IN COMMUNICATIONS & CRISIS · ISSUE 484
● 12 SEC「メディアトレーニングを受けておけば、本番に強くなれる」。取材や会見への備えは、よくこの見込みで語られます。けれども、企業の危機対応で話し手を務める人について、訓練そのものが本番の成果を上げたかを測った査読研究は、この号が調べた文献データベースの範囲では見当たりませんでした。
では、訓練が磨こうとする伝え方の中身については、何が分かっているのか。ベルギーの研究チームの2つの実験では、危機のさなかには力強い身ぶりが、収まった後には控えめな身ぶりが、組織の評判を助けていました。「作り込みすぎると逆効果」という言い方は、実務の直感としてはあり得ても、この号が読めた出典では確かめられていません。
ここでいうメディアトレーニングは、取材や会見で組織を代表して話す人が、想定問答や話し方を前もって練習しておく訓練のことです。研究が扱ってきたのは、訓練の有無ではなく、その中身にあたる話し手の非言語——声の高さ、視線、姿勢——が、受け手の見方をどう変えるかでした。多くは、架空の場面を見せて反応を比べる実験です。

では、伝え方の側では何が報告されていたのか。この号で扱う実験の多くはベルギーとオランダの研究チームによるもので(企業間取引の1本は米国)、参加者の国や属性が印字されているのは一部だけです。この号が全文まで読めたのは6点のうち2点です。読めていないものについては書きません。
01危機のさなかと後では、効く身ぶりが入れ替わった。2014年の研究は2つの実験で話し手の非言語を比べました。1つ目では、声を低めた話し手のほうが有能に見られました。2つ目では“During a crisis, powerful nonverbal behaviors minimize reputational damage”(危機のさなかは、力強い非言語が評判の傷を小さくした)。一方、収まった後には、控えめな非言語が誠実さを通じて組織の評判を上げていました。参加者数と効果の大きさは、読めた要旨にありません。
02謝罪の有無は、話し手の信頼も評判も動かさなかった。2012年の短報は、架空の病院の事故報道を84名に見せた2×2の実験です。院長が謝るか後悔を示すだけかは、組織と話し手の信頼・評判のどれも有意に動かしませんでした(話し手の信頼 p=.527・評判 p=.420。p値は偶然でも起こりうる度合いの目安)。防げた事故と見られると組織の信頼と評判が下がり、話し手の信頼も下がりました(p=.016)が、話し手の評判は有意傾向(p=.081)止まりでした。
03見た目の手がかりが、声の手がかりより強く働いた。2018年の研究は、ベルギーのオランダ語話者を募った2つのオンライン実験(125名・126名)で、架空の企業の経営者の静止画3枚と音声を見せました。視線をそらす・姿勢を変える・体に触れるといった欺瞞の手がかりは、組織への態度(実験1)と購買意向(実験2)を下げました。“the impact of visual cues dominates the outcomes of vocal cues”(視覚の手がかりの影響が、音声の手がかりを上回った)。

ここから先は研究が示した結果ではなく、手元の情報を仕分けるためにALIFEが提案する読み筋です。この号が出典を読み直すなかで、備えの話と元の研究とのあいだに、三つの形のずれが見つかりました。
01数えた研究が、効いた研究として語られる。2017年の研究は、危機のさなかに組織や個人が出した会見などの映像160件を内容分析し、視線をそらす・言い誤るといった欺瞞の手がかりとされる非言語が、どれだけ現れるかを数えました。“their occurrence depends on the crisis type, the source, and the crisis communication format”(その出現は、危機の種類・話し手・伝え方の形式で変わる)。受け手が不信を抱いたかどうかは測っていません。
02危機ではない場面の結果が、持ち込まれる。2013年の研究は、企業間取引の広報で、会社の幹部の発言を引くか、顧客の証言を引くかを比べた2×7の実験です(514名)。“a customer is considered more trustworthy than a company spokesperson”(顧客のほうが、会社の話し手より信頼できると見なされた)。危機の場面ではなく、話し手の伝え方を磨いた結果でもありません。
03条件つきの結果から、条件が落ちる。2017年の別の研究(実験)は、話し手と受け手の性別が近いと、話し手への共感を通じて組織の評判がよくなったと報告しています。ただし見られたのは、防げた危機で非を認めて立て直す対応を取ったときで、否認の対応では見られませんでした。人数と効果の大きさは、読めた要旨にありません。

一つ目は、訓練そのものの効き目です。この号が調べた範囲では、企業の危機対応の話し手について、訓練を受けた人と受けない人の本番の成果を比べた査読研究は見当たりませんでした。医療者の模擬取材訓練を前後で比べた研究は見つかっていますが、分野も成果の測り方も違うため、ここには含めていません。
二つ目は、「作り込みすぎると逆効果」という見込みです。全文まで読めた2点にも、要旨まで読めた4点の要旨にも、作り込みの度合いと受け手の不信を結びつけた結果はありません。近いのは、収まった後は控えめな身ぶりが誠実さとして読まれた、という2014年の結果だけです。実験の多くは欧州の研究チームによる架空の場面で、日本の小さな商いの取材対応に同じように当てはまるかは、ここからは言えません。
実験で効いた身ぶりは、
危機の段階で入れ替わった。
責任の受け止め方にも向きがありました。2012年の短報は、結果を“the crisis is seen as a collective responsibility of the organization, rather than the personal responsibility of the spokesperson”(危機は話し手個人ではなく、組織の集合的な責任と見なされた)とまとめています。著者自身、架空の組織を使った限られた設定の結果だとして、一般化には慎重さを求めています。
TRY IT TODAY
- 01DATE
今日の日付を書き、自分の商いや仕事について人から聞かれそうな質問を、思いつくだけ書き出す。聞かれてうれしい質問・答えにくい質問・できれば避けたい質問が混ざってよい。
- 02MARK
答えにくい・避けたいと感じる質問に印をつける。印のついたものから一つ選び、今の自分ならどう答えるかを一言だけ書き、答えにくい理由(不利な事実がある・まだ分からない・言いたくない、など)を添える。
- 03NAME
印のついた質問の多くに共通している「答えにくさの正体」を、自分の言葉で一行にまとめて、記録の最後に書く。
この号が運べたのは、二段だけです。企業の危機対応では、訓練そのものの効き目はまだ測られていない。そして伝え方の実験が示したのは、一つの正解の構えではなく、危機のさなかと収まった後で効く身ぶりが入れ替わる、という両刃の結果でした。
この群は、初動、謝罪、調査中の一報と進み、今回は取材への備えを見てきました。次に見るのは、いくら備えても防ぎきれない場面——ネットの上で批判が一気に燃え広がるとき、のほうです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「メディア対応に備えるには?」を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。
- p値
- 差がないと仮定したとき、偶然でこの結果以上が出る確率の目安。小さいほど偶然では説明しにくいことを表しますが、効果の大きさは表しません。

