IN LEGAL NEGOTIATION · ISSUE 478
● 12 SEC「上司が裁けば収まる」。社内でもめ事が起きたら、上に立つ人が結論を出して命じればいい。そう教わります。けれど、命じられて訪れた静けさが、納得の静けさと同じだとは限りません。
第三者としてどう関わるかで当事者の受け止めは変わる——そう報告した研究はあります。ただし、そこで第三者を演じていたのは経営学の学生で、場は模擬の対立でした。この号は、どちらの役割を選べば収まるかは書きません。書けるのは、何がどこまで測られているか、です。
第三者介入(third-party intervention)とは、当事者以外の誰かがもめ事に関わることです。関わり方は大きく二つ。自分で結論を出して命じる裁定と、当事者が自分たちで折り合うのを助ける調停です。
1989年の研究は、管理職の第三者介入の類型を先行研究から引いたうえで、その類型と突き合わせたのは“management students playing third parties in dispute-resolution simulations”(対立解決の模擬で第三者役を演じる経営学の学生)のふるまいでした。それを、手続きの公正さと分け方の公正さの標準的な尺度に照らして評価しています。

この号が全文まで読めたのは、6点のうち1点です。読めていないものについては書きません。もう一つ前置きを。ここで引く6点のうち2点は、実証のデータを持たない理論の論文です。理論は「こう考えられる」という筋道であって、「こうなった」という記録ではありません。
01公正さを測った席は、模擬の場だった。1989年の研究が調べたのは、第三者のふるまいと、到達した解決の型と、公正さの知覚の関係です。第三者のふるまいと公正さの受け止めを結びつけた最初の研究だ、と要旨は書いています。ただし、その行動を尺度に載せたのは経営学の学生が演じた模擬の場であり、実務の管理職を追った調査ではありません。どの役割でどれだけ変わったかという値は、読めた要旨に印字がありません。
02条件に合う型を選ぶと、成功の見込みは上がった。1995年に出た、管理職が対立にどう介入すべきかを選ぶ処方の枠組みは理論です。それを検証した1998年の研究は、“senior managers in different organizations”(さまざまな組織の上級管理者)から、うまくいった介入とうまくいかなかった介入のデータを集めました。処方に従うと介入が成功する見込みが有意に高まり、成功の度合いも上がった、と報告されています。割合も効果の大きさも、読めた要旨にはありません。
03順序の議論には、両側があった。2000年に出た理論の論文は、調停と裁定を組み合わせる二つの順序を対比しました。先に話し合わせ、決まらなければ裁く順は、費用と時間が少なく、公正の判断を高め、裁定への遵守を高めうる。いっぽう著者は、先に裁定を下して封をしてから調停に移す逆の順序にこそ最大の利があり、当事者が自分たちで相違に決着をつけるよう促す、とも論じています。

ここから先は研究が示した結果ではなく、記録の単位を決めてみるためにALIFEが提案する読み筋です。裁いたあとに残りやすい形を、三つ挙げます。
01結論だけが、伝えられている。決まったことは伝わっているのに、それがどんな手順で決まったのかは伝わっていない。1989年の研究が尺度に載せたのは、分け方の公正さだけでなく、手続きの公正さのほうでもありました。ただしその尺度が当てられたのは、模擬の場です。あなたの職場で同じ関係が出るかどうかは、ここからは言えません。
02自分がどちらと近いかを、数えていない。第三者が中立に見えるかどうかを決めるのは、当事者の側です。小さな組織では、片方と長く働いていたり、片方が身内だったりします。中立性そのものの効き目を測った研究は、この号が読めた範囲にはありません。ここで書けるのは、自分の立ち位置を記録の項目に入れておく、というところまでです。
03効き目の話が、導入の話にすり替わる。職場での調停は、米国・欧州・アジアの多く・オーストラリアで頻繁な実務になった、と2013年の総説は書いています。同じ総説が続けて書いているのは、その効果を実証的に検証した研究が少ない、ということでした。頻繁に行われていることと、効くと測られていることは、別です。

この号が引いた6点のうち、実証のデータを持つのは2点だけです。役割の別と公正さの知覚を結んだ1989年の研究は模擬の場で、上級管理者の実データを扱ったのは1998年の検証のほうでした。残りは理論が2点、既存の文献を見渡したレビューが2点です。
そのレビューの1点が見渡したのは、米国の雇用をめぐる争いの制度でした。そこでは仲裁より調停のほうが公正と受け取られ、満足と解決の割合が高いと結論され、仲裁がその効率を生むという証拠は今のところ無い、とも書かれています。ただしこれは米国の制度の話で、上司が社内で裁く場面とは層が違います。この号は、その層を跨いだ効き目の話は書きません。
行われている量と、
測られている量は、違った。
2013年に出た総説は、職場での調停の文献を見渡したうえで、こう書いています。“empirical studies examining the effectiveness of workplace mediation have been few”(職場での調停の効果を検証した実証研究は、ごくわずかだった)。
どの条件なら効くのかを調べた研究も限られ、観察に基づく研究も少ない。だからこの領域は未開拓の研究領域だ、と総説自身が結んでいます。裁けば収まるも、話し合わせれば解決するも、確かな実証に支えられているわけではありません。
TRY IT TODAY
- 01DATE
今日の日付を書き、自分が第三者として関わった、または関わりそうな対立を一つだけ書き出す。
- 02WRITE
その一件について、自分がとった(とろうとしている)のは決めて命じる側か話し合いを助ける側か・その対立は急ぐ話か納得のほうが重い話か・事実の食い違いか価値観の対立か、の三つを自分の言葉で書く。
- 03MARK
自分がその対立で中立でいられるかを「いられる/わからない/いられない」の三つから選んで印をつけ、記録の最後に書き添える。
この号が運べたのは、二段だけです。第三者の役割の別は、当事者が感じる公正さと結びつけて測られたことがある——ただし、経営学の学生が演じた模擬の場で。そして、条件に合った型を選ぶと介入の成功の見込みが上がった、という記録が、上級管理者のデータで一つある。
順序の議論には両側があり、効き目そのものは、行われている量に比べてまだ測りが少ない。次に見るのは、その手前にある線のほう——掛け合いのなかで、どこまでが駆け引きで、どこからが偽りになるのか、という話です。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「社内の対立を仲裁するには?」を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。