IN LEGAL NEGOTIATION · ISSUE 469
● 12 SEC「パイは広げられる」。交渉の話は、よくここから始まります。取り分を奪い合うのではなく、双方の得を増やす——だから必ずwin-winにできる、と続きます。前半と後半は、別の話です。
広げる手つきそのものは、たしかに調べられてきました。ただ、読めた報告が言っていたのは「やわらかく構えれば広がる」ではありません。いちばん良い結果へ行く道は二本あり、自分の取り分を見ている二人組にも、別の道が残されていました。
統合型交渉(integrative negotiation)とは、一つの数字を奪い合うのではなく、複数の争点をまとめて扱い、双方の得を増やそうとする進め方です。その代表がログロール(logroll)。価格・納期・量・支払い条件などを束ね、自分にとって優先順位の低い争点を譲り、高い争点を取る。優先順位に差がなければ、束ねても広がりません。

この二つを並べた一本に、1970年に出た短い報告があります。題は“Compromise and logroll: Comparing the efficiency of two bargaining processes”(妥協とログロール——二つの交渉過程の効率の比較)。ただしこの報告は当時の誌面の短報欄に載ったもので、出版社の記事頁に要旨の欄そのものがありません。効率の差がどれほどだったのかを、この号は書けません。全文まで読めたのは6点のうち0点です。読めていないものについては書きません。
01最適な結果へ行く道は、二本あった。2003年の研究は、二人組の話し合いに出てきた手と成果の並びを数え上げました。結論は“optimum outcomes result from (a) multi-issue offers and indirect information under an individualistic orientation and (b) reciprocity and direct information under a cooperative orientation”(最適な成果は、個人主義的な構えのもとでは複数争点の提案と間接的な情報から、協力的な構えのもとでは返報と率直な情報から生まれる)。効いていたのは構えの善し悪しではなく、構えと進め方の組み合わせでした。
02同時に考えるほうが、成果の質は高かった。1993年の研究は、4人1組で複数の争点を交渉する場を作りました。研究1(n=84。84の単位が人か組かは、読めた要旨に印字がありません)では、協調的な志向と、争点を一つずつではなく同時に考えることの両方が、成果の質を上げました。同時に考えるほうは、合意に至る見込みも高めています。研究2では、同時に考えた集団のほうが情報の交換が多く、相手の優先順位への洞察が深いという違いが出ました。
03いちばん統合的な解は、硬さと重なっていた。1975年の二つの研究は、174名の男性の学部生が二人組で交渉する場面を扱いました。分け合いに寄った進め方は共同の利益を下げ、試行錯誤で探る型と情報を交換する型は上げた——後者は認知的な複雑さが高い人が取ったときに、と報告されています。そして問題解決の構えで入った二人組が、その構えと“together with high and somewhat inflexible limits or levels of aspiration”(高く、やや動かしにくい限界ないし願望水準と併せて)を持っていたとき、最も統合的な解が作られたようだ、と結ばれています。

束ねる争点がそろっていても、広がるとは限りません。ここから先は研究が示した結果ではなく、記録の単位を決めてみるためにALIFEが提案する読み筋です。手がかりは、話の中身よりも、書き出した争点の数と並び方のほうに出ます。
01争点が、一つしか出てこない。価格だけ、金額だけ。書き出してみて一つしか出てこないなら、束ねて交換する材料がそもそもありません。読めた報告で広がりの材料になっていたのは、複数の争点と、そこに付いた優先順位の違いでした。争点が一つきりの話は、広げる余地の乏しい話だという発見になります。
02やわらかさだけが、美徳になっている。相手のことも考える構えは、二本のうちの一本です。2003年の研究では、自分の取り分を見ている二人組も、複数の争点をまとめて出し、優先順位の手がかりを間接的に差し出す並びのときに、共同の利得を上げていました。やわらかい構えだけを正解として書きつけていないか、自分の記録を見返します。
03分け方の話が、まだ来ていない。『みんなで得をしよう』で場がまるく収まっているとき、まだ分配の詰めが来ていないだけかもしれません。2004年の研究が結語に置いたのは、価値を創る面と取る面の緊張でした。いま自分はどちらの話をしている最中なのか、記録に印をつけておきます。

標本の印字があったのは、読めた6点のうち1点だけです。1975年の研究の、174名の男性の学部生。ほかは、得点が集計される交渉の場、という以上のことが読めた要旨に書かれていません。1993年の研究は4人1組、ほかは二人組で、場の作りも違います。日本の商いや個人の揉めごとで同じ形が同じように働くかどうかは、ここからは言えません。
1970年の短い報告には、原典の側に要旨がありません。効率の差の大きさは、この号では書けないままです。統合的合意の作られ方を論じた編著の章も1982年に出ていますが(二人の著者・151-181頁)、本文に到達していないため、そこに並ぶ型の中身は書きません。読めたのは、書誌のところまでです。
やわらかさは、
二本のうちの一本だった。
2004年の研究は、交渉する二人組の両方の感情知能(EI)——自分と相手の気持ちを読み、扱う力——を測りました。感情知能の高い本人は、交渉の体験をより肯定的に報告した一方で、相手より客観的な得点が有意に低くなっていました。逆に、相手の感情知能が高いことは、自分の客観的な利得が大きいことを予測しています。著者はこれを、価値を創ることと取ることの緊張として論じました。ここで測られたのは感情知能という力であって、「win-winを目指す意図の強さ」ではありません。
TRY IT TODAY
- 01DATE
今日の日付を書き、直近の、またはこれからの交渉を一つだけ書き出す。
- 02WRITE
その一件で話し合う項目を、一つに絞らずできるだけ多く書き出す。価格だけでなく、納期・量・支払い条件・期間・範囲・あとの対応など。
- 03MARK
それぞれに自分にとっての優先順位(高・中・低)を付け、書けた項目の数と、低を付けた項目の数を記録の最後に書き添える。
この号が運べたのは、二段です。最適な結果へ行く道は一本ではなく、構えと進め方の組み合わせのほうに結びついていた。そして、価値を創ることと取ることは、同じ人のなかで引っぱり合っている。「必ずwin-win」という続きを支える報告は、読めた範囲にはありませんでした。
広げる手と、取り分を守る芯。片方だけを美徳にすると、もう片方で払うことになります。次に見るのは、その机の上に出てくる感情のほう——怒りや落胆がどう働くと報告されてきたか、です。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「パイを広げて合意するには?」を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。