IN LEGAL NEGOTIATION · ISSUE 472

(仮ビジュアル)暗い室内の黒い壁ぎわに立ち、窓ガラスに自分の後ろ姿が映りこんでいる、黒いニットの女性● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

沈黙は武器だ。交渉の心得として、そう教わることがあります。黙っていれば相手が耐えかねて折れる——間を、相手を追い込む道具として渡す言い方です。

大学で募った124名が、二人一組で採用条件を模擬交渉した録音を、秒単位で数えた研究があります。3秒以上の沈黙が多かった組ほど、双方の得の合計は大きくなっていました。いっぽう自分の取り分の割合との関連は、見つかっていません。この号は、黙らせ方の手順を書きません。

この研究が長い沈黙と呼ぶのは、“lasting for at least 3 seconds”(少なくとも3秒続く)間のことです。どちらかが黙っている時間ではなく、二人とも黙っている時間を数えます。沈黙は片方の技ではなく、組に属する量として扱われました。

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗いガラスに自分の姿を映しながら街の明かりのほうを見ている、黒いスーツの女性
黙っていた秒数を、どちらの側でもなく二人ぶんとして数える。3秒が、その線だった。 Visual: ALIFE

自然に生じた沈黙を数えた第1研究は相関——並んで動いていたという関係であって、沈黙が合計を押し上げたという証明ではありません。原因の側は、黙るよう指示して割り振った第2研究のほうが担っています。全文まで読めたのは6点のうち2点。読めていないものについては書きません。

013秒以上の間が多い組ほど、合計は大きかった。大学で募った124名が二人一組で採用条件を模擬交渉した録音を、秒単位で数えた第1研究です。3秒以上の沈黙の頻度と、双方の得の合計を増やす行動・結果との相関は r(53)=.32——rは0なら関連なし、1に近いほど強い関連を表す指標で、ここは中くらいの手前あたりです(p=.018、95%信頼区間 .06〜.54)。

02黙るよう指示した実験でも、合計は増えた。第2研究は、同じ模擬交渉で役を無作為に割り当て、片方または双方に長い沈黙を使うよう指示しました。指示された組のほうが、双方の得の合計を大きくしました。続く二つの研究が示したのは熟慮の構え——パイは決まった大きさだという既定の思い込みが途切れ、じっくり考える構えが強まる、という筋道です。第4研究では、黙るよう促すほうが問題解決を促すより合計を大きくしていました。

03地位差が目立つ場では、効き方が分かれた。第3研究は境界条件を示しています。“the use of silence by higher-status parties leads to value creation, whereas the use of silence by lower-status parties does not”(地位の高い側の沈黙は価値の創造につながるが、低い側の沈黙はそうならない)。加えて、自分の取り分の割合とも、相手が感じた満足とも、関連は見つかっていません。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆の3本の脚が支えているコンソールテーブル
相関・指示した実験・地位差。沈黙について測られていたのは、この三つの側だった。 Visual: ALIFE

もう一方の武器とされるのが、時間です。ここから先は研究が命じた手順ではなく、自分の記録を分けてみるためにALIFEが提案する読み筋です。手がかりは、急ぎの向き・まとまりやすさ・伏せているものの三つに出ます。

01急ぎが害になるのは、取り分だけを見ているとき。1986年の研究は、交渉できる持ち時間の長さで時間圧力を操作しました。“high time pressure produced nonagreements and poor negotiation outcomes only when negotiators adopted an individualistic orientation”(強い時間圧力が不成立と悪い成果を生んだのは、個人主義的な志向を取ったときだけだった)。協調的な志向を取った組は、時間圧力があっても高い成果を上げています。

02まとまりやすさと、中身の良さは別だった。複数の研究を束ねた1998年のまとめは、強い時間圧力のほうが譲歩と協調を増やし、合意そのものも成立しやすくする、と報告しています。効き方は締切の近さ・交渉の単純さ・相手の硬さで変わる、とも。いっぽう2003年の二つの研究では、時間圧力が強いとパイは決まった大きさだという思い込みを交渉中に改めにくくなり、双方の得を増やす合意に届きにくくなっていました。

03伏せた締切について、予測のほうが外れていた。2004年の三つの研究は、交渉者が時間圧力の効きをどう予測するかを、実際の結果と比べました。最終期限を明かすと相手の譲歩が早まり、期限を抱えた側の成果はむしろ良くなる。ところが経験のある人もない人も一貫して逆を予測し、明かす選択肢を与えられると明かさなかった、と報告されています。この論文が扱うのは最終期限だけです。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
急ぎの向き・まとまりやすさ・伏せた締切。時間の話は、この三つの形で分かれていた。 Visual: ALIFE

メタ分析を除けば、用意された課題を演じる模擬の交渉です。相手は初対面で、その場かぎりで、続く関係も評判もありません。時間圧力も、持ち時間の長さとして外から与えられました。日本の取引先との値決めや、身内との揉めごとで同じように働くかどうかは、ここからは言えません。

この号は、沈黙をめぐるもう一本を、別の行に置きました。他人同士の会話の映像に4秒の無音を差し込み、それを見た人の受け入れられている感覚を測った実験です。読んだ全文に、交渉を指す語は一つもありませんでした。会話が途切れると居心地が悪くなる、という周辺の知見であって、戦術の根拠にはなりません。

黙っていた時間は、
二人ぶんの時間だった。

間を相手を追い込む道具と読むなら、効き目は取り分の側に出るはずです。けれど四つの研究を通して、取り分の割合と結びついた形跡は報告されていません。結びついていたのは、二人が別の組み合わせを思いつく余地のほうでした——読めた範囲では、そうでした。

TRY IT TODAY

  1. 01DATE

    今日の日付を書き、自分の過去の交渉やもめ事を三つまで書き出す。

  2. 02WRITE

    それぞれについて、黙っている時間と締切が自分にどう働いたかを、思い出せる範囲で一行ずつ書く。

  3. 03COUNT

    書いた場面の数と、そのうち「間に押されて決めた」と自分で思うものの数を、記録の最後に書き添える。

10分。相手を沈黙で試したり、締切で追い込んだりする作業ではありません。相手を観察・分析せず、点検するのは自分の記録だけです。これは研究結果そのものではなく、記録の単位を決めてみるためにALIFEが提案する実践入口です。契約や法的な判断が要るときは、弁護士・司法書士・認証を受けた紛争解決の窓口などの専門家へ。

この号が運べたのは、二段だけです。3秒以上の間が多い交渉ほど、双方の得の合計は大きかった。そして急ぎの害は、自分の取り分だけを見ていた組で出ていた。どちらも、用意された課題を演じる模擬の交渉での話です。

この群は、準備から合意へ向けて順に絞っていきます。次に見るのは、口にした言葉が後から自分を縛る場面——どこまでを言質として扱うか、という話です。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「沈黙と時間を武器にするには?」を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

95%信頼区間
推定値の「ばらつきを見込んだ幅」。同じ研究を何度もやり直したら、結果の多くがこの幅に収まると期待できます。幅が0(差なし)をまたぐときは、明確な差とは言い切れません。
メタ分析
同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
p値
差がないと仮定したとき、偶然でこの結果以上が出る確率の目安。小さいほど偶然では説明しにくいことを表しますが、効果の大きさは表しません。

Next in legal negotiation

VIEW ALL
ISSUE 471怒りは、脅しとして届いていた。ISSUE 473同じ資料を読んで、公正な額は割れた。
ALIFE · ISSUE 472

本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。