IN COMMUNICATIONS & CRISIS · ISSUE 485
● 12 SEC「炎上は早く消せば広がらない」。そう教わることがあります。けれど、消す対応と広がり方を比べた研究は、この号が読めた範囲にはありませんでした。逆に「消そうとすると燃え広がる」という向きも、確かめた研究は見当たりません。見つからないことは、どちらかが間違いだという意味ではありません。
読めた研究が測っていたのは、火を消す手際ではなく、誰が、どう火に加わるのかでした。ドイツの請願サイトの書き込みを丸ごと調べた研究では、匿名を選んだ人より、実名を選んだ人のほうが攻撃的な言葉を使っていました。この号が運べるのは、その加わる側の姿までです。
炎上(online firestorm)は、ある発言やふるまいをきっかけに、否定的な書き込みが短い時間に大量に押し寄せる現象を指します。2014年の査読論文はこう書きます。“social media users can create huge waves of outrage within just a few hours”(利用者は、わずか数時間のうちに巨大な怒りの波をつくりうる)。
この論文は、最近の炎上の観察を束ね、社会科学と経済学の理論を当てて、広がりの土台になる要因を論じた概念論文です。新しいデータを取って確かめた研究ではありません。要因がいくつで、どの事例を扱ったかは、読めた要旨からは分かりません。

では、その波に加わるのは誰なのか。ここから先は、実際の書き込みや実験で測った研究です。場所はドイツの請願サイト、西欧の一国で行われたオンライン実験、中国の短文投稿サービスと、どれも日本の商いの外にあります。この号が全文まで読めたのは6点のうち2点です。読めていないものについては書きません。
01請願サイトでは、実名の人のほうが攻撃的だった。ドイツの請願サイトに2010〜2013年に寄せられた、1,612件の請願への532,197件の書き込みを丸ごと分析した観察研究です。攻撃性は罵りの言葉の数で測りました。“non-anonymous individuals are more aggressive compared to anonymous individuals”(実名の人は、匿名の人より攻撃的だった)。匿名を選んだのは書き込んだ人の29.2%で、残りは実名でした。
02参加者が多く見えると、加わる意欲は下がり、同調は進んだ。西欧の一国でソーシャルメディアを使う663人を条件に無作為に割り付けた、オンライン実験です。架空の炎上を見せ、それまでの参加者の数と、問題の道徳的な重さを変えました。“a higher number of participants decreases users’ willingness to participate but fosters compliance with the prevalent opinion and tonality of the comments”(参加者が多いほど加わる意欲は下がるが、多数派の意見と口調への同調は強まる)。
03権威ある発信源の投稿ほど、否定的な反応を呼んでいた。中国の短文投稿サービスの炎上を、大量の書き込みの記録で計算分析した研究です(読めたのは要旨まで)。否定的な投稿は反応を強め、否定的なコメントの積み重ねはかえって弱める向きでした。“Posts from authoritative sources (KOL, media, and corporation) tend to trigger more subsequent public engagement in n-WoM than posts from endorsement sources (ordinary users)”(有力者・報道・企業の投稿は、一般の利用者の投稿より否定的な口コミを呼びやすい)。

ここから先は研究が示した結果ではなく、記録の単位を決めてみるためにALIFEが提案する読み筋です。炎上を「早く消す火」とだけ見ているとき、その見立ては三つの形で表に出ます。
01匿名の暇つぶしだ、と決めている。請願サイトの研究は、書き込みの攻撃性を、社会の規範を破ったと見た相手への制裁として説明しました。実名のほうが制裁として信頼され、認められやすいから名を出す、という説明です。ただしこれは著者が理論として組み立てた筋で、一人ひとりの動機を尋ねたものではありません。
02書き込みの数だけを見ている。オンライン実験では、参加者の数を多く見せると加わる意欲は下がる一方、書かれたコメントは多数派の意見と口調に寄りました。中国の研究でも、否定的なコメントの積み重ねは反応を弱める向きでした。数が増えることと、口調がそろうことは、別々に動いていました。
03早く消せたかだけを振り返っている。短文投稿サービスでの会社がらみの炎上を複数の事例で調べた研究は、始まりの日に統計的に有意に変わる24の特徴量を特定し、早く気づく手がかりとしました。「早く気づけば対応がよく効く」は研究の出発点の前提で、確かめた結果ではありません。消すことと気づくことの比較もしていません。

実名と攻撃性の結果は、政治や公共の問題を扱うドイツの請願サイトでの観察です。著者自身、通販大手の自社ページでその会社を批判するような別の種類の場には、そのまま当てはまらないかもしれないと書いています。匿名といっても名前は運営者に届けており、数えた攻撃は露骨な罵りだけで、皮肉は含みません。
オンライン実験は架空の炎上を一つのサービス上で見せたもので、反対意見は含まれていませんでした。企業の対応を相手の感情の分析に合わせる枠組みは、6つの事例から組み立てた提案で、効果を比べた検証ではありません。日本の小さな商いの炎上で同じように働くかは、ここからは言えません。
ドイツの請願サイトでは、
実名を選んだ人のほうが
攻撃的な言葉を使っていた。
では、火を広げないには何が要るのか。オンライン実験の著者は考察で、素早く適切に応えることや、建設的な批判に応答で報いることが、悪循環を和らげるかもしれないと述べています。これは実験で確かめた結果ではなく、著者の見通しです。消すことが火を強めるという逆の向きも、読めた研究からは確かめられていません。
TRY IT TODAY
- 01DATE
今日の日付を書き、自分の発信(投稿・口コミへの返信・お知らせなど)で、批判や指摘を受けたことを一つ思い出して書く。
- 02REACTION
そのとき自分がどう反応したかを、「削除した」「黙った」「反論した」「受け止めて認めた」の四つのどれかに分けて書く。
- 03AFTER
その後どうなったかを「収まった」「広がった」「しこりが残った」のどれかで一言そえる。どの反応がどの結果を招いたかは、一件の記録からは決めない。
この号が運べたのは、加わる側の姿までです。ドイツの請願サイトでは実名の人のほうが攻撃的で、西欧の一国のオンライン実験では参加者が多く見えるほど加わる意欲は下がり、口調は多数派に寄った。早く消せば収まるのか、消すと燃え広がるのか——そのどちらも、読めた研究は比べていません。
この群は、ここから炎上の手前へ戻ります。次に見るのは、火の手に早く気づくための耳——評判の声を拾い続ける仕組みのほうです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「炎上の火を広げないには?」を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 観察研究・前向き研究
- 介入せずに経過を追いかける研究。「関連がある」までは言えますが、「それが原因だ」とは言い切れません。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。
