)。
02スペインと米国の選挙で、政治を書く利用者は男性・都市・極端な立場に寄っていた。2015年の研究は、2011年のスペイン総選挙と2012年の米国大統領選の期間の短文投稿を分析しました。政治について書く利用者は、男性で、都市に住み、思想の立場が極端な側に寄る傾向があった、と要旨は書いています。公式の要旨まで読めた研究で、政治の場面の話です。
03書かれた量の3割近くを、574人が書いていた。冒頭の補欠選挙の研究では、書いた56,165人・234,697件のうち、50回以上書いた574人が29.5%、1回だけの32,817人が14.0%を占めました。50回以上の群は、1回だけの群の2倍を超える量を書きながら、人数は57分の1だった、と著者は書いています。一つの政治イベントの事例です。

ここから先は研究が示した結果ではなく、記録の単位を決めてみるためにALIFEが提案する読み筋です。画面の声を世論と取り違えているとき、その様子は三つの形で表に出ます。
01反応の数を、賛否の票のように数えている。2010年の研究の著者は、よく書く少数と1回だけの多数では書く中身も違い、まとめて予測や結論に使うべきではない、と書いています。よく書く群は、用意された同じ文面を大勢で投稿する動きも見せていました。これも一つの選挙の事例です。
02評価の平均を、客全体の声と読んでいる。2015年の別の研究は、医師へのオンライン評価を、患者集団の評価と比べました。医師側の懸念とは対照的に、患者集団の評価が低い医師ほど、オンラインで評価されにくかった。“Although ratings provided online are positively correlated with patient population opinions, the online ratings tend to be exaggerated at the upper end of the quality spectrum”(正の相関はあるが、質の高い側で誇張されやすい)。医療の研究で、店の口コミへは向きとしての援用です。
03一度つかんだ像を、いまの像として使い続けている。2014年の研究は、2006〜2013年の370億件超の投稿から、利用者と使われ方の移り変わりを測りました。利用は世界へ広がり、迷惑な投稿が増え、パソコンから携帯へ移っていました。“it remains unclear whether prior results still hold”(以前の結果がいまも成り立つかは分からない)。2011年の研究と同じ研究者が加わり、2009年までは同じ収集データです。

ここにある数字は、2006〜2013年の短文投稿と、2015年の英国の調査のものです。政治の場面が3本、医師の評価が1本で、日本の小さな商いの口コミや反応にそのまま移せるかは、ここからは言えません。2011年の研究は、利用者が自ら公開した名前と所在地から性別や地域を推定しており、その精度にも限りがあります。
反対向きの材料もあります。2015年の英国選挙調査(無作為抽出の対面調査・回収率55.9%)を分析した2017年の研究では、SNSの利用者は若く学歴が高く、人口の縮図ではありませんでした。“After controlling for demographics, social media’s association with vote choice and political attitudes greatly declines”(人口構成をそろえると、投票先や政治的態度との結びつきは大きく弱まる)。ただし短文投稿サービスの利用者の政治への関心の高さは、そろえた後も残りました。
2010年の補欠選挙の投稿では、
多く書いた少数が、
量のうえで多数を上回っていた。
研究が確かめたのは、SNSが世論を映さないことではありません。使う人が偏ること、書く量が一部に偏ること、顔ぶれが移ること。そして医師の評価では、ずれを抱えながらも正の相関がありました。2017年の研究は、人口構成で重みづけをすれば世論の研究に使える余地がある、とも書いています。
TRY IT TODAY
- 01DATE
今日の日付を書き、自分の直近の投稿や、自分の店・仕事に付いた口コミを一つ選ぶ。他人のアカウントは対象にしない。
- 02COUNT
付いた反応(コメント・いいね・評価)の数と、表示されたおおよその数を、手元の記録から書き出す。分からない数は「不明」と書く。
- 03GAP
反応した人のなかに何度も反応している人がいるかを書き、反応しなかった人については「何も映っていない」と一言そえる。
この号が運べたのは、二段です。当時の短文投稿では、使う人も、たくさん書く人も、世の中の縮図ではなかった。そして英国の調査では、人口構成をそろえると政治的な差の多くが薄れた。画面の声からまず分かるのは、何が言われているかのほうです。
次に見るのは、危機に備える想定訓練です。演習のあとに何が伸びていたのかを、測られた中身からたどります。
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