IN LEGAL EXECUTION · ISSUE 463
● 12 SEC「顧問がいれば安心」。よく聞く言い方です。けれど、いることと、必要なときに必要な相談ができていることは、同じではありません。研究のほうが数えてきたのは、後者でした。
2016年に出た国際比較の論文は、1990年代の半ば以降に少なくとも15の法域で、少なくとも28件の全国調査が行われたと書いています。そこには日本の調査も3件、入っていました。そしてこの論文がまず警告したのは、国ごとの順位ではありません。
弁護士の利用(Using a lawyer)は、これらの調査では「抱えているかどうか」ではなく、「法的な問題を経験したとき、実際に専門家を使ったかどうか」として数えられてきました。2016年の論文の表に並んだ26件では、問題を解決するために弁護士を使ったと答えた割合は4%から29%まで開いています。1件以上の問題を経験したと答えた人の割合のほうも、19%から67%まで開いていました。いずれも調査ごとの値で、割合の分母は、弁護士を抱えている人ではなく、問題を経験したと答えた人のほうです。

この幅を、そのまま「国ごとの差」として読むことを、論文自身が止めています。調査ごとに、誰にどう尋ねたか、どの期間のどんな問題を聞いたかが違うからです。設計と実施の仕方が別々の、日本の3件の調査が、その一例です。
01同じ国の三年で、数字は大きく動いた。2016年の論文の表には、日本の全国調査が3件並んでいます。2005年の調査(回答12,408人)は、1件以上の問題を経験したと答えた人が19%、そのうち弁護士を使ったと答えたのが12%。2006年の調査(5,330人)は37%と4%。2007年の調査(5,500人)は55%で、弁護士利用は記載なし。同じ国の連続する三年で、これだけ動いています。
02所得と利用の関係は、七か国で弱かった。2008年の論文は、米国・イングランドとウェールズ・カナダ・オーストラリア・ニュージーランド・オランダ・日本の7か国のデータで、所得と法律専門家の利用の関係を調べています。結果は7か国で一貫していて、“income has relatively little relationship with the decision to use a legal professional”(所得は、法律専門家を使うという決定とほとんど関係しない)。著者は、決め手はむしろ紛争の性質のほうだと書いています。到達は公式の要旨までです。
03法がいちばん動いたのは、いちばん苦しい地域だった。2007年の論文は、中国の農村6省・約3,000世帯(2002年)の調査から、苦情と公式の司法への申立ての量が、地域の条件と家族の資源で大きく違うと報告しました。しかも、法と経済発展が結びつくという予想とは逆に(“in contrast to classical theoretical expectations”)、法がもっとも動員されたのは、もっとも困窮した地域でした。役人とつながりのある家族ほど苦情を経験しにくい、という結果も併せて出ています。中国農村の標本です。

自分がどちら側にいるのか。それは、数え方の取り違えとして日常の言い方に出ます。手がかりは三つあります。
01「いる」を「使えている」と数えている。顧問がいるという状態は、用意があることを指します。調査が数えたのは用意の有無ではなく、問題を経験したときに実際に使ったかどうかでした。表に並んだ26件で4%から29%に開いていたのは、後者の割合です。前者を後者の代わりに数えていないか——というのが、この号の読み筋です。
02相談しない理由を、費用だけで説明している。7か国のデータでは、所得と法律専門家の利用の結びつきは弱いほうでした。同じ論文は、弁護士を雇える人も、資源の限られた人とほぼ同じ割合で雇わないという選択をしていたと書いています。費用の一語で片づけると、著者がより大きいとした紛争の性質のほうが、視界から外れます。
03国ごとの数字を、そのまま並べている。2016年の論文は、調査ごとに標本の作り方も、尋ね方も、どの問題を聞くかも違うと書いています。ある国の調査の回答者は無作為の標本ではなく、インターネットを使える人たちだった、という例も挙げられていました。見出しの数字を法域どうしで比べることが有益かどうかは疑わしい、というのが論文の立場です。

日本の弁護士の人数や分布、業務の経済的な基盤については、弁護士の全国組織が年ごとの統計と実態調査を公表しています。ただしこれは団体が自ら行う調査で、査読を経た研究ではありません。この号では「公表されている」という事実だけを扱い、具体の人数や金額は書きません。
全文まで読めたのは6点のうち3点で、残る3点は公式の要旨までです。2008年に出た総説は、民事司法へのアクセスと階層・人種・性別の関係を整理したうえで、不平等を保存するように見える像が、研究者の過去の選択を部分的に反映するとも書いていました。挙げられた機序は三つ——資源と費用の不均等な分布、法や自分の経験への向き合い方、利益がどこまで制度に組み込まれているかの差です。“we often lack the information necessary to compare systematically groups’ experiences to each other”(集団どうしの経験を体系的に比べるのに必要な情報を、私たちはしばしば欠いている)。
違いがどこまで調べ方の産物なのかは、
まだ分かっていない。
2016年の論文は、そう書いています。“We simply do not know to what extent differences represent methodological artefacts.” 国際比較の表を作った当人が、その表の読み方に釘を刺している、という形です。
TRY IT TODAY
- 01PICK
「あのとき相談しておけばよかった」と思った場面を、一つだけ選んで書く。
- 02SORT
その場面を、早めに相談・様子見・自分で対応の三つのどれかに分類する。
- 03RECORD
相談するなら手元に何の書類が要るかを、思い出せるだけ書き出す。相手や事務所の名前は書かない。
28件の全国調査が数えたのは、弁護士がいるかどうかではなく、使ったかどうかでした。そのうえで、数字どうしを並べることの難しさが、論文の主題でした。持ち物の話から、いつ何を相談したかという行いの話へ。数え方がそこまで移っていることは、読めた範囲で言えます。その先、自分の場面でいつ相談すべきかは、この号ではなく、専門家との会話のなかで決まります。
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