IN LEGAL EXECUTION · ISSUE 464
● 12 SEC「法務は、守りだけの部門ではない。発想を変えれば、攻めの武器になる」。この群の最後に置かれているのは、この言い方です。では、その変身は、どこかで測られたのでしょうか。
2010年に出た分析は、米国の大気浄化法の対象となる産業施設が、自分たちで決めた約束をどんなときに実行したかを、1993年から2003年の記録で調べています。実行が進んでいたのは、監視が重く、しかも明示的な制裁の威嚇が無いときでした。同じ分析は、自主的な取り組みは罰で抑える従来の執行に取って代わることはできない、とも書いています。
自主規制(self-regulation)とは、法が命じるより先に、自分たちで基準を決めて守る取り組みのことです。掲げるところまでは、比較的たやすい。難しいのは、掲げたあとに本当に実行されたかどうかのほうです。2010年の分析は、残された記録をさかのぼる形で、その実行の度合いを条件ごとに見ています。割り付けた実験ではなく、観察です。

この分析が並べているのは、取り組みを後押しする側の所見と、それを押し戻す側の所見の両方です。この号が読めたのは公式の要旨と、一章ぶんの断片まで——原文の全体まで読めた原典は、6点のうち1点もありません。読めていない範囲については書きません。
01監視が重く、威嚇が無いときに進んでいた。2010年の分析が実行の度合いと結びつけたのは、二つの条件でした。“when they (and their competitors) are subject to heavy regulatory surveillance and when they adopt self-regulation in the absence of an explicit threat of sanctions”(自社と競合が重い規制の監視下にあるとき、そして明示的な制裁の威嚇が無いなかで自主規制を採ったとき)。監視の重さは実行と結びつき、明示的な制裁の威嚇のほうは、無いときに実行と結びついていました。条件は二つそろっての話です。
02守れていなかった側ほど、実行に移していなかった。同じ分析は、押し戻す側の所見も書いています。“historically poor compliers are significantly less likely to follow through on their commitments to self-regulate”(過去に遵守が芳しくなかった側ほど、自主規制の約束を実行に移す度合いが有意に低い)。有意とは、偶然のぶれでは説明しにくい差、という意味です。著者はここから、苦しい組織を立て直す手立てとして自主規制を使うことには大きな限界がある、と書いています。
03取り締まりの代わりには、ならなかった。結論の文は、二つを同じ文に並べています。自主規制は規制される側の規範的な動機を引き出す有用な道具になりうる、“but that it cannot replace traditional deterrence-based enforcement”(しかしそれは、罰で抑える従来の執行に取って代わることはできない)。道具としては有用、代役としては不可。対象は米国の産業施設で、日本の事業者の義務の話ではありません。

自分がいま、どちら側の話をしているのか。ここから先は研究が示した結果ではなく、記録の単位を決めてみるためにALIFEが提案する読み筋です。手がかりは、日ごろの言い方のほうに出ます。
01守りの仕事を、無かったことにしている。1996年の研究は、米国カリフォルニア州のシリコンバレーで聞き取りを行い、彼らが取引をこじらせるどころか、新興企業の資金調達の不確実性を吸い取り、抑え、未然にそらしていると描きました。地域と市場を限った事例研究です。現れなかったものは、成果の欄にも現れません。
02役割は一つだと思っている。2000年の研究は、米国の大企業の社内弁護士と管理職への深い聞き取りから、三つの型を取り出しました——助言を法的な要請の範囲に限る型、法と事業の助言を組み合わせる型、事業の目標を優先する型です。ただし原典は、“inside counsel retain their professional identities as lawyers and rarely express an interest in moving into corporate management”(社内弁護士は弁護士としての職業上のアイデンティティを保ち、経営側へ移ることへの関心を示すことは稀である)とも報告しています。
03測れば分かる、と思っている。2009年の総説は、規制が多元的で中心を持たない状況では、遵守という概念をどう定義し、どう測れる形に落とすかそのものが難しい、と整理しました。実証研究のやり方を見渡し、強みと弱みを検討したレビューです。効き目が見えないことと、効き目が無いことは、同じではありません。

数えられたのは、米国の大気浄化法の対象となる産業施設の実行の度合い(1993年から2003年)、米国の大企業の社内弁護士の役割、カリフォルニア州の一地域の資金調達の市場、そしてパルプ・製紙という一つの産業の環境保護でした。法域も、規模も、業種も限られています。日本の小さな商いで同じ条件が同じように働くかどうかは、ここからは言えません。
2004年の研究が扱ったのは、法が求める以上のことをする動機です。それは“the interplay between social pressures and economic constraints”(社会的な圧力と経済的な制約の相互作用)で説明できる、と報告されました。2011年の一章は、遵守の意味が組織の側で作られうることを論じていますが、この号が読めたのは断片まで、素材も雇用差別法と消費者保証法に限られます。単独の根拠にはしていません。
米国の施設で測られたのは、
約束が実行される条件のほうだった。
「武器になる」という言い方が指しているのは、たいていこれから起きることのほうです。いっぽう、ここまでの記録が測っていたのは、すでに起きたことでした。効き目を示す数字が見つからないとき、それは効き目が無いという証明ではなく、まだ測られていないという状態です——読めた範囲では、そうでした。
TRY IT TODAY
- 01DATE
今日の日付を書き、自分の商いで、もめずに済んだ場面を一つだけ書き出す。
- 02SORT
その場面にあったものを、「書いたもの」「言ったこと」「残した記録」の三つに分ける。
- 03COUNT
分けられた件数と、どれにも入らなかった件数を数え、記録の最後に書く。
測られていたのは、守りの側の条件でした。監視が重く威嚇が無いときに約束は実行され、過去に守れていなかった側ほど実行は進まず、自主的な取り組みは罰で抑える執行の代わりにはならなかった——米国の施設の記録が言っているのは、ここまでです。攻めに変わったかどうかを測った記録は、この号が読めた6点の範囲にはありません。
だから、この群は入口へ戻ります。最初の号が見ていたのは、米国の消費者向け約款が七年のあいだに売り手寄りへ動いていた、という話でした。攻めは、守りの上にしか立たない——そう読むなら、次に数えるのは、自分の約束事がどう書かれ、どう残っているかのほうです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「法務を武器に変えるには?」を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

