IN LEGAL NEGOTIATION · ISSUE 466
● 12 SEC「自分と相手の引き際を線で引き、合意できる幅を図にすれば、落とし所が見える」。交渉の教えは、そう勧めます。では、線を引く前の見立てのほうは、どこかで測られたのでしょうか。
分配型の模擬交渉を使った2007年の研究は、こう報告しました。“underestimate the size of the bargaining zone … and, by implication, overestimate the share of the surplus they claim”(合意できる幅の大きさを小さく見積もり、その帰結として、自分が取った取り分の割合を過大に見積もる)。著者稿の後半の三つの研究では、平均的な交渉者は自分はパイの56〜72%を取ったと思いながら席を立っていました。パイとは、分け合う取り分の全体のことです。
合意できる幅(ZOPA)とは、双方が受け入れると思える条件の重なりのことです。自分の引き際と相手の引き際のあいだにある隙間、と言い換えてもいい。図にすれば落とし所が見える、と言われます。ただし、その線の位置を決めるのは見積もりです。測られてきたのは、線そのものではなく、線を引く人の見立てのほうでした。

この号が全文まで読めたのは6点のうち2点で、残りは公式の要旨までです。読めていないものについては書きません。相手から利害を引き出す話し方も、ここには出てきません。扱うのは、自分の頭のほうです。
01対立していると予想して、席に着いていた。1990年の論文は、交渉の場での相手の見方を二つの研究で調べています。“most negotiators enter negotiation expecting the other party's interests to be completely opposed to their own”(多くの交渉者は、相手の利害が自分のそれと完全に対立していると予想して交渉に入る)。同じ論文は、利害がそもそも完全に一致しているのに気づかない人も相当数いたと報告し、対立の思い込みと一致の見落としは互いに無関係な別の誤りだと書いています。標本は要旨に印字がありません。
02説明を求められた側で、思い込みは減っていた。2000年の論文は、二つの実験で、交渉のやり方について説明を求められるかどうかを操作しました。“accountability reduced FPPs during face-to-face negotiation and produced more integrative agreements”(説明責任は、対面の交渉のあいだ固定パイ知覚を減らし、より統合的な合意を生んだ)。第二の実験では、やりとりされる情報の量を一定に保っても、見直しは起きていました。
03頭の中の見取り図の調整が、間に立っていた。中国の大学に通う学部生256名が、印刷契約をめぐる模擬の交渉に参加した研究があります。頭の中の見取り図(メンタルモデル)の調整が、固定パイの偏りの減り方との間に立っていました。ただし条件は二重につきます——“but only under a high accountability condition”(ただし、説明責任が高い条件のときにだけ)。身内の相手と交渉するときのほうが偏りは減りにくく、それが見えたのは高い条件でのみでした。

ここから先は研究が示した結果ではなく、記録の単位を決めてみるためにALIFEが提案する読み筋です。手がかりは、線を引くときの手つきのほうに出ます。
01切り出すつもりの額を、軽く見ている。経験ある管理職384名が192回の売り手と買い手の模擬価格交渉を行った研究では、“More than 57% of the variance in negotiation outcome can be explained by two reference points”(交渉結果のばらつきの57%超は、二つの基準点で説明できる)と報告されました。その二つとは、買い手と売り手がいくらで切り出すつもりかです。57%は説明の量であって、残りの内訳を語るものではありません。
02相手の限界を、読めていると思っている。分配型の模擬の駆け引きを使った二つの研究では、交渉者は総じて相手はもっと譲れると見る楽観の側へ偏っており、その楽観は妥結の有利さと正の相関を示しました。“Optimism did not increase the likelihood of impasse in either study”(楽観は、どちらの研究でも決裂の起きやすさを高めなかった)。関係の悪化も増えていません。楽観に構えれば有利だ、という話ではありません。
03幅の内側の見立てだけが、生き残っている。2007年の論文は、機序をこう説明します。相手の引き際についての最初の見積もりが合意できる幅の内側にある人は、その見積もりどおりに振る舞い、見立ては自分で自分を実現してしまう。外側にある人だけが、強い反証に出会って見方を改める。改まるのが片側だけなら、集団としての偏りは残ります。

数えられたのは、対面の模擬交渉と分配型の駆け引き、売り手と買い手の模擬価格交渉、そして印刷契約の模擬交渉でした。標本が印字されていたものに限れば、参加したのは受講生と学部生、それに経験ある管理職です。自分の値段の掛け合いや揉めごとで同じことが起きるかどうかは、ここからは言えません。実際に取れた額が小さくなったことを測った記録も、読めた範囲にはありません——測られていたのは、思い込みのほうです。
向きも一つではありません。合意できる幅を小さく見積もる偏りが報告される一方で、相手の譲歩の余地を多めに見積もる楽観のほうは、妥結の有利さと結びついていました。二つは別の判断について、別の設計で測られたものです。同じ結論に束ねられません。
線を引く前に、
対立のほうが見積もられていた。
「落とし所」という言い方が指しているのは、たいてい線の位置のほうです。いっぽう、ここまで測られていたのは、線を引く人の見立てでした。図が正しい位置にあるかどうかは、図を描いたこととは別に確かめるしかありません——読めた範囲では、そうでした。
TRY IT TODAY
- 01DATE
今日の日付を書き、これから予定している(または直近の)掛け合いで、争点になりそうなことを一つだけ書き出す。
- 02SORT
それが「一つの数字の奪い合い」か「重く見るところが違い、交換の余地がある」か、自分の見立てを書き分ける。
- 03LIST
交換の余地があるほうに分けたなら、自分が譲ってよい要素と、代わりに得たい要素を並べて書く。
対立していると予想して席に着き、説明を求められた側でその予想は減り、切り出すつもりの額が結果のばらつきの半分以上を説明していた——模擬の場で測られたのは、ここまでです。
そして自分の引き際の線は、まとまらなかったときに別の当てがあるかどうかで動きます。次の号が据えにいくのは、その当て——代替案(BATNA)そのものです。だからこの図は、いまはまだ下書きでいい。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「落とし所を設計するには?」を、もっと深く学ぶ。→
