IN COMMUNICATIONS & CRISIS · ISSUE 483
● 12 SEC「ただいま調査中です」。悪い出来事が起きた直後、まず口にしたくなる一言です。では、結論が出る前に、何を語り、何を控えるのか。危機のコミュニケーションの研究は、結論の前に出せる情報を二つに分けて扱ってきました。
架空の危機を読ませた2つの実験で見えたのは、その情報も中身しだいだということでした。身を守る方法を伝える情報で危険を強く打ち出すと、組織は責任を重く見られ、評判は傷つきました。一方、ケアの情報のうち、頼れる相手が対処してくれると感じさせるものは評判を守りました。ただし、その効果は責任の見方を経由していませんでした。
ホールディングステートメントとは、危機の直後に出す暫定の公式コメントです。研究は結論の前に出す情報を基礎対応と呼び、二つに分けます。身を守るためにいま何をすればよいかを伝える指示情報と、被害を受けた人へのケアや気遣いを伝える調整情報です。2020年の尺度開発の研究は、広報の専門家18名への面接と、オンラインで募った286名の実験から、この二つの質を測る尺度をつくりました。

その尺度は信頼でき、初回の検証では危機のあとの評判の変化を予測した、と報告されています。では、出せば守れるのか。2020年のもう一本の研究は、それを問いの形で確かめ、答えは条件つきでした。2016年の質問紙の研究(454名)は、危機の種類と年齢によって、使う媒体と、勧められた行動に従う意図との結びつきが変わると報告しています。この号が全文まで読めたのは6点のうち0点です。読めていないものについては書きません。
01危険を強く打ち出すと、責任を重く見られた。2020年の研究1は、指示情報の脅威の強弱・自分で対処できる感覚(自己効力感)の強弱・ケアの情報の強弱を掛け合わせた2×2×2の実験です。架空の袋入りサラダの汚染を報じる模擬記事を使いました。“the high threat message significantly increased the attribution of crisis responsibility and further harmed organizational reputation”(強い脅威のメッセージは責任の帰属を有意に強め、組織の評判をさらに傷つけた)。効果の大きさは要旨に印字がありません。
02ケアの情報は代理効力感を通じて評判を守った。同じ研究1で、ケアの情報のうち、頼れる相手が対処してくれるという感覚(代理効力感)を強めたものは、評判を直接守りました。責任の見方を介した効果ではありません。自己効力感を強める指示情報は、責任の見方にも評判にも影響が観察されませんでした。別の危機を使った研究2でも、研究1の結論はおおむね支持されています。
03実験室の実験では、図にすると効力感と信頼が上がった。2023年の研究は、伝える手段(メールかアプリか)と見せ方(文字だけか図解か)を掛け合わせた2×2の実験室実験です。図解は、二つの効力感と組織への信頼を高めました。双方向の手段かどうかは、図解かどうかとの組み合わせ(交互作用)として、従う意図への影響が観察されています。

ここから先は研究が示した結果ではなく、記録の単位を決めてみるためにALIFEが提案する読み筋です。結論の前の一言が止まっているとき、その様子は三つの形で表に出ます。
01結論が出るまで、身を守る情報も止めている。2020年の尺度開発の研究は、指示情報と調整情報を、危機のさなかと直後に出す情報として扱っています。止めているのか、中身を選んでいるのか。先に見たとおり、出し方しだいで逆向きの結果も出ています。まず、どちらなのかを記録の上で分けておく印です。
02目先の損を避ける一言を、選んでいる。2020年(オンライン公開は2019年)の理論論文は、行動経済学の考え方から、危機の組織が最善の対応を選びそこなう理由を論じました。“preferring strategies that avoid short-term losses over the ones that offer long-term gains”(長期の利得をもたらす対応より、目先の損失を避ける対応を好む)。時間の圧力と情報の多さが直感的な判断を招き、思い込みの近道に引っぱられる、という枠組みで、実証の結果ではありません。
03一つの事例では、報道の詳報の前に憶測が枠をつくっていた。2011年のオランダの化学工場の爆発を扱った単一事例の研究は、短文投稿サービスの投稿と報道を自動の内容分析で比べました。投稿は初日の26,496件が山でした。“The public based its crisis frames on personal speculations (terrorist attack) prior to extended news media coverage”(報道が詳しく伝える前、人々は個人的な憶測〈テロ〉で危機を枠づけた)。情報を出す側として調べられたのは報道で、組織の沈黙は測られていません。

数えられたのは、架空の危機を読ませた実験での責任の見方と評判、質問紙で尋ねた従う意図、そして一つの爆発事故をめぐる投稿です。2023年の研究は実験室実験、2020年の尺度開発はオンラインで募った回答者でした。国や業種、組織の規模は、読めた要旨の範囲では限られています。日本の小さな商いで同じ向きが出るかどうかは、ここからは言えません。
数値が印字されていない出典もあります。2020年と2023年の実験の効果の大きさ、爆発事故の研究で分析された報道記事の数は、読めた範囲に出てきません。理論論文の全文も読めていないため、要旨に無い「組織内の力学」のような説明は、この号では使いません。
実験では、危険を強く伝えた側が、
責任を重く見られた。
「調査中で守れる」という見込みも、「出せば守れる」という見込みも、読めた範囲には裏づけが見当たりませんでした。残っていたのは、身を守る情報とケアの情報を分けて考えること、そしてその中身——脅威の強さ、頼れる相手の感覚、見せ方——で結果が割れたという報告です。ただし、そう測られたのは架空の危機を読ませた実験での話です。
TRY IT TODAY
- 01DATE
今日の日付を書き、自分の商いや仕事で起こりうる困りごとを一つ思い浮かべる。それが今まさに起きたと想像する。
- 02SPLIT
今わかっている確かな事実・被害を受ける人へ今できるケア(相談の窓口や身を守る方法)・まだ分からずこれから確かめること、の三つの欄に書き分ける。
- 03MARK
「調査中です」の一言で全部を済ませていないかを点検し、三つの欄のうちいちばん書きにくかった欄に印をつけて、記録の最後に添える。
この号が運べたのは、二段だけです。結論の前に出す情報は、身を守る方法とケアの二つに分けて扱われてきた。そして架空の危機を読ませた実験では、危険を強く伝えた指示情報のもとで組織は責任を重く見られ、ケアの情報は責任の見方を経由せずに評判を守っていた。
この群は、危機の初動、謝罪とたどってきました。次に見るのは、語る人の側——メディアの前に立つ備えを、事前にどこまで整えておくか、のほうです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「何を語り何を守るか決めるには?」を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

