IN LEGAL NEGOTIATION · ISSUE 467
● 12 SEC「代替案さえ持っていれば、それだけで強く出られる」。掛け合いの備えの話は、たいていここで終わります。では、その「強く出られる」は、どこで、何と比べて測られたのでしょうか。なお、弱い逃げ場を強く見せる言い方は、この号では扱いません。
2005年に出た比較は、力の源を二つに分けました。自分の逃げ場(代替案)と、自分が相手にとってどれだけ値打ちがあるか(貢献)です。結果は、どちらかの勝ちではありませんでした。折り合える幅が小さいときは逃げ場のほうが、大きいときは値打ちのほうが、取り分の分かれ方と強く結びついていた——強いほうは、幅で入れ替わっていたのです。
代替案(BATNA)とは、いまの話がまとまらなかったときに自分が取る、最善の別の手のことです。別の相手、別のやり方、今のまま続ける——どれも代替案にあたります。これが決まると「ここより下では受けない」という自分の線(留保値)が決まり、その線と相手の線のあいだに、折り合える幅ができます。順番でいえば、幅の話より代替案の話のほうが先に来ます。

ここから先で使うのは、ペアを組ませた模擬の交渉で測られた比較です。この号が読めたのは6点のうち5点の公式の要旨までで、原文の全体まで読めたものはありません。読めていない範囲については書きません。
01折り合える幅で、強いほうが入れ替わった。2005年の比較は、力の源を自分の逃げ場と、相手にとっての自分の値打ちに分け、折り合える幅の大小ごとに取り分の分かれ方と突き合わせています。“an advantage in contributions exerted a stronger effect on resource allocations than BATNAs when the bargaining zone was large”(折り合える幅が大きいとき、値打ちでの優位のほうが、逃げ場よりも取り分の分かれ方に強く働いた)。幅が小さいときは、逆の向きでした。どちらが効くかが、幅で入れ替わるのです。
02片方だけが抜けられるとき、二人の取り分は低かった。2000年の研究は、交渉から抜けて別の相手と始められる選択肢を、無し・片方だけ・両方の3通りで比べました。商学系の学生の対面の模擬です。片方だけが持ったペアは取り合いが増え、共同の取り分が低いほうへ寄りました。ただし、限定つきです——“this effect occurred only under an egoistic rather than a prosocial motive”(この効果は、相手も考える構えではなく、自分を優先する構えのときにだけ起きた)。両方が持ったペアと、持たないペアに差はありませんでした。
03逃げ場に目標が重なると、まとまらない率も上がった。1996年の研究は、代替案そのもの・具体的な目標・「自分はやれる」という手応え(自己効力感)の3つを、単独と組み合わせで比べています。8通りのうち6通りで、個人の取り分は高いほうへ動きました。ただし、続けて代償も書かれています——“An alternative coupled with a goal or self-efficacy resulted in a higher percent of dyadic outcomes and higher impasse rates”(代替案に目標か手応えが重なると、二人ぶんの取り分に占める割合は高くなり、まとまらずに終わる率も高くなった)。上がったのは、取り分だけではありません。

ここから先は研究が示した結果ではなく、自分の手元を数えてみるためにALIFEが提案する読み筋です。手がかりは、逃げ場の数え方のほうに出ます。
01まだ返事の来ていないあてを、一つに数えている。2014年に出た一章は、実現するかどうかがはっきりしない代替案を「幻の代替案」と名づけました。そのうえで、手に入るかどうか(確かか、不確かか)と、実現する見込み(0%から100%まで)の二つで分類する枠組みを示しています。査読誌の論文ではなく叢書の一章で、ここで何かが測られたわけではありません。
02同じあてを、言い方だけ変えている。同じ一章は、まったく同じ逃げ場の情報でも、件数で示すか割合で示すかで、力の判断が変わりうると論じています——“can influence judgments of power in negotiation”(交渉における力の判断に影響しうる)。論として提示された見通しであって、そこに実験の結果があるわけではありません。
03力の源を、一つしか数えていない。2005年に出たもう一本は、交渉の力を四つの成分——まだ使っていない力・そう見えている力・実際に使う手・結果として実現した力——に切り分ける枠組みを提案しました。こちらは理論を整理した論文で、データを持ちません。それでも、源を逃げ場だけで数えると、立ち位置の読みが粗くなることは言えます。

測られたのは、どれもペアを組ませた模擬の交渉です。2000年の研究の参加者は商学系の学生で、対面のやりとりを録音して書き起こしたものでした。2005年の比較も1996年の研究も、同じく模擬の場です。値段や条件を実際に掛け合う日本の商いや、個人の揉めごとで同じ向きが出るかどうかは、ここからは言えません。
そして、この号がいちばん引きたかったのは1994年の研究でした。題名は「二者間交渉における、まとまらなかったときの選択肢の影響」。けれども中身は、書誌より先へ読めていません。だから「より良い逃げ場を持つ側が、より良い成果を得る」という実証を、この研究に負わせることはしません。題名を紹介するところまでが、この号の範囲です。
模擬の場で幅が大きいとき、
強く働いたのは逃げ場ではなかった。
「あてがある」という気分と、「あては本当にある」という事実は、別々に確かめられます。ここまでの比較が測っていたのは、後者のほうでした。前者を数えた記録は、読めた範囲の中にはありません——それは、気分に効き目が無いという証明ではなく、まだ測られていないという状態です。
TRY IT TODAY
- 01DATE
今日の日付を書き、これから予定している掛け合いか、直近に終わった掛け合いを一つだけ書き出す。
- 02SORT
「まとまらなかったら自分はどうするか」を思いつくだけ並べ、一つずつに「今すぐ実行できる」か「まだ不確か(返事待ち・条件未定)」かの印をつける。
- 03COUNT
確かな数と不確かな数をそれぞれ数え、最後に「自分は相手にとってどんな値打ちがあるか」を一つ書き足す。
代替案は、折り合える幅の端を決める、備えの起点ではあります。そこまでは、ここまでの比較も支えています。支えていないのは、その先——逃げ場さえあれば強く出られる、という一続きの物語のほうでした。幅が大きいときに強く働いたのは相手にとっての自分の値打ちで、逃げ場に目標や手応えが重なったペアは、まとまらずに終わる率も高いほうへ動いていました。
次の号は、立場ではなく利害で話す構えへ進みます。その手前で数えられるのは、あてがいくつあるかではなく、そのうちいくつが確かかのほうです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「代替案を持って臨むには?」を、もっと深く学ぶ。→
