IN LEGAL NEGOTIATION · ISSUE 471

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「強硬には、毅然と返せばいい」。高圧的な要求、脅し文句、一歩も引かない態度。そういう相手には同じ強さで押し返す——たいてい、そう教わります。

けれど、読めた要旨の範囲で測られていたのは、押し返した側の成果ではありませんでした。目盛りは、押された側で起きることのほうに置かれています。しかも読めた5点のうち2点は、相手役を計算機が演じる模擬の交渉です。全文まで読めたのは6点のうち0点。読めていないことと、脅しの使い方は書きません。

強硬戦術(hardball tactics)とは、高圧的な要求や脅し文句で押してくるやり方の総称です。1995年に出た実験は、参加者に強・中・弱の強制力を割り当て、相手にも別の強さを与えて計算機越しに交渉させました。相手は実は計算機の模擬で、脅しか約束のどちらかを送ってきます。報告されたのは、相手の強制力が高いほど、こちらの要求水準はより下がった——“but only when the opponent sent threats instead of promises”(ただし、相手が約束ではなく脅しを送ってきたときだけ)、という向きでした。

(仮ビジュアル)暗い室内の黒い壁ぎわに立ち、窓ガラスに自分の後ろ姿が映りこんでいる、黒いニットの女性
目盛りは、押し返した側ではなく、押された側に置かれていた。 Visual: ALIFE

同じ実験は、もう一方の側も測っています。自分の強制力が高いほど脅しを送る回数は増えましたが、自分の要求水準は動きませんでした。力が均衡しているときのほうが、どちらかに偏っているときより脅しは少なく、要求はより下がっています。押し返したときに相手が引くかどうかは、相手役が計算機である以上、この設計からは出てきません。

01相手が怒っているとき、弱い側ほど譲っていた。2006年の報告は、実験1本・現場を模した模擬1本・筋書きを読ませる調査3本を重ね、学生・一般の人・管理職という別々の集団に当たっています。報告された向きは“conceding more to an angry opponent than to a happy one”(怒っている相手には、喜んでいる相手より多く譲る)。ただしそれは立場の弱い側で、強い立場の側は動かされませんでした。譲歩の量は、読めた要旨に印字がありません。

02怒りは、脅しだと受け取られていた。2011年の報告は、計算機を介した模擬の交渉を三つ行い、参加者に怒りか脅しのメッセージを送りました(送り手も模擬です)。ひとつ目では、怒りが譲歩に効く道筋は「脅しだと受け取られた度合い」を通っていました。ふたつ目では脅しのほうが怒りより多くの譲歩を引き出し、みっつ目では受け手に良い代替案があるときも同じ向きが再現されています。

03応酬が多いほど、分け前は偏っていた。1998年の報告は、対立の連鎖を断つ三つの進め方を検証し、あわせて成果と応酬の頻度の関係を調べました。極端に偏った分け前は、やり返された対立的なやりとりの相対的な頻度と結びついていた。断てば成果が上がる、という形では書かれていません。三つの中身と効きの大きさは、読めた要旨に印字がありません。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆の3本の脚が支えているコンソールテーブル
弱い側の譲歩、脅しとして届く怒り、応酬と偏り。要旨から取り出した三つ。 Visual: ALIFE

ここから先は研究が示した結果ではなく、記録の単位を決めてみるためにALIFEが提案する読み筋です。手がかりは、返し方の中身より、やりとりの数え方のほうに出ます。

01同じ語気が、往復し始めている。1998年の報告が極端な分け前と結びつけたのは、強さの絶対量ではなく、やり返しの相対的な多さでした。“conflict spirals can be stopped by various communication strategies”(対立の連鎖は、さまざまな伝え方で止められる)とも書かれています。同じ語気が何往復したかは、その場でも数えられます。

02脅せる手が、卓上に置かれている。1969年のゲーム実験が操作したのは、脅す行為そのものではなく、脅す手段が使える状態にあることでした。“the availability of threat reduces bargaining efficiency”(脅しが使えることが、交渉の効率を下げる)。取り分の合計という指標での話で、目の前の話し合いの何が痩せるかまでは言えません。

03力の差が、読み違えられている。1995年の実験では、自分の強制力が上がると脅しの回数は増えましたが、自分の要求水準は動きませんでした。力が均衡していたときのほうが、偏っていたときより脅しは少なく、要求は下がっています。強いほうが得をした、という単純な形では報告されていません。

(仮ビジュアル)石造りの建物の広い階段を、黒いロングコートに白いワイドパンツの女性がひとりで下りてくる写真
往復する語気、卓上に置かれた手、読み違えられる力の差。連鎖はこの三つの形で残る。 Visual: ALIFE

要旨まで読めた5点のうち2点は、相手役を計算機が演じる模擬の交渉です。送られてくる怒りも脅しも、あらかじめ用意された文面でした。1969年の報告は取り分の合計を測るゲーム、1998年の報告は交渉での対立のやりとりが対象です。日本の小さな商いで、目の前にいる相手に同じことが起きるかどうかは、ここからは言えません。

そして、いちばん書けないのは返し方の効き目です。1998年の報告は連鎖を止める三つの進め方を検証していますが、その中身も効きの大きさも、読めた要旨には印字がありません。同じ強さで返したときに相手が引くかどうかも、相手役が計算機である設計からは出てきません。強く出れば通る場面があるという報告を、強く出て押し切れという手順には変えません。

強さを測る目盛りは、
押された側に付いていた。

反応と応答は、別のもの。この号の第二階層は、1991年に出た一般向けの一冊——副題は“negotiating with difficult people”(難しい相手との交渉)——を、その構えの由緒として挙げています。研究ではなく実務の助言をまとめた本で、その言い分を、ここまで並べた報告が確かめているわけではありません。

TRY IT TODAY

  1. 01DATE

    今日の日付を書き、強い言葉や圧力を受けた場面をひとつだけ思い出して書き出す。

  2. 02SORT

    そのとき自分がどう返したかを、同じ強さで返した・引いて譲った・別の角度に話を変えた、の三つから選び、その結果どうなったか(こじれた・収まった・後を引いた)を一言添える。

  3. 03COUNT

    思い出した場面の数と、そのうち「同じ強さで返してこじれた」ものの数を、記録の最後に書き添える。

10分。相手を分析したり、これから誰かに強く出て試したりする作業ではありません。点検するのは自分の過去の記録だけです。これは研究結果そのものではなく、記録の単位を決めてみるためにALIFEが提案する実践入口です。契約や法的な判断が要るときは、弁護士・司法書士・認証を受けた紛争解決の窓口などの専門家へ。

この号が運べたのは、二段だけです。強硬さをめぐって測られてきたのは、押し返した側の成果ではなく、押された側で起きること。そしてその場面のうち二つは、相手役を計算機が演じる模擬の交渉でした。

次に見るのは、強く押すのとは逆の道具です。言葉を足さずに置く間と、決着を急がせる時間——卓の上で何も言わないことが何をするか、という話に移ります。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「強硬な相手に譲らないには?」を、もっと深く学ぶ。→

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。